
鯖の菊花巻きは、モミジとクリが見事に秋を表現した逸品。五感に訴える美味しさだ。
八戸市に開店して約40年、「俵屋」は寿司と新・郷土料理の店だ。新・郷土料理とは、郷土の食材を使った創作料理のことだ。社長で料理人である沢上弘さんによると「阿房宮は変色せず、酢の物と相性がよく、シャキシャキとした食感があります。なにより食材として邪魔をしないのがいいですね」という。
「俵屋」では、鯖の菊花巻きをいただける。八戸産のしめ鯖は、全国の7、8割のシェアを誇る。中でも銀鯖は脂がのって美味しいと評判だ。この鯖を使った菊花巻きは、彩りも美しい。「人はまず目で食べるものです。きれいに盛りつけると、おいしいと感じる。そして味で美味しいとより喜びが倍加するんです」と日本料理を修行した沢上さん。鯖の菊花巻きは、まさに秋の季節感を存分に感じられるもの。いただくと、鯖の脂の上質な味わいに、巻かれた阿房宮が絶妙な食感を添えてくれる。紅葉やイチョウをあしらうだけで、一皿に日本の趣深い和の心を凝縮しており、目でも舌でも口福を味わえる逸品だ。
菊づくし料理「菊花繚乱」。目にも鮮やかな料理はボリュームもあり、菊の香りがふんわりと漂う。
公共の宿であるチェリウスのレストラン&喫茶「紫陽花」には、「菊花繚乱」という菊づくしの料理がある。先付からお吸い物まで10品すべてに食用菊阿房宮を使っている。料理長である市川晃さんは「阿房宮は、食べて甘く、香りもいい。小さな頃から身近な食材として食べてきましたが、菊花繚乱のようにさまざまな料理に化けるのは料理人としても驚きます。予約は女性が多いのですが、菊料理は珍しがられて、きれいなのでとても喜ばれますね」と話す。
菊花繚乱はチェリウスがオープンして間もない頃から南部町の特産物を使った特色ある料理として供されてきた。とくに菊巻漬けは、昔から一般家庭でつくられていた郷土料理の一つ。また菊巻寿司は色彩も美しく、一本丸ごとオーダーされるお客様もいるほどで、いただいてみるとシャキシャキとした歯ごたえが酢飯と合い、美味しい。ほかにも鶏せんべい鍋は、青森県南部地域の郷土料理。旬の秋には、菊花をまるごと一輪添えてもらえるので、ぜひ秋の風物詩として堪能したい。
「菊の里」は、干し菊とバターを練り込んだ生地に白ごまの入った餡がアクセントになっているホイル包みの焼き菓子。
阿房宮をふんだんに使った和菓子があると聞いて訪れたのが、大正15年に創業した「港むら福」だ。ここには、阿房宮の干し菊を使ったお菓子「南部 菊の里」「菊かすていら」「阿房菊」などがある。八戸の郷土史家や文人に頼まれて地元の土産菓子として2代目が考案したものだ。3代目の舩場修さんは「食用菊は、少しクセがあるようで、苦手な方もいます。お菓子にすれば気にしないで食べられると思いました。干し菊はこの辺りにしかないので、ここにしかないものをつくりたかったんです」という。地元では土産物の定番で、一度食べてくれた人が好んでくれたりと、リピーターは多い。「阿房菊」をいただいてみると、菊の香りが鼻腔をくすぐり、ブランデーケーキのような味わいが口に広がる。
一方で、舩場さんは菊の生産量が減ってきていることに懸念を示す。「食べられる花というのは他の地方では珍しいですよね。これだけきれいで、香りもある。せっかく南部地方の特産としてあるものなので、盛り上げていきたいと思っています」と話してくれた。
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