
金沢で古くから食べられている郷土料理のことを「加賀料理」と呼びます。その中でも代表格と言えるのが「治部煮」「鯛の唐蒸し」「かぶらずし」です。加賀料理の特徴は、山海の豊かな食材を組み合わせ、雅な香りただよう九谷焼や加賀蒔絵などの豪華絢爛な器で盛り付ける点にあります。味だけでなく文化と歴史が渾然一体となった料理なのです。
そして、金沢にはこの加賀料理の粋と矜持を受け継ぐ料亭が数多く存在します。中でも、金城樓は1887(明治20)年に創業した老舗料亭で、吉田茂元首相が金沢に訪れた際には必ず立ち寄り、大好物だった鰻巻き玉子を食べたという逸話も残ります。手入れの行き届いた庭園は心落ち着くたたずまいを広げ、店内にさりげなく置かれた調度品は一級品を取り揃えています。接客一つを取っても細やかな気配りがされ、長年にわたって積み上げてきた老舗の風格が感じられます。さらに、料理は食材の持つ味わいを最大限に引き出す調理法で生かしきるのが流儀で、料理人の技量と心が息づいています。その一つ一つが、金沢の食文化を守り、リードしていこうという気概に満ちています。
現在、全国各地で伝統野菜の復活を目指す取り組みが盛んに行われています。伝統野菜と言えば京野菜が有名ですが、東京・築地に専門コーナーができるほどの人気を誇るのが加賀野菜です。加賀野菜とは、1945(昭和20)年以前から栽培され、現在も主に金沢で栽培される野菜のことを指します。加賀太きゅうり、加賀れんこん、源助だいこん、金時草、打木赤皮甘栗かぼちゃなど15品目が認定されています。これらの加賀野菜は、料亭などの飲食店で用いられるほか、菓子の食材として利用される機会も少なくありません。
日本三大銘菓の一つに数えられ、三百数十年にわたって製法を守り続ける「長生殿」で知られる森八本店では、加賀野菜の一つである加賀れんこんを使った棹菓子「蓮根羹」を8月初めから8月末まで販売しています。自然な乳白色のこの夏菓子は、れんこんの香りと甘みを存分に生かし、しゃりしゃりとした独特の食感も特徴です。このほか森八本店2階には、藩政期から菓子作りで用いてきた木型を展示する金沢菓子木型美術館、季節の生菓子と抹茶が付くお抹茶セットなどが味わえる森八茶寮があります。
石川県七尾市出身のパティシエとして全国的にその名を知られているのが辻口博啓氏です。クープ・ド・モンドをはじめとしたフランス菓子の世界大会に日本代表として出場し、数々の優勝経験があります。東京・自由が丘の「モンサンクレール」のオーナーシェフを務め、コンセプトの異なる12のスイーツブランドを展開するほか、講演や出版など多方面で活躍しています。素材にこだわり、飽くなき探求心から生み出されるスイーツの数々は、常にスイーツ界に新風を吹き込んでいると称賛されています。
石川県立美術館内にあるLE MUSÉE DE H KANAZAWAは、辻口氏が「和」と「スイーツ」の新たなスタイルを模索した意欲的な店舗で、カフェとテイクアウトのできるパティスリーブティックを併設するほか、「CONCEPT G」と呼ばれる茶室ではスイーツと日本茶のフルコースを堪能できます。また、金沢や能登の食材をふんだんに用いたスイーツは、見た目の美しさはもちろんのこと、辻口氏の感性で組み合わせた食材がハーモニーを奏で、従来のスイーツにはない味と香り、食感を実現しています。
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