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コラム vol.535
  • 日本社会のこれから

M&Aの活性化もあり後継者不在率は改善傾向。ただし、M&Aのトラブルも増加

公開日:2025/01/31

団塊世代が75歳以上となる2025年問題を控え、事業承継問題は大きな社会課題となっていますが、2024年11月、帝国データバンクから発表された、全国「後継者不在率」動向調査(2024年)によれば、2024年の後継者不在率は52.1%で、2023年と比較すると1.8ポイント低下しました。 この調査は、全国の全業種約27万社を対象としたもので、後継者が「いない」、または「未定」とした企業は14.2万社。2017年の66.5%をピークに、7年連続で前年の水準を下回りました。

図1

全国「後継者不在率」動向調査(2024年)(帝国データバンク)より作成

国も中小企業の事業承継について、経営資源の喪失防止や雇用確保を目的として、事業承継の早期化、経営者年齢の若返りを図るなど、さまざまな支援策を行ってきましたが、こうしたことが後継者不在率の改善につながったようです。その結果、中小企業の経営者年齢は一定の若返りが進み、若返りによる生産性・経営力の向上につながることが期待されています。
2024年度中小企業白書「中小企業経営者年齢の分布」を見ても、2015年には「65~69歳」が中小企業経営者のピークとなっていたものの、2023年には「55~59歳」をピークとして分散している状況が確認でき、経営者年齢の分布が平準化していることが分かります。
また、事業承継に関する官民の相談窓口が全国に普及し、各種支援メニューも拡充されたことで、事業承継の重要性が広く認知・浸透したことも後継者不在率の改善に大きな影響を及ぼしたと思われます。ただし、前年からの改善幅は、最近では2020年に次いで2番目に小さく、後継者不在率の改善ペースは鈍化傾向がみられます。

同族承継が減少し、M&Aによる事業承継が増加

過去5年間で代表者交代が行われた企業のうち、前代表者との就任経緯別をみると、2024年(速報値)の事業承継は、同族ではない「内部昇格」によるものが36.4%となり、これまで事業承継の形式として最も多かった「同族承継」(32.2%)を上回りました。
同族承継が減少する一方で、2024年は「M&Aほか」(20.5%)が増加しました。日本企業における事業承継は、2023年までは、家族や親族などの同族承継が一位でしたが、M&Aを含めた社内外の第三者へ経営権を移譲する承継が増加しています。(帝国データバンク 全国「後継者不在率」動向調査2024年より)

図2

全国「後継者不在率」動向調査(2024年)(帝国データバンク)より作成

増加するトラブルに対し、中小企業が注意喚起

M&Aは後継者不在の中小企業が事業承継を実現するための手法として浸透し、多くの中小企業によるM&Aが実施されるようになりましたが、M&Aに関するトラブルも増加しているようです。
中小企業庁は2024年8月に「中小M&Aガイドライン」を改訂しました。不適切な譲り受け側の存在や経営者保証に関するトラブル、M&A専門業者が実施する過剰な営業・広告等の課題に対応し、中小M&A市場における健全な環境整備と支援機関における支援の質の向上を図る観点から、中小M&Aガイドライン(第3版)において、中小企業向けのガイダンス及び仲介者・FA(ファイナンシャル・アドバイザー)向けの留意事項等を拡充しました。
また、2024年10月に、「M&Aに係るトラブルの発生を踏まえた対応について」として、M&A支援機関の選定・契約時の確認すべき事項について注意喚起を公表しました。
この中で、「譲り渡し側の経営者保証を引受けることなく、譲り渡し側の現預金等の資産を移行し、譲り渡し側の支払いに問題を生じさせ、倒産に至らせるといった不適切な譲り受け側の存在が指摘されている」とし、具体的なトラブル事例として、以下の事例を紹介しています。

  • ・クロージング後、売手経営者の個人保証について、売手から買手に何度依頼しても契約に基づいた移行がなされなかった。その上で、買手が売手の現預金等の資産を回収したが、必要な事業資金の送金がなされず、売手は倒産。この結果、経営者保証が残っていた売手経営者が債務を負うこととなり、個人破産に至ってしまった。
  • ・M&Aの成立時点での譲渡対価は低額であったが、成立後一定期間後に相当程度の退職慰労金が支払われる契約を結んだ。しかし、契約に定める期日が訪れても退職慰労金が一向に支払われなかった。

そして、特に「売手の財務状況が厳しく、経営者保証の扱いが重要になる場合」「クロージング時点では低額の譲渡対価で、クロージングから一定期間後に相当程度の譲渡対価を支払うという条件を提示されている場合」に注意が必要であるとしています。

具体的な注意喚起の内容としては、「中小M&Aガイドラインの遵守を宣言しているM&A支援機関登録制度の登録機関から選定すること」「契約を検討しているM&A支援機関の手数料体系を確認すること」「プロセスごとの支援内容の確認」「担当者の保有資格、経験年数・成約実績等の確認」「支援機関の組織体制等の確認」「仲介・FA契約書の専任条項、直接交渉制限等の確認」をあげています。

官民一体となって推し進めてきた事業承継への啓蒙活動や支援が中小企業にも浸透・波及し、後継者問題に対する代表者側の意識改革が進むなど、後継者問題への取り組みは一定の成果を上げているものの、M&Aによるトラブルが増加している状況は、今後の進展にも影響を与えそうです。
日本の中小企業が持つ有形無形の財産が貴重であることには変わりなく、承継を検討する中小企業経営者は、さまざまな第三者機関を活用し、相乗効果が生まれる事業承継をぜひとも実現してほしいものです。

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