東京を代表する街、新宿。副都心というだけに、その表情はまさに日々変わり、日本の動向そのものと言っていい。
都庁や歌舞伎町など名の知れた場所が存在している。四谷や千駄ヶ谷には、個性溢れるスポットが多く、そのなかにエアポケット的に存在するのが荒木町だ。
時間の流れがここだけゆったりと流れ、その中に身をゆだねてみればなんとも心地よい。
この「隠れ家感」が漂う街を、雑誌「男の隠れ家」目線で紹介していく。
都内に住んでいる人でも荒木町の名を耳にしたことがないかもしれない。場所は四谷三丁目の近く。
靖国通りと外苑東通りに挟まれた三角エリアが、荒木町と呼ばれている。このあたりは、今となっては想像すらつかないが、江戸時代の松平摂津守の屋敷があるなど、緑に溢れ、池や滝があったという。風光明媚ゆえ、明治時代には「お江戸の箱根」と呼ばれ、花見や滝見の人々でにぎわった場所だ。その賑わいが、花街の発展へとつながっていく。
新宿の花街といえば、同じ新宿の神楽坂が思い浮かぶが、神楽坂が観光地化しているのに対して、荒木町は落ち着いた感じで、行き交う人々もどことなく、粋を知った大人が多いように思えるのは気のせいだろうか。
じつは編集部から荒木町は歩いても行ける距離。そのせいもあって、ちょっとした"逃避行"の場として足が向くのが荒木町だ。
メインストリートと呼ぶにはおこがましいほど、細い通りとそこから伸びる多数の路地。そこにさまざまな店が点在するのだが、まず目に付くのが割烹や小料理屋、バー。さらには一部で文化財的な扱いを受けるスナックも荒木町の表情を作り出す。
また珍しくなってしまった流しのおじさんがギター片手に路地から路地へと流していくのに出くわすことも。チェーン店の居酒屋やカラオケボックスなどはほとんどなく、大人たちが「我が街」とばかりにそぞろ歩きができるのも今や貴重だろう。
では夜だけの街かというと、そうではない。カフェや異国料理などがうまく入り込んで融合しているのも荒木町の魅力だ。
路地のちょっとした片隅にカフェがあったりと、ランチを取るのもよし、こだわりのコーヒーを飲みながら、ただときの流れに身を任せるにもいい。日常の暮らしでは感じることができない非日常の感覚を味わうことができる。あくまでも暗黙の秩序のもと、すべてがひとつになって荒木町というひとつの街を作り出している。
昼と夜の表情は確かにあるけれど、このゆったり感はいつ行っても同じで、じつに心地いい。
あんなに慌ただしく過ごしていた先ほどまでの自分とはなんだったのか。たとえれば、新幹線に対する各駅停車。
車窓をなにも考えず、眺める心地よさと言えばわかってもらえるだろう。まさに「男の隠れ家」といえるスポットだろう。
今日も、ついつい足が荒木町へ。昼も夜も自然に向いてしまうのは少々困りものだけど。