ダイワハウスのマンション
PREMIST(プレミスト)のデザイン③
人・街・緑をつなげ、未来を育む街づくりへ―ひばりが丘フィールズ(1番街・2番街・けやき通り)
基本設計・デザイン監修
株式会社 入江三宅設計事務所 計画・設計部
部長 大津 克徳 氏
基本設計・デザイン監修
株式会社 入江三宅設計事務所 計画・設計部
副主任 隈部 俊輔 氏
ランドスケープデザイン
sTudio sign
代表 ランドスケープデザイナー 一級建築士
オカモト タイロウ 氏
(㈱タウンスケープ研究所在籍時に本プロジェクトを担当)
ディレクター
⼤和ハウス⼯業株式会社 東京本店 東京マンション事業部
企画建設部 企画第一課
課長 青原 豊
UR都市機構(旧都市基盤整備公団)が20年あまりの歳月をかけて取り組んできた、東京都下・ひばりが丘の団地再生事業。日本初の民間事業パートナーとしてこのプロジェクトに参画した大和ハウス工業が手がけた「ひばりが丘フィールズ」の3街区は、新たな街づくりの方向性を象徴するモデルとして、2016年のグッドデザイン賞を受賞しました。ひばりが丘に住まう人が、今も未来も幸せであり続けるために。大和ハウス工業が紡ぎあげた「つながる街づくり」のデザインをご紹介します。
ひばりが丘団地の再生を、
「つながり」の構築で解決する
大和ハウス工業が、ひばりが丘団地の再生事業に参画したのは2012年。事業主のUR都市機構が、整備敷地のうちの約9haを開発・再生する民間企業を募ったことが発端となりました。

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青原:「マンションを建てるだけではなく、UR都市機構と一緒に活気ある街づくりの具体的な施策を考えていく事業パートナーの募集です。官民が一体となって街の再生事業を行う、いわゆるPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)という方式で、当時は日本初の試み。地域の価値を高めていくために、民間の新しいアイデアや実行力が求められていることを感じましたね。事業協力者として、大和ハウス工業、コスモスイニシア、オリックス不動産のグループと、住友不動産、野村不動産の3事業者がこの計画に参画できることとなり、当社グループの提案した「ひばりが丘フィールズ1番街」「ひばりが丘フィールズ2番街」「ひばりが丘フィールズ けやき通り」が建つ3街区の開発を通して、街づくりに取り組むことになったのです」
プロジェクトの基本設計とデザインを依頼したのは、入江三宅設計事務所。六本木ヒルズや表参道ヒルズをはじめとした先端の物件を数多く手がけてきた都市計画のスペシャリストです。
青原:「街の設計や仕組みづくりにおいて、企画力が卓越した事務所です。ひばりが丘の課題を咀嚼し深堀りをして、良いプランを創りこんでいくためには、入江さんの力が必要でした」
チーフの大津氏、隈部氏、そして後にランドスケープ(景観)の専門家であるオカモト氏(当時、タウンスケープ研究所在籍)をプロジェクトに迎え、街づくりが進められていきました。

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青原:「ひばりが丘団地が誕生したのは1959年。1999年より再生事業が始まり、賃貸棟などの建て替えは進んでいますが、古くから住んでいらっしゃる方が多く、高齢化も進んでいます。一方、私たちが建てるマンションに住まう方は30~40代の子育て層がメイン。そのままではコミュニケーションが生まれにくい環境です。ひばりが丘が“活気ある街”として長く続いていくためには、多世代の方々をつないで、関係性を持続させてゆくことが何よりも重要な使命でした」
そこで、プロジェクトが掲げた事業計画のコンセプトは、「Interractive City(インタラクティブシティ)」。
大津:「インタラクティブとは、交流する、つながるという意味です。ひばりが丘に元からある豊かな自然や文化を受け継ぎながら、新しい自然や建物とつなげてゆく。そして新旧はもちろん、さまざまな人と人が交流できる仕組みをつくる。人と街と緑をつなげることで、多世代が安心して快適に住み続けられる街を目指そうと考えました」

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人と人をつなげる仕組みとして考えたのは、交流が生まれる場を増やすこと。
青原:「エリアに不足している施設を「まちポイント」として、私たちが開発する3街区に新設し、いろいろな方が訪れる交流の場をつくろう、ということになりました」
隈部:「設置にあたっては、街区ごとにテーマをつくり、どんな施設を「まちポイント」として入れるのがよいか、話し合いながら候補を絞って行きました。A街区(フィールズ1番街)は「くらし安らぐ街区」として、快適さを助ける商業施設を。D1街区(フィールズ2番街)は「自然と対話する街区」として、隣接する公園とつなげたポケットパークを。そしてD2街区(フィールズけやき通り)は「多世代で学ぶ街区」として、学習塾を入れることに決まりました」
オカモト:「「まちポイント」は各エリアの暮らしをつないでいく結節点のような場になっていって欲しいと考えていました。「まちポイント」が隣接する交差点などの街角には、シンボルツリーとベンチを共通して配置しています。人がふと立ち止まって、共にゆったりと過ごすことができるような出会い・憩いの場を多くつくることで、交流の機会がさらに増えていくことを願っています」
そしてもう一つの施策、それは、「エリアマネジメント」という手法でした。
青原:「街の運営や更新を、住民の方々が主体になって続けてもらうための仕組みづくりです。自分の住む街に愛着を持ち、活動に参加したいという心が育てば、人の交流は活発になり、街も長く続いていく。そこで、きっかけとなるエリアマネジメントセンターを立ち上げ、さまざまなコミュニティ活動を行うことにしました。こういう活動にはノウハウが必要ですし、“続けていくこと”自体が難しい。そこで、コミュニティの支援を手がけるHITOTOWA Inc.さんにご参画いただき、サポートをお願いすることにしました。運営にかかる費用は住民の方から月々300円のマネジメント費をいただくほか、施設内に併設する店舗の売上を充てることで見通しが立てられるようになりました」
こうして2016年に、「まちポイント」のひとつとしてオープンしたのが、かつての団地のテラスハウスをリノベーションした「ひばりテラス118」。ひばりテラス118は、開発地区全体を統括する「エリアマネジメントセンター」として、UR都市機構と大和ハウス工業ほかデベロッパー4社で設立した、一般社団法人「まちにわ ひばりが丘」が運営しています。
青原:「カフェやコミュニティスペースなど、どなたでも使用できる店舗や施設があり、事務局ではさまざまなイベントの開催や広報活動、地域情報誌の発行などを行っています。HITOTOWA Inc.のスタッフが常駐し、活動をサポート。一方で「まちにわ師」という制度を設けてボランティアを育成するなど、最終的には住民の方が自分たちで運営し、環境を守り、街を活性化していけるようになることを目指して活動をしています」
景観をつなげ調和しながら、
「質の高い」街区を実現
3街区の開発においても、“人・街・緑をつなげる”ための、細やかなデザインが行われています。
ひばりが丘フィールズ1番街(分譲済)
ひばりが丘フィールズ2番街(分譲済)
青原:「姿のよい植栽を、いかに美しく見てもらえるかにもこだわりましたね。3街区の外構は、外灯というよりも植栽自体を照らすことで、住まう方に昼と夜の2つの顔を楽しんでいただき、夜にも緑の豊かさを感じてもらえるようにしました」
大津:「街のコーナーに置いたベンチなどにも、座面の下に照明を入れて光るようにしています。街をいかに美しく演出するか、という質の高さを大切に、穏やかで優しい印象の光で、直接光源が見えないよう灯りを設計しています」

「ひばりが丘フィールズ けやき通り」の外観

夜は穏やかな光や間接照明が建物の質感を浮かび上がらせる
マンション自体のデザインも、それぞれの個性を追求しながら、「つながり」をつくることにこだわったといいます。
青原:「建物の外観は、3棟の一体感が出るように配慮しました。スラブ(床版・屋根版)の鼻先など、一部分を共通デザインにしたり、外壁の色味をベージュ系や淡いグレーなどの優しい色調に統一したりしています。周囲の建物よりも重厚感を出すために、外壁の質感や陰影に工夫をしていただきましたね」
ひばりが丘フィールズ1番街エントランス
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隈部:「外壁は、素材選びや陰影を出す工夫に試行錯誤しました。他にも、隣接するUR賃貸棟や戸建街、周囲の緑などを考慮し、基壇部分だけ色調を変えるなどして、住宅群としての一体感を壊さないようにしています」
大津:「エントランスは、3棟ともすべて建物への入り方が異なるように設計しました。「ひばりが丘フィールズ1番街」はシンプルにエントリーする形で、「ひばりが丘フィールズ2番街」は正面にいきなり中庭が広がる感じに。「ひばりが丘フィールズ けやき通り」はエントランスまでクランク(曲がる通路)させわざと歩かせて、エレベーターホールまで行く道筋を楽しんでいただく。それぞれの建物を特徴づけるよう、一番喜んでいただけそうなプランをいろいろと検討しながら決めていきました」
ひばりが丘フィールズ2番街エントランス
ひばりが丘フィールズ けやき通りエントランス
隈部:「デザインが異なるものも、同じ素材を使って統一感を出しています。例えば外構やエントランスなどに使った石材は、ほぼ同じ錆(さび)御影石ですが、加工や焼きを入れて見せ方を変えています。エントランスの壁も「ひばりが丘フィールズ1番街」は無地でシンプルに使い、「ひばりが丘フィールズ2番街」のエントランスには横ストライプを入れて。「ひばりが丘フィールズ けやき通り」では横ストライプも使いながら、自然な岩のような割肌のハツリ仕上げを散りばめました」
青原:「エントランスでは風をモチーフにして、それをいろいろな素材や加工で表現するなど、何らかのつながりが呼応するように設計しましたね。また、特につながりを意識してつくったのが、お迎えのアート。3街区それぞれのエントランスに、足すと円になるアートを配置しました。住んでいる方が違う街区に行った時に、3街区は一つなんだ、と親しみを感じていただければいいなという想いを込めて。ほかにも、「ひばりが丘フィールズ けやき通り」には、父・母・子を表す3つの丸のアートを置いたり。常に「3」という数字を頭に置きながら、デザインの中に入れて行きました」
エレベーター階数表示部分のひばりモチーフ
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青原:「エレベーターの階数表示や、衝突防止のシールはひばりの形にしました。鳥をシンボルとして、自然と共生するような設備を入れられればいいと思い、小さな野鳥が遊べるようなバードバスや、鳥の巣箱も設置しました。この3街区の住居部分は「パッシブ・デザイン」といって、自然の光や風をコントロールしながら快適な室内を保てるような工夫がされているので、自然と共生するイメージを、住まう方にもさらに強く感じていただくことができたと思います」
緑豊かな街の中、子どもたちが遊び、お年寄りが散策し、休日には家族や住民が思い思いに家庭菜園やレクリエーションを楽しむ。「ひばりが丘フィールズ1番館」「ひばりが丘フィールズ2番館」「ひばりが丘フィールズ けやき通り」の完成から約4年がたち、街に活気ある新しい人々の姿が増え続けています。
青原:「まちポイントやエリアマネジメントセンターにも、連日多くの方が訪れています。ひばりが丘が生まれかわり、活性化していることを感じますね。大和ハウス工業として、つながりが感じられる3棟のマンションを各街区に提供できただけでなく、人と人がつながる空間を創り、新旧の方々が集ってくるという仕組みをつくることができたのは本当に大きかったと思います」
大津:「私たちがつくるのはあくまでもステージですが、街づくりのベースをつくる手助けができたことを嬉しく思います」
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隈部:「街としての一体感を実現できたのがよかったですね。常に景観をつなげることを意識して設計をしていたので、完成後に現地を訪れた時、街並が自然につながり、緑の中に溶け込みはじめているのを見て、改めて手応えを感じられました」
オカモト:「ひとつの団地の中で、複数の街区を同じストーリーの中でつくることができたのは、本当に貴重な機会でした。つながる仕組みをつくったことで、植物も人の関係も、予想を超えた進化や展開を遂げていく可能性を感じますね。それが心地よさになって、ひばりが丘に住み続ける理由、引っ越してきた人が定着する理由、子どもたちが当たり前のように住まいを継いでいく理由になっていけば嬉しいです」