
流れるような美しいしぐさは、そこにいる人を幸せな気持ちで包みこんでくれます。だからこそ改まった席だけでなく、家族など身近な人と接するときにも礼儀作法を意識しておきたいもの。小笠原流礼法の宗家、小笠原敬承斎(おがさわら・けいしょうさい)さんに伺うふるまいの美学。後編は、日常で心がけておきたい作法を教えていただきます。


「惣(そう)じて物を持つに 軽き物をば 重き物のように心得て持つべし」──小笠原流礼法に伝わる教え歌では、物を持つしぐさがこのように詠われています。軽い物も重い物のように、つまりどのような物でも大切に扱うという教え。物に対するその意識が、人への気づかいにもつながると敬承斎さんは語ります。
「物を渡すときも受けるときも、両手を使ってていねいに。そのしぐさで、相手を思う心が伝わります。片手でも持つことのできる小さな物には、もう片方の手を軽く添えましょう。ペンなど今すぐに使う物は、相手の方の手に収まる角度に傾けてお渡しします」
今日からすぐにできる、思いやりを映したしぐさのひとつです。


玄関で靴をきちんと揃えることは、多くの人が知る礼儀作法の基本。さらにもう一歩、「靴の中の清らかさ」にまで心配りをすすめているのが小笠原流の教えです。
「脱いだあとの靴の中は、自分で思う以上に人目につきます。そこに触れていた足で入室するのですから、中敷までも清らかにしておくことが心づかいでもあり、同時に心にゆとりがあることの表れにもなります。このように足元を照らして考え、自分の心を振り返り、見つめることを、脚下照顧(きゃっかしょうこ)と申します」
ゆとりある心から生まれる作法が、訪問先だけでなく大切な家族と暮らす家での心地よさにもつながっていきます。


「家族や友人など、親しい人にはつい気を許して甘えてしまいがちです。その気持ちを抑え、慎みを持ち、感謝の気持ちとともにふるまうことは、決して我慢や犠牲を強いられるという事ではございません。なぜなら相手が幸せになることは喜びであり、己自身の幸せにつながるからです。誰かに幸せにしてもらうことを待つのではなく、自分が幸せの循環の始まりとなる。そのような心掛けが礼法には大切です。」
敬承斎さんが最後にくださったあたたかな言葉と笑顔。そこにはすでに幸せな空間が生まれていました。ひとつひとつのしぐさで、毎日、ていねいに紡ぐように…。あなたと周りの人を幸福で満たす美しいふるまいを、ぜひ身につけていきましょう。
スッと流れるようなしぐさで美しく椅子に腰掛ける姿は、見ている人にも清々しい印象を与えます。訪問先などで自然にふるまえるよう、日頃から心がけましょう。
椅子の座り方
腰掛ける、立ち上がる。自然で美しい、流れるようなしぐさ
①基本は椅子の左側、同席者がいる場合は相手から遠い側に
立ちます。
②外側の足を、一歩前に踏み出します。
③内側の足を椅子の正面に出すと同時に、重心を移動します。
④椅子の正面で両足を揃えます。
⑤背筋を伸ばしたまま、静かに腰を下ろします。
(ワンポイント)
立ち上がるときは、逆の流れになります。
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小笠原敬承斎(おがさわら・けいしょうさい)
小笠原流礼法宗家。前宗家の小笠原忠統(小笠原惣領家第32世、元伯爵)の実姉・小笠原日英尼公の真孫。東京都生まれ。聖心女子学院卒業後、イギリスに留学。副宗家を経て、1996年に就任。700年の歴史を誇る武家の礼法・小笠原流を現代のマナーに生かすべく、普及に務める。門下の指導にあたるとともに、各地での講演、研修、執筆活動に従事。『伯爵家のしきたり』(幻冬舎)、『日本人なら知っておきたい 美しい10の作法』(中経出版)など著書多数。