
建築工事費の動向と今後の見通し
公開日:2025/05/30
2022年ごろから顕著となった物価上昇は、食料品、エネルギー関連費などの生活必需品だけでなく、あらゆる商品・サービスに波及しており、「ここ数年間で値上がりしていないものを探すのが難しい」という状況です。建築費も同様で、2010年代もジワジワと上昇していましたが、2021年以降一気に建築費が上昇し、建築費は高止まりしています。
このような状況のため、いくつかの建て替えプロジェクトが「当初の計画(予算)では建築できない」ということになり、計画の見直しや計画の先送り、計画の中止、などという影響が出ています。
ここでは、建設工事デフレーターの中から建築工事費(住宅系)を取り上げて、工事費の状況や今後の見通しについて解説します。
建設工事費デフレーター
建設工事費デフレーターとは、建設工事に係る名目工事費を基準年度の実質額に変換する目的で、国土交通省が毎月作成・公表している指標です。
建設工事は、基本的に同じものを作ることはないので、例えば食品価格などのように、市場の動きでとらえることは難しくなります。そのため工事費を構成する要素、例えば労務費(=職人さんの人件費など)、や原材料費といった項目に分けて価格指数を算出、工事費に占める構成比を勘案して指数化されています。
そもそも「デフレーター」とは、物価変動による影響を除いた実質的な値のことで、「GDPデフレーター」などは、有名な指標です。
この建設工事費デフレーターは、建設総合が元にあり、それが建築総合と土木総合に分かれます。建築総合は住宅系と非住宅系に分かれ、それぞれ構造(木造・RC・Sなど)別となっています。ここからは、このうち住宅系の建築工事費にフォーカスしてお伝えします。
建築工事費の動向
図:建設工事費デフレーター(住宅総合)の推移(2015年度基準)
出典:国土交通省「建設工事費デフレーター」
グラフは、2016年から2025年2月分(執筆時2025年5月)までの建築工事費(住宅総合)デフレーターの推移を示しています。このグラフは、2015年の1年間の平均を100としたもの(2015年基準)ですが、2021年4月分(同年6月30日公表分)まで用いられていた2011年基準において、とくに2013年以降に上昇がみられましたので、そのため2011年以降で見れば上昇幅はこのグラフ以上となり、長く工事費の上昇が続いていることになります。
とくに2021年半ば~2022年半ばは、大幅に上昇し前年同月比10%を超える上昇した月もありました。世界的なインフレ傾向、ウッドショック、エネルギー価格増にともなう輸送費増、円安傾向などが重なり建築資材費上昇に拍車がかかりました。
また、2023年半ば以降は、上昇が止まった感もありましたが、その後2024年に入ると、労務費の上昇が響き、再び上昇基調となっています。このところの状況をみれば、人手不足のなかで、工事件数が一定数あり、「需要>供給」といえる状況となっていること、加えて原材料費の上昇が続いていること、2024年から導入された「働き方改革」による職人賃金の上昇、高値が続くエネルギー価格にともない運搬費の上昇など、あらゆる要因が重なっています。工事費が下がりそうな要因としては、「円高傾向となり為替相場の関係で輸入資材価格の低下可能性」があることくらいしか、見当たりません。逆に、2025年4月からは「4号特例※」の縮小により設計や管理業務の増加によるコストアップ懸念などもあります。
- ※建築基準法第6条第1項第4号にもとづいた「小規模な木造建築物の建築確認を簡素化する」特例制度
住宅の建築は、早めの対応が求められる
このように建築工事費は上昇を続けており、この先もまだまだ上昇しそうです。この先の最大の懸念は、建築現場で働く方々の人手不足で、これが工事費上昇の主たる要因となるでしょう。大和ハウスをはじめとした、大手企業は職人の確保、提携企業との連携強化などが進んでいますので、こうした点ではアドバンテージがあると思いますが、企業間で差が出てくるものと思われます。
住宅・集合住宅ともに「これ以上上がると建築需要に響く」というような工事費の状況であることは間違いなく、大手企業を中心にメーカーも対応に追われています。関係人件費(労務費)を抑えるために、より工業化された製品の投入や、より短工期化できる商品の投入などの動きも、今後加速するでしょう。
住宅・集合住宅の建築費は、過去20年で大きく上昇し、この先もまだ上昇しそうです。
住宅地地価も上昇しており、土地から購入する方にとっては、一段と厳しい状況となると思われます。
個人住宅、土地活用としての賃貸用集合住宅の建築を計画されている方は、早めの対応が求められるでしょう。