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コラム vol.431
  • 不動産市況を読み解く

この50年で賃貸住宅の延床面積の変化と今後の展望

公開日:2022/11/30

POINT!

・1968年以降、全国および各主要都市部で、賃貸住宅1戸あたりの延床面積が広くなっている

・各自治体でワンルームマンション規制のための条例が検討・施行されている

・今後、30~40代向け単身者向けの賃貸住宅需要が高まると予想される

賃貸住宅の1戸あたりの広さは、長期的に見ればどのように推移しているのでしょうか。延床面積の推移を見れば、賃貸住宅需要の変化が分かり、今後の展開が読み解けるかもしれません。

1968年以降の賃貸住宅1戸あたりの延床面積の推移

グラフは、1968年(昭和43年)から5年ごとの「民営貸家1戸あたりの延床面積」の推移を示しています(データは「住宅・土地統計調査」総務省の各年)。

図:民営貸家の1戸あたりの延べ床面積の推移

出典:総務省「住宅・土地統計調査」(各年)

これを見れば、全国、また各主要都市部でも、グラフはおおむね右肩上がり、つまり賃貸住宅の1戸あたりの延床面積は広くなっています。
このグラフにはありませんが全国の社宅(給与住宅)の広さを示したグラフは、1980年代を頂とした小さな山型となっており、近年は昭和40年代よりもやや狭い傾向にあります。加えてここ約50年における社宅の1戸あたりの広さの変化は、全カテゴリーの中で最も小さいものでした。また、公営賃貸住宅は、1990年代までは徐々に右肩上がりとなっていますが、その後は横ばいとなっています。
これは、想定される利用者(ご入居者)によって、延床面積の違いが出ているものと思われます。社宅の多くは、単身用タイプか転勤者向けのファミリータイプです。前者は広めのワンルームか1Kタイプが中心で30~40m2程度、後者は60~70m2 程度の2LDKが多いようです。これらを均すと50m2前後となります。社宅の利用パターンは、この2パターンでほとんど変わっておらず、そのため変化の幅が小さくなっているものと思われます。
民営賃貸住宅の延床面積は、関東が最も狭く、次に近畿、東海という順が続いています。 全国平均は近畿と東海の間というのも変わっていません。
関東が最も狭い理由としては、大学等の進学や就職のために全国各地から関東に移動する人が多く、こうした若年層向けの住居として1戸あたり面積の狭い賃貸住宅需要が旺盛なためだと考えられます。
このような状況が長く続いており、東京23区では、「何らかの規制をかけないと、ワンルームマンション等の狭い賃貸住宅ばかりになってしまう」という懸念がありました。

ワンルームマンション規制のための条例

そこで、ワンルームマンション条例を各自治体が制定する動きが平成に入り検討され始めました。
例えば、新宿区では平成16年(2004年)から次のような条例が施行されています。

  1. ●高齢者の入居への配慮
    ワンルームマンション等(寮及び寄宿舎を除く)を高齢者の利用に配慮した計画とするとともに、入居を希望する高齢者の方の受け入れについても配慮すること
  2. ●高齢者の利用に配慮した住戸の設置
    ワンルーム形式の住戸(寮及び寄宿舎を除く)が30戸以上となる場合には、前述の高齢者の入居へ配慮するとともに、ワンルーム形式の住戸のうち2割以上の住戸を、高齢者の利用に配慮した住戸とする必要がある
  3. ●家族向け住戸の設置
    ワンルーム形式の住戸(寮及び寄宿舎を除く)が30戸以上となる場合には、家族向け住戸(専用面積40m2以上)を一定割合設ける必要がある
  4. (新宿区のホームページより)

東京23区の多くの区では、ワンルームマンションの最低面積を定めています。例えば、新宿区では平成20年(2008年)までの最低面積は18m2でしたが、2008年以降は25m2となりました。
23区の多くは25m2を基準としているようです。
渋谷区では、「ワンルームマンション等建築物の建築をしようとする建築主は、当該建築物の住戸の専用面積を、寄宿舎等を除くワンルームマンション等建築物にあっては28m2以上、寄宿舎等にあっては15m2 以上としなければならない。(渋谷区ワンルームマンション等建築物の建築に係る住環境の整備に関する条例:2005年10月22日施行)」と、若干広めとなっています。
また、新宿区での条例のように、一定割合をファミリー向けにする必要があったり、一定数の駐車場の確保を義務付けている区も多くあります。

グラフを見ると、関東や近畿で2013年から2018年にかけて延床面積が大きくなっていることが分かります。これには、少なからずワンルームマンションへの規制が導入されたことが影響していると思われます。ワンルームマンション建築の規制が始まったのは1980年代後半からですが、本格的には2000年台中頃から全国主要都市へ規制が広がりました。 「最低面積の導入」と「ワンルームより広めのファミリー向け物件を一定割合割り当てること」、この2つが、民営賃貸住宅における一戸当たりの延床面積が広くなった要因のひとつだと思われます。

賃貸住宅の延床面積は今後どうなるのか?

人口動態、世帯類型の変化と今後の予測から見れば、今後、単身者向けの賃貸住宅需要が増えるかもしれません。
これまでは、都市部の賃貸住宅と言えば若年層向けのイメージでした。しかし、すでに若年層の人口減少は進んでおり、また昨今の出生率の低さを見れば、今後増加に転じることは少なくとも50年はないでしょう。また、晩婚化や非婚化が進んでおり、若年層ではない、単身世帯の増加がすでに顕著となっており、今後も増えることが予想されています。 ここまで述べたことから考えると、都市部において、今後の賃貸住宅は若年層向けだけではなく、比較的年収の安定した30~40代向け単身者向けの需要が高まることになるでしょう。そう考えると、単身者向けマンションの需要のメインは、25m2~30m2のワンルームマンションから少し広くなり、40m2~50m2程度の1LDK、2LDKになると思われます。

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