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大切にしたい日本の文化 ――箸(はし)を学ぶ

日本の食文化を語る上で、欠かすことができない「箸」。2013年には「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、和食を形作る道具としての箸の素晴らしさに、世界的にも改めて注目が集まっています。豊かな食環境の中で育まれてきた、和の心を伝えてくれる箸。知っておきたい箸の歴史や特長、箸づかいのマナーなどを、専門家に伺いました。

日本の食生活を支える、究極の知恵

箸食の始まりは、飛鳥時代から
食用の「箸」が日本史に初めて登場するのは飛鳥時代。かの有名な聖徳太子が隋(当時の中国)から伝わった箸を朝廷の食事に取り入れたことから、本格的な箸食文化が始まったといわれています。奈良・平安時代には貴族や庶民にも箸食の風習が広まり、やがて鎌倉時代には和食の原型である「一汁三菜」をお膳に盛り、箸でいただく作法が定着しました。江戸時代になると、全国の地域産業として塗箸が生産され、鰻屋や蕎麦屋など外食産業の発展により割り箸が誕生するなど、さまざまな種類の箸が作られるように。食文化が多様化した現代でも、箸は私たちの食を支える大切な道具として、変わることなく使われ続けています。

日本独自の進化を遂げた箸
箸食の国はアジア圏に数多く存在しますが、最初から最後まで箸だけでご飯を食べる食習慣があるのは日本だけ。中国や韓国など他の国が、汁を飲むために散蓮華や匙・スプーンなどを使用するのに対し、日本ではお椀を持って直接口をつけて飲むという独自の作法が確立し、固形のものをすべて箸だけできれいに食べ切れるよう、箸先の細い箸を使うようになったといわれています。「はさむ」「つまむ」「はこぶ」「きる」「さく」「ほぐす」「はがす」「くるむ」「まぜる」「すくう」「おさえる」「のせる」といった複雑で細やかな作業を行えるのは、日本の箸ならでは。また、個人が自分用の箸やお椀を持っているのも、他の国とは一線を画した日本ならではの文化だといえるでしょう。

また、自然の恵みが豊かな日本には、古くから「神人共食」といって、神様に感謝しながら食べ物をいただくという風習がありました。食事を乗せるお膳も、もともとは神様に捧げられた神器。箸も、人と神様が一緒に使うものとして大切に扱われてきたのです。箸を「一膳、二膳」と数えたり、吉事に祝箸を使うといった風習が残っているのは、今もその心が伝わっている証です。

日箸を伝えることは、日本の心を伝えること
現在、伝統的な箸の持ち方ができるお子さんは約3割。成人後も「うまく使えない」という方が増えています。食文化の多様化やしつけの変化、学ぶ機会の減少など、さまざまな要因がありますが、これは大変もったいないこと。伝統的な箸の持ち方・使い方を身につけると、素晴らしいことがたくさんあります。
◎人に好印象を与える
人と食事をする時、箸のマナーが美しいと、躾が行き届いている印象があり、好感度が上がります。
ビジネスなどの会食でも、食べ方が汚いと、相手に不快感や不安感を与えてしまうかもしれません。
◎姿勢がよくなる
箸づかいが確かになると、自信を持って口まで食べ物を運ぶことができるので、口を近づけようと前かがみにならず、背筋がすっと伸ばせるようになります。
◎脳の働きが活性化する
箸を使うときの複雑な手の動きは、脳を活性化させる働きがあります。実際に、子どもの知育や老齢者の認知症予防として箸育が数多く導入され、多くの成果を上げています。
◎しっかりとした字が書けるようになる
美しい字を書くためには、指先の動きが大切。箸をしっかりと動かせる持ち方ができれば、文字の細部までを丁寧に書くことができます。
箸を握るだけの持ち方では手首しか動かないため、こういった効果は期待できません。

「和食」を通して日本が育んできた箸には、
◎神様や人に感謝しながら、最後まで食事を残さずいただく
◎人との和を大切にし、周りも自分も気持ちよく食事を楽しむ という想いが込められており、
シンプルな“二本の棒”を幾通りにも使う、先人の知恵と器用さが結晶しています。
箸の本質を知り使うことで、この素晴らしい伝統を、ぜひ末長く伝えていきたいものです。

知っていると楽しい箸の知識

使いやすい箸は「ひとあた半」
箸が長すぎたり短すぎたりすると、箸がうまく動かせない原因となります。使う人の手に合った長さの箸を選びましょう。
親指と人差し指を90度(直角)に広げ、両指を結んだ長さ(ひとあた)の1.5倍、つまり「ひとあた半」がちょうどよい長さです。

箸の美しい持ち方・使い方
箸頭(はしがしら:食事に使わない側)から1/3くらいの箇所を持つと、重心バランスがよく、動かしやすくなります。下の箸は、親指・人差し指の股部と曲げた薬指の先端に置き、上の箸は、人差し指と中指の間に挟み、両方を親指で支えます。閉じた時に三角形を描いているようにしましょう。
動かす時は、下の箸はしっかりと固定したまま、上の箸だけを親指・人差し指・中指の三本指で動かします。先端から1.5~3㎝の箸先を使い、なるべく食べ物で汚さないようにして食べましょう。

※箸の持ち方を直したい時…まず上の箸一本だけを持ち、三本指で上下に1の字を書けるように動かしてみましょう。二本になったら、空いている手で下の箸を押さえ、上の箸だけを動かす練習をすると、徐々にコツが掴めます。慣れてきたら、豆など小さいものをつまんだりする練習を。また、お子さんに一から教える場合は、あらかじめスプーンを親指・人差し指・中指の三本指で使えるよう練習しておけば、スムーズに学習できます。根気よく、できたらほめる を繰り返し、楽しく覚えられるようにしましょう。

お客様用の箸、とは?
箸には、「ハレの箸」と「ケの箸」があります。
◎ハレの箸…吉事、催事、お招き事に使うもの。両口箸(りょうくちばし:両方の先端が細くなっている)で素木箸(しらきばし:木肌がそのままで塗りがない)に限られます。ex.柳箸、俵箸、卵中など ◎ケの箸…日常、普段に使うもの。片口箸(かたくちばし:片方が細くなっているもの)や割り箸、塗り箸など。ex.丁六箸、元禄箸、天削げ箸、利休箸など
おもてなしにはハレの箸を使うのが基本ですが、ケの箸の中でも、天削げ箸(てんそげばし:箸の上部が斜めにそぎ落とされた割り箸)と、利休箸(りきゅうばし:千利休が考案した、両口箸の割り箸)だけは、お客様にお出ししてもよいとされています。

「嫌い箸」を知って食べ方上手に
箸のマナーには、やってはいけない禁じ手、「嫌い箸(きらいばし)」というものがあります。 周りの人と楽しく気持ちよく食事をするためにも、ぜひ覚えておきましょう。
×涙箸(なみだばし)…箸の先から汁物などの汁をぽたぽたと落とす
×仏箸(ほとけばし)…箸をご飯に突き刺して立てる(仏式の葬儀で、死者にご飯を捧げる時に使う所作)
×寄せ箸(よせばし)…箸で食器を手元に引き寄せる
×渡し箸(わたしばし)…食事の途中で箸を食器の上に渡し置く(もういらない、という意味になる)
×刺し箸(さしばし)…料理に箸を突き刺して食べる
×迷い箸(まよいばし)…どれを選ぼうかと迷い、料理の上で箸を動かす
×二人箸(ふたりばし)…食器の上で、二人が同時に同じ料理をはさむ
×探り箸(さぐりばし)…器や鍋の中を、箸でかき回して探る。

中道 久次

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