CASE10父親の相続対策だけでなく、母親から子どもへの相続対策も。
二次相続まで考えていますか?
公開日:2024/05/30
父はすでに亡くなっていて、3年後に母が亡くなりました。
父の相続のときはまだ母が生きていて、配偶者控除を利用して母が財産の大半を相続したため相続税もかからず、きょうだい間のトラブルもなく、相続の手続きが終わりました。
ところが、母が亡くなったのをきっかけに、「重石(おもし)」がなくなってしまったのでしょう。子どものひとりが、「父の相続のときにはあまり財産をもらわなかったから、今回もらえなければもうチャンスがない」と言い出し、法定相続分以上の財産を要求したのです。
この財産を要求した子どもは、お父さまが亡くなったときには我慢しながらも、お母さまの言うことに従ったのでしょう。ところが、今回お母さまが亡くなったことで、抱えていた不満が一気に出てしまったのでしょう。父も、将来母が亡くなるときのことまでは考えが及ばなかったのかもしれません。
このような揉め事を避けるためには、父が元気なうちに、将来母が亡くなったことも含めて、お子さまたちにきちんと話しておくことが必要でした。さらに言えば、父も母も遺言書を残しておくべきだったでしょう。
大切なのは、普段から親子でしつかりとコミュニケーションをとっておくこと。
理想は、みんなが集まって話し合う、いわゆる「家族会議」を持つことでしょう。全員が集うなかで、財産の分配方法とその理由を決めていけば、フラストレーションも残りにくくなります。
一度や二度の家族会議でも決まりませんので、どれだけ早いタイミングで開催するのかが重要です。お盆やお正月にご家族が帰省する都度、そのような話をする習慣をつけていきましょう。またその際、最終的な目標は遺言書の作成です。相続人が揉めないような遺言書をつくるように、話し合いを持つことができれば言うことはありません。
「うちは相続税対策をしっかり行っています」と多くの人が言います。ところがその内容を伺うと、父(または母)が亡くなったときの対策だけをしているケースが多いのです。
一般的に、相続は両親(父と母)それぞれが死亡したときに起きます。つまり父の死と母の死、2度の相続が起こりますが、一般的に一度目の相続を「一次相続」、二度目を「二次相続」と言います。
「一次相続」として、例えば父が先に亡くなったときには、相続税の配偶者控除(1億6000万円、もしくは配偶者の法定相続分までは相続税が課税されない制度)が使えますので、相続税の負担が少なく済みます。それで安心していても、次に「二次相続」で母が亡くなったときには配偶者控除が使えませんので、結果的に残されたお子さまたちが多額の相続税を負担しなければならない可能性があります。
つまり、父の対策だけをしっかりと行っていたとしても不十分であるということです。子どもからしてみれば「こんなはずではなかった・・・」ということにもなりかねません。
一次相続と二次相続を合わせて考える
相続税には「配偶者控除」という制度があります。夫(父)が先に亡くなったとき、妻(母)がこの制度を利用することで、相続税を低く抑えることができます。しかし、本当に相続対策をするのであれば、夫婦二人が亡くなったときの相続税を合算して考える必要があります。
「最終的に、夫婦2人がなくなったときのトータルの相続税がいくらになるのか」を前提に対策をしなければ、二次相続のときに相続人となる子どもが多大な相続税を負担しなければならなくなります。
夫から相続した財産だけではありません。妻が持っていた財産を加える必要もありますから、妻の財産もしっかりと把握しておかなければいけません。
二次相続では、一次相続よりも相続税が増えることにも注意が必要です。以下のような理由で、二次相続の方が、相続税負担が大きくなります。
- ・法定相続人が減るため、基礎控除額、死亡保険金、死亡退職金の非課税限度額が減少する
- ・配偶者控除が使えない
- ・配偶者がもともと所有していた財産が合算されるため、相続税の対象が大きくなる
- ・小規模宅地等の特例の適用条件が厳しくなる
妻が先に亡くなる、もしくは認知症になってしまう可能性も多分にあります。そのため、相続の話が出たときには夫婦ご一緒に対策を始めるようにしましょう。
相続税の問題だけではなく、遺産分割の問題をスムーズに進めるためにも、一次相続の遺産分割協議の段階で二次相続を見据えておく必要があります。一次相続の際は、父母のいずれかがまとめ役になることもできますが、子どもたちだけで行う二次相続では、まとまりにくいこともあるでしょう。
ただし、二次相続をうまく活用することもできます。上記のようなことを理解した上で、配偶者控除を活用し、時間をおき、遺言書と合わせて家族信託という方法を選択することも可能です。家族信託は二次相続の際の財産の承継先を決めておくことができますので、専門家に相談しながら検討してください。