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コラム vol.532-2
  • 土地活用税務コラム

事例で検証する家族のための信託の活用方法(2)【ケース2】後妻の老後生活と先妻との子への財産承継(受益者連続型信託)

公開日:2025/01/31

前回に引き続き、信託を活用する頻度の高いと思われる基本的な事例を基に、信託を活用すれば解決できる仕組みや課税関係を確認します。

ケース:委託者の願い

「委託者甲は、自分の死後において後妻の老後生活の安定を図るために、居住用不動産と一定額の金融資産を相続させたいと考えています。しかし、妻が再婚するとその夫に、また、妻との間に子がないため、妻が死亡すると甲から相続した財産も妻の兄弟姉妹に相続されてしまう可能性が高いと思われます。そこで、妻が相続した居住用不動産は、甲の先妻との間の子(長男)に相続させたいと願っています。」

  • 制度の仕組み
    居住用不動産と金融資産を以下の方法によって信託します。
  • ①信託財産 居住用不動産と金融資産
  • ②委託者 甲
  • ③受託者 妻又は長男(妻が受託者の場合、妻に後見開始後は長男)
  • ④受益者 当初 甲、甲死亡後の受益者 妻、妻死亡後の受益者 長男 受益権は、譲渡、質入れ等すること及び分割禁止
  • ⑤信託の終了 妻死亡により信託は終了する

課税関係

受益者連続型信託等(信託行為に一定の場合に受益権が順次移転する定めのある信託、受益者指定権等を有する者の定めのある信託その他これらの信託に類似する信託)については、受益者が個人の場合、次のとおり課税されます。

(1)適正な対価を負担せずに受益者連続型信託等の受益者等となる者があるときは、受益者等となった時においてその受益者等である個人に対して、委託者(又はその受益者等の直前の受益者等)である個人から受益権を遺贈又は贈与により取得したものとみなして相続税又は贈与税が課税されます。

(2)上記(1)の受益者連続型信託等の受益権については、課税される受益者等がその受益権のすべてを取得するものとみなして相続税又は贈与税が課税されます。
例えば、自分の死後、収益不動産の収益受益権を妻に、元本受益権を孫に承継させ、妻の死亡後は、収益受益権を子に与えるというような受益者連続型信託の場合には、子には収益受益権を与えるだけですが、収益受益権は一種の条件付、制約付ですが、そのような制約は付していないとみなし、その全受益権に対して課税されることになります。 つまり、収益に関する受益権の価額は、信託財産(収益受益権+元本受益権)そのものの価値とイコールとして計算されることになります。これにより元本受益権の評価は、ゼロということになります。

留意点

信託以外の方法では、甲が遺言書によって妻へ居住用不動産を相続させる旨の遺言は有効ですが、妻が死亡した後に、甲の子に居住用不動産を相続させる旨の遺言は無効と考えられています。
そこで、居住用不動産を子へ相続させる方法として、妻と子が養子縁組を行い相続する方法や、妻が遺言書を残し甲の子に遺贈する方法も考えられます。しかし、養子縁組は当事者の合意によって、又は離縁の調停や裁判によって離縁することができ、遺言書は妻が単独に新たに書き換えることも可能ですので、確実な方法とはいえません。
(注)受益者連続信託による方法以外の方法として、令和2年4月1日以後に開始した相続から「配偶者居住権」を配偶者に取得させ、配偶者居住権が設定された不動産を子へ相続させる方法も考えられます。

ケース3:認知症の妻の老後生活と自分の生活の安定(自己信託)

ケース:委託者の願い

「委託者甲には、認知症になった妻がいて、妻は自分で財産の管理ができないため、甲が死亡した後の妻の生活の安定を図りたいと願っています。また、自分自身も認知症などを発症して自ら財産管理が困難となることにも備えたいと考えています。」

  • 制度の仕組み
  • ①信託財産 居住用不動産+現預金
  • ②委託者 甲
  • ③受託者 甲(甲が死亡又は後見開始などの場合には、長男)
  • ④受益者 妻(現預金については、甲が負担する婚姻費用の範囲内とする)、妻死亡後の受益者 甲、甲死亡後の受益者 長男
  • ⑤信託の終了 甲及び妻の両方が死亡したとき

課税関係

(1)居住用不動産
婚姻期間20年以上の夫婦間の居住用財産等の贈与については、贈与税の配偶者控除の適用を受ければ、贈与価格2,000万円までの部分の贈与については、贈与税が課税されないこととされています。しかし、贈与契約は、贈与者と受贈者における贈与の合意が必要とされていることから、妻が認知症である場合には、贈与の合意が困難であると思われます。
しかし、信託契約による方法では、委託者と受託者との契約の締結によって信託が設定されるため、妻の老後生活を考慮し、かつ、妻の死亡後の財産の承継者を特定の相続人にしたいと考える場合には、信託による方法しかありません。
また、信託による方法であれば、受益者を妻としておけば、妻が居住用不動産を信託受益権の贈与によって取得したものとみなされ、贈与税の配偶者控除の適用を受けることもできます。

(2)現預金
委託者≠受益者であることから、信託効力の発生の時に原則として贈与税の課税が行われることになります。しかし、扶養義務者相互間において生活費等に充てるために贈与を受けた財産のうち「通常必要と認められるもの」については、贈与税の課税対象とされていません。そして、「生活費」とは、その者の通常の日常生活を営むのに必要な費用をいいます。そこで、受益者である妻の受益権の範囲について、民法760条により負担している婚姻費用の範囲内の金額と定めておけば贈与税は課されないと思われます。

(3)妻が甲よりも先に亡くなった場合
妻が甲よりも先に亡くなった場合には、受益権は甲に戻り、妻から遺贈によって取得したものとされます。また、甲が先に亡くなった場合には長男が遺贈により取得したものとされます。

留意点

信託法は、「受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき」信託は終了することとしています。
甲の妻が先に亡くなると受託者が受益権の全部を固有財産で有することとなるため、甲に後見開始などによって受託者が長男に変更にならない限り、その後、1年間で信託契約は終了します。

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