『定年前リフォーム』という本が、今注目を集めている。団塊の世代がまとまって定年を迎えることで想定される「2010年問題」の住まい編ともいえるこの本の著者溝口先生とともに、住まいづくりの現場から、リフォームによる問題解決の方法について考えてみた。

プロフィール
一級建築士。医療施設、高齢者施設等の設計を手がけ、1993年に、(株)高齢者住環境研究所を設立。バリアフリー・リフォーム実績累計一万件余りという豊富な経験からの団塊の世代への提言が、『定年前リフォーム』である。
※掲載中の担当者の所属等は取材時のものです
- 溝口
誤解されるといけないので、最初に言っておきますが、決して私は、定年前にリフォームをしなさい、と言っているのではないんです。ただ定年という人生の大きな転機を、夫婦で共有し、お互いに快適な新たな暮らし方を見つけるために、リフォームはたぶん、いいきっかけになると思っているんです。
- 小池
ご著書でも、確かに溝口先生は、リフォームとはただ家を新しくすればいいのではない。リフォームをきっかけに、夫婦がお互いに本音で向き合うことが、何よりも大切だと、書かれていますよね。
- 廣畑
仕事に役立つと読み始めたのですが、仕事を忘れて読みふけってしまいました。自分も妻が何を望んでいるのか、何を考えているのか、話し合ったことなんてないなあと、身につまされました。
- 溝口
世の中の男性のほとんどがそうだと思いますよ。
同じ屋根の下で暮らしていても、気持ちまで一緒とは限りません。特に仕事中心だった夫ほど、罪滅ぼしのつもりなのか、定年後は妻と一緒に旅行がしたいとか、一緒に趣味を楽しみたいと言う。でも、妻はそんなことまったく望んでいないというケースが、決して少なくない。こんなに気持ちが行き違ったままでいいわけはないでしょう。定年という大きなライフスタイルが変わる時こそ、夫婦関係の「棚卸し」が必要なんです。でも向かい合って、本音で話しましょうと言っても、そうそう出来るはずもないし、出来たとしても、結果は夫婦喧嘩になってしまうはず。そんな時に、リフォームという具体的なテーマがあると役に立つんです。
- 小池
確かに、自分の部屋をどうしたいか、自分は家でどう過ごしたいか、そんな話から始めれば、お互いを見つめ直すきっかけを作りやすいですね。
- 廣畑
でも覚悟は必要ですよね。妻の本音を聞くのが目的だから、感情的になったり、自分の考えを押しつけては何の意味もない。
- 溝口
そうです。妻の本音を知らなければ、夫にとって定年後の心地よい居場所づくりはできません。
- 溝口
定年後の家には、夫の居場所がない、という話をすると、自分は大丈夫だと言う男性がとても多いんです。休日、家にいる時は、自分の思い通りに過ごせているからなんでしょうね。でもそれができるのは、夫は平日働いているんだから、休日ぐらいはしょうがない、と居間もすべて夫に提供して、妻が遠慮して引っ込んでいるから。その代わり月曜日から金曜日は家はすべて妻の城。自分の思いのままにしているんです。自分には居場所がある、と信じ込んでいる夫ほど、その状況が見えてない。気づいてないんです。
- 小池
それが定年になると、毎日、夫も家にいるようになるわけで。妻もそうそう、夫の好きにはさせてくれない。すすんで居場所を提供してはくれない。
- 溝口
だから定年前から自分の居場所をつくる準備を始めるべきなんです。心地よい居場所があるかどうかは夫にとって定年後の生活を左右する大問題なんです。
- 廣畑
その第一歩が、先ほどの「棚卸し」なんですね。
妻の本音を聞いた上で、妻にも納得してもらいつつ、自分の居場所をどう確保していくかを考える。
- 溝口
その方法論に、お互い納得できれば、それを実現するためのリフォームをすればいいんです。そんなリフォームができれば、定年後の暮らしは、妻にも夫にも格段に快適になるはずです。
- 小池
定年を機にするリフォームは、終の棲家をつくるということでもあるし、その後何度もリフォームをできるわけではないのだから、お互い不満を残してはいけない。そのことをリフォームを手がける私たちも、分かってないといけないんですね。
- 廣畑
実際にどんな方法で居場所づくりを始めるか、具体的なヒントがあれば、教えてください。

- 溝口
私がお勧めする方法が、家をゾーンでとらえ直してみることです。間取り図を前に、夫のプライベートゾーンは青色、リビングなど妻がイニシアチブを取るゾーンはピンク、洗面所やトイレなどの完全に共用する部分は黄色、といった具合に間取り図を夫婦二人で協力しながら塗り分けてみるんです。すると、家がどのように使われているのかが具体的に見えてきます。
- 廣畑
平日と休日とで、色分けがどう違うか、やってみると、先ほどの夫の誤解も、明確になりそうですね。
- 溝口
そうなんです。休日はブルー一色なのに、平日はピンク一色となるわけですから。それが分かるだけでも、家で暮らすことを主体的にとらえ直すきっかけになると思いますよ。リビングは妻にとって譲れない自分のゾーン。テレビがあって、趣味の小物や写真立て、花などで飾り立てられ、妻にとって最高に居心地のいい空間となっているはず。そのことはきちんと認めて、間違っても定年後に、かつての休日のように、我がもの顔でリビングを占領してはいけないんです。
- 小池
リビングをあけわたすとすると、夫のプライベートゾーンはどのように考えればいいのでしょうか?




