「自然と暮らす家」田舎暮らしを楽しむオーナー様の建築実例をご紹介します。
四国から九州に向かって細長くのびる佐田岬半島は、標高300メートル前後の山稜に沿って広がっています。北側は瀬戸内海、南側は宇和海側に面しており、今回お訪ねしたOさんのお宅は、瀬戸内海を望む斜面に建てられています。
リビングルームから広々したウッドデッキに出ると、庭に残された大きな木々の枝先に、次々とヤマガラたちがやってきました。
「どうぞ」と手渡されたヒマワリのタネを手のひらにのせ、そっと手を伸ばすと、待つ間もなくヤマガラたちの中の一羽が指先に止まり、ヒマワリのタネをくわえると、飛び立ってゆきます。ほんの2、3秒のことでしたが、これまで味わったことのない感触がいつまでも残りました。
神戸にお住まいだったOさんご夫妻が、自然と斜面に惹かれて佐田岬に居を移されて5年、佐田岬での日々がどんなものであるのか、お話を聞くまでもなく、ヤマガラたちが教えてくれているようです。
しかし、「私たちは田舎暮らしがしたいのではなく、自然の中で暮らしたいのです」という話や、「畑がしたいのですが、平らな土地より斜面が好きです」と言われるのを聞いていると、ただ手付かずの自然に触れたいというのではなく、自然と自分達との暮らしとの折り合いをつけ、自然の中にうまく溶け込ませたい、そんな暮らしを心がけておられるように思います。
そのせいでしょうか、斜面に作られた畑も、傾斜や段差を上手に利用し、まるで昔ながらの山村の住居近くに作られた菜園がそのまま再現されているようで、斜面の風景になんの違和感もなく溶け込んでいます。
もともとご主人のおじいさんが、斜面を利用した畑づくりをされていたとのことで、そのイメージもあって、斜面に対するこだわりがあるそうです。野菜作りはそのおじいさんの直伝だそうで、畝の立て方や植えつけの仕方、支柱の立て方など、昔の確かな技がそのまま継承されています。
現在では、おじいさんの畑と同じ1000坪ほどに敷地を買い足され、住居とあずまや、住居へのアプローチ、そして最近建てられた小屋以外の庭の大部分は手づくりを楽しまれています。
『自然』。Oさんご夫妻とお話をしていると何度もこのキーワードが登場します。田舎に住みたいのではなく、自然の中で暮らしたかったとおっしゃるOさんご夫妻の暮らしは、まさに自然とともにあります。自然の傾斜を生かした畑やガーデニングを楽しみ、野鳥たちとふれあい、自然を愛で歩く・・・。
お庭づくりだけでなくフルートを楽しんだり、陶芸を楽しんだり、Oさんご夫妻の暮らしは肩の力が抜けたまさにナチュラルな暮らしです。
「都会はもういいと思われる方は多いと思いますが、そこから先のヴィジョンが大切だと思います」と語られるOさんご夫妻。これからもご夫妻の喜びは、自然とリンクしながら静かに続いていきます。