インテリア×アート「目利きの語りごと」

光を味わう 語りかけてくるランプシェード

東京・青山で長年ギャラリーオーナーとして、多彩なアートや手仕事、作家との出会いを重ねた川崎淳与が、「目線を少し上げて心豊かな日常を」をコンセプトに、アート、工芸、ファッションなど暮らしにまつわるさまざまなこだわりと楽しみ方をご紹介します。

春ですね。新たなスタートをきった人たちを街のあちらこちらで見かけて、こちらも新鮮な気持ちになります。
ファッションは明るく優しい色が多くなり、軽やかに。インテリアも同様で、気分転換したくなるのもこの季節でしょう。
春ののどかな日差しが注ぐ部屋でくつろいでいると、改めて光がもたらしてくれる心地よさを感じます。
そう、暮らしの中で光はとても重要なポイントなのです。当たり前のように過ごす日々だけれど、ふっとしたときに気づく心地よさ。今回は、飛松弘隆さんが作る照明の話も交えながらそのようなことに触れてみたいと思います。

日差しと影が創り出す物語

私は外出をしなくていい日は、手紙を書いたり、ソファに体を預けながら本を読んだりして過ごします。
あたたかな光に満ちたリビングは居心地が良いもので、ゆったりした時間が流れ、本当にのんびりした気がします。春は季節の変わり目や節目ということもあり、穏やかな気候の割には、なんだか少しそわそわ、気ぜわしくなりがちなので、特にこのような時間を持つことを大切にしたいと思うのです。
だから、よりくつろげるように、アートやインテリアを衣替え。わが家では春になるとカーテンは薄い白のリネンガーゼのみ。光を優しく取り込みますし、日が長くなり、夜も外と内を遮断しない心地よさが私は好きです。

くつろいでいると、光が見せてくれる小さな景色にはっとさせられることがあります。
窓辺に置いたハンドメイドのガラスを通して、床に映り込んだ影。ガラス素材が持つ揺らぎに、アートのような美しさを見いだします。
また、アンティークレースの繊細さは影になって目に留まると、模様としてしっかり意識に残り、改めて手仕事の魅力に気づかされるから面白いものですね。 壁には思いがけないシルエットが映し出されていたり、動き、変形する影に時間の流れを感じたり… こうして光と遊ぶと、住まいもまた趣深く、心のゆとりにも繫がると思うのです。

磁器土の優しい灯り

さて、自然光の存在力と同じく、照明も私たちに心地よさを与えてくれるので、こだわりたいものです。
均一的に煌々と蛍光灯が照らす明るい部屋より、複数の間接照明が織りなす温かみを感じる部屋のほうが、
私は和みます。
また、天井から下がるペンダントライトは空間アクセントとして魅力的で、取り外ししやすいので、わが家では、吹きガラスやワイヤータイプなど、季節や気持ちの変化があるときに替えてそれぞれを楽しんでいます。
透光性がある磁器土にこだわり、照明を作る作家に飛松弘隆さんがいます。
蛍光灯に代わって衰退してしまった、大正時代から昭和中期のミルクガラス製のシェード。食器を作っていた飛松さんはそれを骨董市で見た時に「光のための器だ」とインパクトを受けたそうです。その後、透光性や焼き方、形など試行錯誤を重ね、今、美しいランプシェードを数々手がけています。
鋳込みを繰り返していると石膏型にキズや磨耗が出てきますが、鋳込みの世界ではその段階でその石膏の役割は終わり処分します。でも飛松さんは魂を込めて作った石膏型が成長する過程ととらえ、その形跡を味わいとして表現の一つに加えているのも特徴です。
古き良き時代のミルクガラス製シェードに影響を受けた彼の照明は、私にとって世代的にも懐かしい思い出をよみがえらせます。
その一方で今の暮らしに採り入れても、甘いレトロ感ではなく、モダンさを感じられるのが魅力だと思います。

柔らかな光と上質な時間

磁器土の照明は、灯りをつけないときは無垢な白が凛とした姿で、また、光を通すとなんともいえない柔らかい表情になり、同じ白色がここまで変化するのかと驚くほど。
飛松さんの灯りの下では、お酒をゆっくり飲みながら過ごすひとり時間もいいですし、誰かと一緒だとおしゃべりが尽きず、どちらにしてもリラックスして、つい夜を長く過ごしてしまいます。
「特別なものではなく、100年以上経ち今も存在するものには、使っていた誰かが大事にしたいと思った理由や意味がある」と飛松さんは言います。彼のシェードの佇まい、そして柔らかな光に、その豊かな心や時間が重なるから私たちは居心地良いのかもしれません。
灯りは単に部屋を明るくするだけのものではなく、暮らしの中で情緒に働きかける、とても意味のあるものです。もしかすると住まいづくりで十分に注意を払うべきところといっても過言ではないでしょう。
光の心地よさを改めて味わってみてはいかがでしょうか。

協力

飛松弘隆:磁器照明作家
1980年生まれ。佐賀県出身、東京都在住。
多摩美術大学工芸科陶プログラムを卒業。在学中の型による立体造形の経験を生かし、鋳込み型の技法による器の制作に着手。陶芸家の小川待子氏の助手等を経て独立。
「飛松灯器 tobimatsu TOKI」の屋号で磁器の鋳込みを中心とした作品を発表。
特に照明はそのフォルムと優しい光にファンが多い。
2019年12月初旬にギャルリーワッツで個展予定。
http://tobimatsu-toki.blogspot.com/