安岡蒲鉾店


食・趣味・娯楽
ロイヤルシティ佐田岬リゾート/2026.03.27

九州に向かって伸びる日本一細長い半島、愛媛県佐田岬半島。北に瀬戸内海、南に宇和海を抱える半島には数多くの釣りスポットが点在しています。佐田岬半島から愛媛県南西部の南予地域にわたる宇和海は、深い入り江に流れ込む黒潮が、豊富な栄養素を運び込むため、古くから魚の宝庫として知られました。中世から江戸時代の初め頃には国内屈指のイワシの漁場となり、当時の宇和島藩が、沿岸部に新しい漁村を拓くことを奨励したという歴史があります。


(写真左)安岡蒲鉾店の店舗と工場。裏山は戦国時代に河野通賢(こうのみちたか)が居城した岡本城跡
(写真右)安岡蒲鉾店が2019年(平成31年・令和元年)から毎年開催する「かまぼこ板美術展」。全国から集まった約2,000点の作品が壁いっぱいに展示されている
現在も約80種の魚が獲れるといわれる宇和海。南予地域では、豊かな海の幸をたっぷり使った揚げかまぼこ「じゃこ天」がソウルフードです。その始まりは宇和島藩初代藩主、伊達秀宗公が仙台から蒲鉾職人たちを連れてきたから、という説や、もともと魚介類が豊富な土地柄だったため、秀宗公が来た時には既につくられていたという説もあるほど古くまで遡り、たくさんの小さい魚(雑魚・ざこ)を原料とすることから「雑魚天」が転じて「じゃこ天」と呼ばれるようになりました。魚屋さんの店頭で熱々のじゃこ天が売られていた時代を経て、今も宇和島をはじめ南予地域の食卓には欠かせないもの。1952年(昭和27年)創業の安岡蒲鉾店も、鮮魚店として始まりました。




(写真左上) (写真右上)大量の魚を一匹ずつ手作業で捌くところから始まるじゃこ天づくり。スタッフさんが見せてくれたのはアジ
(写真左下) (写真右下)すり身を揚げるとじゃこ天に、蒸すとかまぼこになる。安岡蒲鉾店では、HACCP認定工場において原料処理から梱包までを一貫して行い、製品ごとに適した衛生管理体制のもと、安全・安心なものづくりに取り組んでいる
じゃこ天の原料は、すべて生の魚。特に、愛媛でしか水揚げされない魚で、地元では「はらんぼ」と呼ばれるホタルジャコを骨と皮ごとすり身にするのが、じゃこ天の特徴です。ホタルジャコはアカムツの仲間で、いわゆる「のどぐろ」と同系統の魚。ホタルジャコは「ぶり木」と呼ばれる浮木を網につけて漁獲する「ぶり網漁」で獲られ、この漁法が残っているのは宇和島地域ならでは。現在も「ぶり網師」と呼ばれる専門漁師が宇和島に数組残っています。ホタルジャコのほかにもアジ、カマス、オキヒイラギ、グチなど、季節ごとに旬の魚を選んで仕込まれるので、宇和海の恵みが凝縮された味わいが楽しめます。


(写真左)安岡蒲鉾店の商品ラインナップ。じゃこ天のほかにも、かまぼこのすり身に油揚げを巻いてつくる「あげ巻」や、「えそちくわ」など、それぞれの味わいや食感を楽しみたい
(写真右)そのまま食べてもおいしいじゃこ天。つくる店によって形や食感も異なるという
宇和海から毎日水揚げされる新鮮な魚は、一匹ずつ手作業で捌かれ、石臼ですり身にします。小判型に成形した後、菜種油で揚げてじゃこ天が完成。一口かじると、じゃりじゃりとした独特の食感と、噛むほどに広がる香ばしさと魚の旨味がクセになります。その食感と旨味の理由は、骨と皮ごとすり身にされているから。この製法は江戸時代からほぼ変わらぬかたちで受け継がれています。

自宅用やギフト用に買い求める人が途絶えない販売スペース
製造工程からもわかるように、じゃこ天は魚の栄養も豊富で、高タンパク、低カロリーな食品です。そのままでもおいしくいただけますが、代表の安岡一さんのおすすめは、軽く炙ってから食べるというもの。フライパンやトースターで炙ると、揚げたてのような香りと香ばしさがよみがえります。安岡蒲鉾店では、地元の豊かな食文化を子どもたちに伝えるために、製造工場においてHACCP認定を取得。工場内の見学通路には、2019年(平成31年・令和元年)から毎年開催されている「かまぼこ板美術展」に全国から応募された作品が並び、子どもから大人までの絵で、にぎやかに彩られていました。

「いいものをつくらな、お客様がついてこんと、代々言われてきました」と語る安岡一さん。弟の省二さんとともに、伝統の製法を守る職人として『えひめ伝統工芸士(現:食品士)』に認定されている
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