
日本が世界とつながる中で、日本の伝統文化として
外国メディアに取り上げられる機会も多い茶道。
しかし、日本の茶道人口は減少し、「茶道は難しい」と敬遠する人も多い。
大名茶人、小堀遠州に始まる遠州茶道宗家 十三世家元 小堀宗実氏は
流祖の"綺麗さび"に込められたものに思いをめぐらせ、
茶道の未来のために今何ができるのか、自らに問い続ける。
伝統芸能の家では息子が小さいときから稽古をつけるが、茶道では家によりけり。
小堀宗実氏が本格的に茶を始めたのは大学卒業後。まず菩提寺の広徳寺で1年修行し、
その後は父の先代がやることなすことを見つめることが稽古であった。
初めて客席で父の動きを見たのは、今の場所に越して父が最初に茶事をする前日、家族をお客として招いたときでした。試運転を兼ねてのものでしたが、一緒に頑張ってきた母への感謝、やがて家元を継承する息子に見せたいという気持ちあったでしょう。
自分で初めて茶事をしたのはその四年後、家元を継承する前年です。家元になる試験を受けるような気持ちで、父と母を招待しました。以後、自分の力量を確認したいときには、お客様として父を迎えました。 一番緊張するというか、集中するお客様でした。私としては、半分もてなし、半分勝負という気持ちがあるわけです。最初のうちは、お花にしても「一枝多いかな」という表現で意見されましたが、「一枝」が 難しいところなんですよ。何も言わないのは、父の求める水準でできた、ということ。父が使った道具を違う使い方で出して「うまいやり方を考えましたね」と言われるのは、最高に嬉しい言葉でした。
師の振る舞いを見て習い、先人の遺したものに直接ふれて感じる。
それが茶道の学びに最も重要であることを身をもって知る小堀宗実氏は
だからこそ知を言葉にする努力が、茶道を二十二世紀に伝えるために必要だと考える。
茶道の世界では、自分の目で選んだものを通して、何代も前の人に同じ感性を発見することがあります。自分が考えてやったことを、先祖がすでにやっていたと知ると驚きますが、とても大きな喜びを感じます。ものをつくる人間は、せめて百年後、どういう風に喜ばれるかを考えなくてはいけないでしょう。
百年後、日本の国が残っているなら、当然茶道も残っていてほしい。そのために今できることとして、茶道を言葉にして残す工夫が大事だと思っています。今の稽古は正しい手順を覚えてもらうだけになりがちです。でも、こう動いた次になぜこうするのか、理由を伝える努力を指導する側がしていかないと、見えない部分に隠されている思いが誰にもわからなくなってしまいます。
文章にすることで、自分が本当に理解できているかどうか、わかる部分もあります。他人に伝わらない文章しか書けないときは、結局自分がわかっていないんですよ。
小堀宗実氏は家元を継承して以来、『遠州流茶道こども塾』と『こども茶会』を全国で開催している。
「幼稚園児に教えても忘れるだけ」と言う人もいるが、こどもだからこそ、
そのとき感じたことをいつか何かの形で役立ててくてる、と信じている。
こども塾やこども茶会では、「お先ににいただきます」「大変けっこうです」「ごちそうさまでした」の3つの挨拶を覚えましょう、と言っています。
「お先にいただきます」は、自分以外の人を大切に思う気持ちを表します。 「大変けっこうです」は、おいしいですね、ありがとうという気持ちをこめて言います。そして、「ごちそうさまでした」は、お茶を点てた人だけでなく、関わっているすべての人に感謝する言葉です。小さい子どもに限らず、この三つの挨拶を身につけることで、素直に気持ちを表現したり、自分を支えてくれるすべてに感謝する気持ちが育てっていきます。美しい言葉はふだんから使っていると、使う人の心を育てていくということがあると思うのです。
茶道はただお茶を飲むだけのようですが、伝えられてきた形の中には心があります。その心を伝えることをしっかりやることが、今の世代の役目だと思います。
茶道の世界では、
たった三つの挨拶にも、
先人の知恵がこめられている。
こどもや外国人の指導に
積極的な小堀宗実氏は、
その知恵を世界が共有する未来を
目指している。(了)