2020年度のグッドデザイン賞を受賞した大和ハウス工業の「プレミスト志村三丁目」。敷地内に隣接した公共の空間を引き込み、地域に開かれた交流の場として生まれ変わらせるという試みが、これからの街づくりの新たな可能性を示唆するプロジェクトとして、大きな評価をいただきました。「地域に喜んで迎えられるマンションを提供することが、そこに永く住まう方々の幸せになる」と語るのは、企画担当者の倉持潤。倉持が取り組んだ人と人の心をつなぐ住まいづくりについてお伝えします。
閉鎖された暗渠を、にぎわいで溢れる遊歩道に
東京都板橋区のほぼ中央に位置する志村坂下エリアは、1954年に都営三田線「志村三丁目」駅から「蓮根」駅にかけて大規模な土地区画整理が実施されて以来、人々が暮らしやすい住宅街として確かな歴史を歩んできました。見通しがよくゆったりとした道路や安心して遊べる公園や広場が整備され、生活の利便性を支えるスポットや、教育施設などが集まる地域。2020年3月、芝浦工業大学附属中学高等学校の跡地に誕生した「プレミスト志村三丁目」は、地上12階建て・284戸の大規模な住宅棟と地上2階建ての共用棟、そして2つの建物の間に伸びる遊歩道が美しく調和しながら、地域へと開かれたイメージを醸成しています。
この景観が生まれた背景には、敷地が持つ大きな特徴がありました。
プロジェクトがまず考えたのは、暗渠を遊歩道に整備し、広く一般に開放することでした。
倉持:「本来、暗渠は、自治体が管理する公共のスペースです。以前この地に建っていた芝浦工業大学附属中学高等学校では暗渠を区から借りる形で占有し、敷地の周りをぐるりと塀で囲んで関係者以外が入れないようになっていました。学校ではその閉鎖性が安心感につながっていましたが、住宅として新しく生まれ変わる今、公共のものとして多くの人に使ってもらえるようなものにするべきだという思いがありましたね。
蓮根川は、大正時代には稲作や生活用水として使われ、フナやザリガニが生息する子どもの遊び場でもある、いわば人々の暮らしに寄り添ってきた場所。歴史に敬意を払いながら、この暗渠を誰もが通れる場所として活用することで、地域がにぎわいを取り戻すきっかけになればと考えました。あらためて区と景観について協議を重ねた結果、マンション敷地と暗渠を大和ハウス工業が一体で整備し、暗渠は遊歩道にして区にお返しし、管理していただくことになったのです」
遊歩道×共用棟で、
住民と近隣の交流を生み出す
しかし、敷地の間を貫道する暗渠を遊歩道として整備するだけでは、にぎわいは生まれません。そこでもう一つの方法として生み出されたのが、住宅棟から遊歩道を挟んだ西側の敷地にシェアLDK”HANARE”(共用棟)を配置することでした。
交差で生まれる人々のにぎわいを後押しするため、遊歩道にもさまざまなアイデアを施しました。
遊歩道を取り込みデザインを統一、
景観を一体化する
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大和ハウス工業が遊歩道を含む敷地全体を開発したのは、デザインに統一感を持たせてゆとりある居住区としての景観を創り上げたい、というこだわりでもありました。
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倉持:「建物をはじめ、敷地内にあるものはすべて横のラインが強調された水平的なイメージで統一し、使う色や素材をリンクさせています。ただ、遊歩道は区が管理するために敷地との境界を明確にする必要がありました。そこでマンション敷地と遊歩道の色調や模様を微妙に変化させ、調和しながらも違いがわかるようなデザインになっています」
倉持:「シェアLDK”HANARE”(共用棟)は、敷地外からも中が見えるようにしました。遊歩道だけでなく外の道路を通る方にも使っている様子が見え、
“ここは何だろう” と興味をもっていただけるようなデザインになるよう、デザイナーと頭を捻りました。
フランク・ロイド・ライトの「落水荘」をイメージしたというシェアLDK”HANARE”(共用棟)。水平を意識した開放的なデザイン
“シェアLDK”というご提案をしているのですが、ご自宅の第2のリビング・ダイニングのように自然発生的に人が集まり、自由な使い方をしていただけるよう、あえて空間を区切らないようにしています。ここで遊んでいた子どもたちが大きくなって勉強に使うようになり、さらに仕事で利用するようになり、趣味のサークルでも集まる…という風に、人の成長とともに変化する使い方にも、永く対応できるような設えになっています」
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エントランスホールは、軽やかな建物全体のイメージを引き締めるよう大きな空間に。窓面にあるルーバーは日差しを柔らかくして室内に取り込みます。壁や床にタイルを使用するなど、重みや安心感のあるホテルのような仕様に仕上げました。敷地内が開放的なので、オートロックでセキュリティを確保していますが、デザイン的にも居住者様以外は入れないような佇まいにしています」
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住宅棟 エントランスホール
また、居住者様はもちろん、近隣の方々にも楽しんでいただけるよう、さまざまな設備やモニュメントを、敷地内に配置しています。
倉持:「プレミスト志村三丁目は、企画設計を長谷工コーポレーションの西山隆さんに、デザインをプランテック総合計画事務所の大江太人さんにお願いしました。シンプルで美しく細やかなディテールに大変こだわったデザイン、生活に必要なデザインをしっかりと考えてくださること、地域に寄与するという考え方、そして今までにないものを創っていこうという取り組みに、大変共感しながらプロジェクトを遂行することができました。暗渠を活用した取り組みには前例が見つからなかったため、行政と何度も打ち合わせをさせていただきましたが、今後公共施設を整備される際にも参考にしていただけるような、新しい街づくりの形をご提案できたのではないかと思います」
これから生まれる新たな交流や
住まい方に想いを馳せて
「プレミスト志村三丁目」の始動から、どんな風景が生まれていくのでしょうか。倉持は言います。
倉持:「プランニングを始めた時から、遊歩道が「昔の路地裏」のように人が集まる場所になればいいと思っていました。子どもたちが自転車の練習をしたり、住まわれている方が井戸端会議をしたり、その横を仕事帰りの人が通りがかって言葉を交わす。これからさまざまな人が数多く集まり、にぎわってくれればという思いがありますね。
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また、竣工後に現地を訪れた時に、コロナ禍で居住者様がシェアLDK”HANARE”(共用棟)でお仕事をされているところを目の当たりにし、“この施設を作ってよかった”と改めて感じました。当初は働き方改革によるリモートワークの増加を予測して共用棟を設計しましたが、コロナ禍でリモート化が一気に進みました。このように大きく変化する時代の中で、自分たちで使い方を考えられるような空間が、これからますます求められていくのではないかと思います。今はもう建物が完成しており、お住まいの方がいらっしゃるので、実際に使用されている例を見ることができます。これから住んでくださる方にもご自身でシェアLDK”HANARE”(共用棟)の使い方を自由に見つけていっていただきたいですね」
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※掲載の竣工写真は、2020年3月に撮影したものです。