ターミナルエリアとして進化を続ける大阪・梅田。2020年3月、その一角に竣工した「プレミスト梅田」が追求したのは、2つの街と調和する“そこにあるべき”集合住宅を作り上げることでした。大和ハウス工業がこの地で出した答えとは? 企画担当者の安達、そして設計デザインを手がけた浅井謙建築研究所の西田氏、中塚氏がプロジェクトに込めた想いをお伝えします。
梅田と中崎町の「境界線」を取り払う
プレミスト梅田の計画地は、大阪「梅田エリア」と「中崎町エリア」のちょうど境目にありました。西側の梅田エリアは百貨店や大型商業施設など大規模なビル群が立ち並ぶ大阪の中心地であり、東側の中崎町エリアはお洒落なカフェや路面店が多く、懐かしくもレトロな街並みを残す場所。それぞれが違った魅力を備えた街です。また、計画地は南北2つに分かれており、間を横切る公道が通っていました。この道を通って日々たくさんの方が2つのエリアを行き来していたのです。
この計画地を見て何よりも気になったのは“分断感”だった、とプロジェクトメンバーは語ります。
  • 企画担当者 安達 一慶

  • 安達:「実は、梅田エリアの開発が敷地手前のオフィスビル(梅田センタービル)で終結していたので、この計画地を境に雰囲気がガラリと変わってしまい、オフィスビルまで伸びていた緑地も途絶えてしまっていたのです。まるで、2つの街の間に見えない境界線が張られているような印象でした。建物はもちろん街並みまでを考えた快適な住まいをご提供することが私たちの使命。プレミスト梅田に住まう方はもちろん、この場所を行き交うすべての方にも心地よく感じてもらえるような空間を作り上げるためにも、その境界線を払拭する必要がありました」
    多くの議論を重ねる中で、プロジェクトが行き着いたのは、
    「梅田エリア」「中崎町エリア」2つの街の魅力を繋げる建物をつくる
    「梅田エリア」に緑の杜を形成し、「中崎エリア」へと緑を繫ぐ

    という答えでした。
外観で繫ぐ—
梅田と中崎町を繫ぎ、街の門となるタワー
プレミスト梅田の2棟のタワーは、公道を挟んで対に建つ門(ゲート)を象ったデザインとなっています。
西田:「マンションの形状を検討する中で、法的制限とのせめぎ合いの中で、居住空間を最大化していくために、北棟(以下ノース)及び南棟(以下サウス)を、板状からタワー型に変更する必要がありました。両棟が同じ形状になることから、2つのタワーを門に見立てて梅田エリアと中崎町エリアを繫ぐゲートのような役割を持たせてはどうか、という着想が生まれたのです」

タワーの遠景・中景・近景で、門の「構成」「フレーム」「ディテール」を表現

  • 三層構造やデザイン要素を統一し2棟で「門構え」が完成するデザインに

  • プレミスト梅田の外観デザインを作り上げる上で、重要なキーワードとなったのは「邸宅感」。
    安達:「大規模なビル群が立ち並ぶ梅田と、路面店など小規模な建物が多い中崎町。その境界に建つプレミスト梅田は、タワーマンションと戸建の良さを併せ持つものにしたいと思いました。緑豊かな杜の中に建つ住まいのように落ち着いたゆとりある空間を作ることができれば、今まで多くのタワーマンションをご覧になってきたお客様にも、また違った魅力を感じていただけるのではないかと考えました」

柱の中心部を面落ちさせ、クラシカルな重厚感を持たせた外壁。豊かな表情を生み出すモチーフをちりばめた

西田:「外装デザインには、梅田エリアの要素(タワー形状や大きなガラス面)と、中崎町エリアの要素(クラシカルな素材感や凹凸のあるディテール)を共存させています。実際に中崎町の長屋に残るスクラッチタイルの風合いをモチーフとして、素材感のある粗面仕上と、深みのある色合いとなるように3色の釉薬をタイルに施し、落ち着いたベージュ系の色調の中にも、豊かな表情や積層感が出るように仕上げています」
内装で繫ぐ—
統一と個性を共存させた共有空間
タワーの内装にも2つの街を意識したディテールが使用されていますが、その中でも、2つの棟に住まう人々が“繋がる”ことを意識したデザインが施されています。
安達:「ノースの居住空間は3LDK中心で、ファミリー層やシニア層に好まれるプランです。一方、サウスは2LDK中心で、共働きやDINKS層の支持が高いプラン。共用部は各タワーの個性に合わせ、ノースには落ち着いたラウンジ、サウスにはモダンなラウンジなどを設けました。ただ、どちらのタワーに住んでいても別のタワーの共用部を心地よく使っていただけるよう、統一感も大切にしています。2つの棟が同じ庭から続く木々の中で暮らしていることを感じられるように、並木を表す柱、枝葉を表す格子と同じ要素を使いながら、全く違う雰囲気に仕上げました」
中塚:「2棟のラウンジデザインを進める中で、ノースは落ち着いたクラシカルなイメージに、サウスは洗練されたシャープなイメージにと、対比させながらバランスを取っていきました。折り上げ天井や柱のプロポーションなど共通の要素を作りつつ、材質は変えたりと、相互に微調整を加えながら完成度を高めていきました。
ノースのラウンジは、木を中心とした落ち着きと柔らかみのあるデザインです。特に、人の動きに応じて景色の移り変わりがたくさん生まれるような空間づくりを心がけました。例えば、内外の視線両方に配慮したルーバー(羽板)を設けることで眺めに変化をつけたり、ソファでゆったりくつろいだときにみえる庭の眺めであったりと、ラウンジのなかで様々な景色の移ろいが起こる仕掛けをつくっていますので、楽しんでいただけるのではないでしょうか」
  • 木目を基調に、柱(並木)と格子(枝葉)をちりばめたノースのラウンジ。
    柱型と照明、格子が左右対称に連続し正面の緑へと視線を導くように配慮

  • 奥から見たラウンジ。4枚の岩盤の中央に枝葉が降り注ぐアートを設置。
    岩盤横のガラスから見える風景が、その先の空間への広がりを感じさせる

西田:「サウスのラウンジは石を基調にし、ライブラリとして使える本棚を設けました。素材の使い方をノースと真逆にし、木と石の貼り分けを反転させています。また、サウスの建物は角の突き当り部分が内側にクランクしており、ガラスの折れ具合がラウンジを特徴づけるものになっていましたので、設置するアートもガラスの空間とマッチするオブジェを採用しました。 “統一感がありながら個性を出す” というテーマは大変難しいものでしたが、素材の使い方を変えたり、ラウンジの形の特徴を活かしたことで、それぞれの棟の魅力を表現できたのではないかと思います」
  • ノースと同じデザイン要素の「柱」「格子」を使いながら、明るい白やベージュ、
    磨いた石材で現代的なイメージを表現したサウスラウンジ

  • 角のクランク部分に、プライベートな読書空間を設置。
    ノースとは対照的に、デザインバリエーションのある家具を配置した

  • 中塚:「ノースのゲストルームも、ラウンジの構成要素を活かしながらデザインしました。2階にあるので木々の高さから街を眺めることになります。枝葉に囲まれているようなイメージで、ゆったりとくつろげるスペースにしています」
  • ゲストルーム。壁のタイルや床のタイルカーペットを、
    木の幹をイメージしたまだら模様の素材に

安達:「プレミスト梅田は、住民同士の交流がはっきりと見えにくい部分がありますが、共用部を日常的に使っていただいている手ごたえはあります。また、ゲストルームについては“大阪の街中で豊かな緑が見渡すことができる、とても良い空間”という評価をいただきました。使って満足いただける共用部をつくることができたのではないかと思います」
外構で繫ぐ—
緑を湛える3つの「杜」
プレミスト梅田2棟の足元に広がるのは、緑を湛えた「杜」の空間。ノース・サウスそれぞれの足元に広がる「杜の庭」、公道沿いの並木道「杜の道」、隣地の緑と連続した「杜の広場」の3つをそれぞれに作りこむことで梅田エリアに緑を増やし、中崎町エリアへと街の緑を繫いでいく景観を生み出しました。
  • ノース、サウスそれぞれの足元に、プライベート庭園「杜の庭」を設計。
    居住者が日々行き交う動線に、四季折々の緑の豊かさをもたらす

  • 道路から奥まった緑地帯の中にゲートを設け、
    プライバシーに配慮

  • エントランスまで導く緑のトンネルを抜けることで、
    都会の喧騒感を拭う

  • 手前の石積みから先を、シンボルツリーの紅葉に向けて
    徐々に盛り上げて築山を作り、
    奥行を感じる庭に

  • 道路添いの樹木や、ノースの庭の樹木を借景として取り込み、
    奥行きのある緑を感じるラウンジに

左右2本のシンボルツリー(ケヤキ)から始まる「杜の道」。
公道沿いに自主管理歩道を設けて、安全に配慮

  • 舗装用ブロックを千鳥に敷き、樹木や照明をリズミカルに配置。
    「歩きたくなる」通りを演出した

  • ノース上階から見た「杜の道」。夜も木々と柔らかな照明が温かな帰路をつくる

  • 敷地手前のオフィスビルに連続させて「杜の広場」を配置。
    舗装面にアルゼンチン斑岩を使用、賑わいのある楽しい雰囲気に

  • 安達:「敷地内には、ふんだんに緑を入れました。緑の中心となる場所を、隣地の梅田センタービルの緑が伸びる場所と合わせたので、広い空間の中でとても緑が目立つ仕上がりになりましたね。緑化については設計段階から石勝エクステリアさんの力もお借りして、チェックを入念に行いました。また、浅井謙建築研究所さんと一緒に材料検査をし、“ここにあるべき”と思える木を選定しています。例えばシンボルツリーのケヤキ、ノースラウンジから見えるモミジなど、存在感のある樹形のよい木を入れることができました」
中塚:「それぞれの敷地が見合っているような配置であり、幸運にも梅田センタービルの緑が豊富なので、双方のラウンジから見ても、別の場所の緑が重なって見えます。いわば借景をすることになるんですね。そこで、各庭から見えるバランスが良いように、全体を通して高い樹、低い樹の配置や枝ぶりを調整していきました。緑の中でも視線が抜けるように、緑がより深く感じられるように…など、細かなニュアンスにもこだわっています」
安達:「また、隣地で大和ハウス工業の別事業部が結婚式場の計画を行っていたため、そこと連携を取って街並みの景観を合わせる調整を行えたことも大きいです。緑化計画を連動させて緑をさらに増やすことができただけでなく、建物の色調を合わせる、歩行空間を繫げて歩きやすくするなど、敷地を越えた広範囲にわたって景観づくりをすることもできました」
  • 隣地に建つ結婚式場。連携により豊かな緑を
    区画の中で繋げていくことができた

  • 安達:「緑に関しては、やはり居住者様からの評価が高いです。緑が少ない梅田の中で、豊かな緑の街並みを楽しめること、そして緑の多い庭の中をアプローチとして生活できることがとてもいい、という声を多くいただきました。コロナ禍においてもリラックスできる場所としてご使用いただいているようです。たたずんでお話ができたり、座って一息つけたりするような共用部を屋外に多く作ってよかったと感じています」
住戸を繫ぐ—
ご満足を追求した「イチ住宅」
また、居住者様に満足いただける試みとしてプレミスト梅田が新たに取り組んだのが、2つの住戸を繫ぐフレキシブルな住居プランの作成でした。
安達:「ご提案体制を整える中で、私たちが当初用意していた基本プランよりも、さらに大きな住戸を求めていらっしゃるお客様が多いことが見えてきました。そこで、隣り合う2つの住戸を結合した「二戸一住宅」を新たなプランとして作成しました。工事が着工してからの変更のため、計画変更申請による「あらかじめの検討」という方法をとっています。結合する前と後のプラン両方で確認済証を取得し、最後にどちらになったかを報告すればよいので、お客様への提案期間を長くとることができました」
西田:「特徴的で難しいプランだったので、役所や検査機関と綿密に協議を重ねる必要がありました。設計面でも、床下の構造上、水回りの位置は変えない、安全に配慮して玄関は2つにするなどの制約の中で、快適に住んでいただけるプランを作ることができたと思います」
安達:「二戸一住宅のプランは6戸成約をいただきました。大きい収納や2つの玄関の使い分けなど、こういったプランを求める居住者様に喜ばれるポイントを確認できたことは、自分にとって新たな気づきとなりましたね。また、新たな取り組みとしてルールを練り上げ、電気、設備、現場、設計とプロジェクトが一体となって作り上げていけたことが、大きな喜びになりました」
完成から1年(2021年3月現在)が経ち、豊かな緑を足元に湛える2棟のタワーは2つの街を調和させる風景となりました。
「自分たちが一生懸命作り上げたものは、居住者様にとっても街にとっても良い住まいになる」。その想いをプロジェクトで共有できたからこそプレミスト梅田が生まれた、と安達は語ります。
安達:「私が “こうしたい”とぶつけた要望に、浅井謙建築研究所さんが的確なアドバイスや判断をしてくださったおかげです。そして西田さんと中塚さんにはしっかりと現場に張りついていただき、粘り強く課題に取り組んでいただけた。“梅田に杜をつくり、地域を繫げる”という私たち現場の想いを、居住者様にしっかりと受け止めていただいた実感があります」
中塚:「自分の思い描いていたものが形になるという基本的な感動はもちろんですが、チームで進めることによって、多くの人の手を借りながらさらに完成度が高まっていくという醍醐味がありました」
西田:「建物だけではなく“街”というマクロな視点で見定め、街をつないでいくように建物を考えられたことが、結果として居住者様の満足に、そして街全体の幸せにつながっていく。二棟同時開発の素晴らしさをあらためて感じることができました」