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コラム vol.557
  • 不動産市況を読み解く

2025年前半の新設住宅着工戸数と広がる賃貸住宅経営の可能性

公開日:2025/06/30

新設住宅着工戸数の動向と見通し

新設住宅着工戸数の動向をみれば、2025年の1~4月まで(執筆時:6月18日におけるデータは4月分まで)では、総数は262,337戸で前年同期間比101%となりました。2025年4月に建築基準法が改正されたことにより、前月の3月には駆け込みが起こり、前年同月比プラス39.1%の大幅増となりましたが、翌4月は反動減で前年同月比マイナス26.6%となりました。大きな波があったものの、1-4月の合計で見れば、同期比ではプラスとなりました。
このうち、持ち家(自宅の建築)は66.299戸、前年同期間比で101%となりました。傾向は総数と同様ですが、3-4月の駆け込み増はプラス37.4%、4月の反動減はマイナス23.7%と総数よりも増減幅が小さくなっています。2022年~2024年に大きく減少した持ち家の新設住宅着工戸数は、下げ止まり感が出てきました。

図1:2025年1-4月新設住宅着工戸数

国土交通省発表資料より作成

持ち家の着工戸数は、2024年比でやや持ち直している状況です。背景にあるのは、戸建て回帰の傾向です。ご承知の通り全国主要都市でマンション価格が高騰しており、中心市街地でのマンション購入意向を転換させ、郊外の戸建て住宅を求める方が増えていること。また、マンションの含み益が大きいため、売却して土地を購入して住宅を建築される方も増えているようです。さらに、富裕層を中心にデュアルライフが浸透し、別宅を所有・建築する方が増えてきていること。こうしたことが「持ち家」新設住宅着工戸数が増える見通しの要因と思われます。

貸家着工戸数の動向と今後の見通し

土地活用とも深く関係する貸家の新設住宅着工戸数をみれば、2025年1-4月の合計は117,595戸で前年同期比105%となりました。3月の駆け込み分はかなり多く、前年同月比プラス50.6%で、3月だけで4万戸を超えました。4月の反動減は前年同月比マイナス27.9%と、波は大きくなっていますが、1-4月合計の前年同期比プラスの幅が大きくなりました。
賃貸住宅の建築は、土地活用で行われるものと投資用の賃貸住宅建築(分譲型賃貸住宅、あるいはランドセット型と言われるもの)に分かれますが、とくに後者は好調となっています。賃貸住宅の家賃上昇が全国的に顕著となっていることや実質金利が依然マイナス圏内で推移していることなどが大きな要因でしょう。実質金利の動向については後述しますが、2025年後半も実質金利の上昇可能性は低いため、賃貸住宅投資は活況が続くことが予想されます。そのため、2025年の貸家着工戸数は、昨年並み(34万戸台前半)から、少し増える可能性もあると予想します。

キャップレートの動向と見通し

賃貸住宅を含め、不動産投資の動向を知るためのバロメーターの1つがキャップレートの動向です。
一般財団法人 日本不動産研究所が5月28日に公表した「第52回不動産投資家調査」(調査:2025年4月)によれば、キャップレートは調査対象のアセットクラス全てで、本調査を開始(1999年)して以来最低値となっており、不動産投資において依然として活況が続いていることがわかります。また、この先もこの傾向は続きそうで、本調査の中にある、「今後1年間の不動産投資に対する考え方」の質問項目では、「新規投資を積極的に行う」と回答した方が94%(前回と同じ値)で、不動産投資家の非常に積極的な投資姿勢が続いていることがわかります。

図2:プロパティ別 キャップレートの推移

出典:一般財団法人日本不動産研究所「不動産投資家調査」

図2は、2006年以降の東京主要地区におけるプロパティ別のキャップレートの推移を示しています(全体的な動向を見るために、すべて揃っている東京のデータを例示)。これをみれば、リーマンショック後にキャップレートは大きく上昇した後、2013年以降は、宿泊特化型ホテルのコロナ禍期間を除けば、概ね右肩下がりが続いています。

賃貸住宅のキャップレート

賃貸住宅の投資家の期待利回り(キャップレート)は、全国主要都市で引き続き史上最低水準値が続いています。その中でも、東京(城南地域)のキャップレートは、全国で最も値が低く、ワンルームタイプのキャップレートは3.7%となりました。前回調査(2024年10月調査、11月公表)を含め前3回は3.8%でしたが、4期(2年)ぶりに最低値が更新されました。
主要10都市のワンルームタイプの期待利回りをみれば、東京都区部(城南)は前述のとおり3.7%、東京(城東エリア)は、3.8%、次に低いのは横浜市と大阪市が4.3%(ともに前回と同値)、名古屋市と福岡市が4.5%(ともに前回と同値)、京都市4.6%(前回と同値)、神戸市4.7%(前回と同値)、そして札幌市・仙台市・広島市が5.0%(すべて前回と同値)となっています。主要都市ではどこでも期待利回りが5%以下となっています。
次に、ファミリータイプに目を向ければ、ワンルームタイプと同様に全国主要都市で史上最低値が続いていますが、その中でも、地方都市で期待利回りが低下しています。東京城南エリアでは3.8%(前回と同値)ですが、横浜市は4.3%で前回よりマイナス0.1ポイント、京都市では4.6%で前回よりマイナス0.1ポイント、神戸市では4.7%で前回よりマイナス0.1ポイント、広島市では5.1%で前回よりマイナス0.1ポイントとなっています。
しかし、実際の取引における利回りは、「期待する利回り(=キャップレート)」よりも、低くなっているようです。この調査によれば、東京城南(想定エリアは、目黒区・世田谷区、渋谷駅や恵比寿駅まで15分以内の鉄道沿線)でのワンルームタイプの取引利回りは3.4%が平均値となっています(こちらは前回調査と同値)。
また、東京城東地区では期待利回りは3.9%(4回連続同じ値)、実際の取引利回りは3.6%(同)となっており、こちらも史上最低値が続いています。

気になる金利の動向と見通し

日銀は6月16-17日の金融政策決定会合で政策金利を0.5%のまま据え置くことを決定しました。2024年中に2回、2025年1月に1回、政策金利はあがりました。そのため、借り入れを行う際の金利(=名目金利)は多少上昇しました。しかしインフレ率を加味した「実質金利」でみれば、以前よりも低い状況にあり、実質マイナス金利状況といえます。
実質金利とは、名目金利から物価変動の影響(予想インフレ率)を差し引いた金利のことです。2021年のインフレ率は0%~0.5%程度でしたが、この時の借入金利が例えば1%ならば、実質金利は1%~0.5%ということになります。一方、現在のインフレ率は2%台前半ですので、1.5%で借り入れをしたとしても、実質金利は-0.5%となり、実質金利を比較すれば現在の方が低くなり、今の方が「金融緩和」状況にあると言えます。

図3:各種金利の推移

基準割引率・プライムレート:日本銀行、都市銀行
住宅ローン:各金融機関
長期国債:財務省
フラット35:各金融機関
賃貸住宅融資(35年):住宅金融支援機構より作成

現在多くの方が利用する変動金利ですが、この変動金利(短期金利)に影響があるのが政策金利です。政策金利は、日銀が物価の動向を見定めて、物価を安定させるために、政策的に操作する金利です。政策金利は2025年1月末に0.5%となって以降、横ばいとなっています。この間(1月以降)も物価上昇は2%台前半が続いており、年内にも0.25%~0.5%程度(=1~2回)の利上げが行われるという見方が大半でした。しかし、4月に入って以降の米国政権による関税政策(いわゆるトランプ関税)などが世界経済を大きく揺さぶることになり、この先の経済動向の見通しが立てにくい「不確実性が強い」状況となっています。それにより、日銀展望レポートでは、この先の物価上昇の見通しは下方修正されています(5月1日公表の日銀レポート)。このようなことから、日銀の意向とすれば政策金利は多少上げる方向にあるようですが、政策金利の上昇が年内に行われるかは不透明な状況(=上がらない可能性もある)といえるでしょう。そうだとすれば、賃貸住宅都市も積極姿勢が続くと思われます。

2025年後半の賃貸住宅建築、広がる賃貸住宅経営の可能性

全国主要都市、そして郊外地域でも賃料の上昇傾向が顕著な状況にあります。入替時賃料だけでなく、更新時賃料も上昇傾向になってきました。そのため、これまで以上に賃貸住宅経営の可能性が広まっています。
これまでの賃貸住宅投資では、都市部(中心市街地)で、駅近の賃貸住宅が、投資家にとって魅力ある賃貸住宅でした。地価上昇、建築費上昇が続いている中では、今後の賃貸住宅選びの目線を変えて、郊外にも目を向けるといいと思われます。また、土地活用における賃貸住宅建築でも同様です。そもそも新たに購入する賃貸住宅用地は少なく、あってもかなり高額となり、期待利回りは低くなります。依然として都市部での賃貸住宅建築適地、土地活用検討用地は、かなり少ない状況が続いており、これまで以上に地方や郊外に収益不動産の投資(=建築)の範囲は広がるでしょう。
賃貸住宅経営においては「需要が多い駅近立地」は魅力ですが、「魅力的な賃貸住宅」は世帯構成や家族の年齢、ライフスタイルにより変わります。学校や病院、商業施設など、近隣に必要な施設や環境もそれぞれで、求める間取り、外観デザイン、設備も変わってきます。
こうした状況を大和ハウス工業などの賃貸住宅建築の実績豊富な企業では、地域密着を活かして熟知していると思いますので、丁寧に打ち合わせを重ねて、該当地域に相応しい賃貸住宅を建築すれば、ご入居者に困る可能性が少なくなります。「多くの人に魅力的な賃貸住宅」である必要はなく、部屋数のニーズがあればいいわけです。該当地には「どんなエリア特性があるのか」をパートナー企業にアドバイスをもらいながら、「どんな方々に住んでもらうか」をイメージし、そのイメージに合う賃貸住宅ならば、ご入居者付けに困ることは少ないと思います。

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