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風土とともに歩んできた森野吉野葛本舗

「一目千本」と呼ばれるほど吉野山の桜。多くはシロヤマザクラという品種だ。

  • 茶花としても愛される葛の花。葉や花が家紋にもされるほど日本文化に根づいてきた植物である。。
  • 採掘された葛根。太さや長さに関わらず、良質な葛根を掘り出すことが大事だ。
一目千本の桜と葛粉の産地、吉野

 平安時代の古今和歌集に登場するなど、古くから日本一の桜の名所として知られる吉野山。春になると約200種3万本もの桜が尾根から谷まで咲き誇る。松尾芭蕉、豊臣秀吉など多くの文人墨客や時の権力者が花見に訪れてきた。中でも「ねがはくは 花のしたにて 春死なむ……」と詠った西行は、吉野の奥千本といわれる辺りに庵を結んだほどだ。
 吉野地方は、周辺を多くの山に囲まれた急峻な地形にある。高地にあるため、夏は涼しく過ごしやすい一方、冬は季節風の影響で寒さが厳しい。この山々が時間をかけてろ過した地下水はミネラル分が少ない軟水で純度が高いのが特徴だ。
 この地に昔からある葛を使った産物が、吉野本葛だ。葛はマメ科の植物で、広く日本に分布している。秋の七草の一つとして、紀貫之などの文人たちにも愛されてきた風雅な植物でもある。花や根が漢方薬に用いられたり、茎からとれる繊維で葛布を織ったりと、花、茎、根のすべてが利用できる。吉野本葛も葛の根から採取するでん粉が原料だ。その歴史は古く、最も古い記録は奈良時代にさかのぼるという説もあるほど。盛んに用いられるようになったのは江戸時代からで、和菓子や日本料理に雅な趣を添えてきた。

松山街道に面した「森野吉野葛本舗」。街道筋には、醤油や酒屋など水に関わる店が並ぶ。

  • 店内に並ぶのは吉野本葛や葛湯、葛きりなど。原料屋としての品揃えだ。
  • 吉野本葛。昭和天皇が工場と薬園を行幸・視察されたことを記念した「みゆき(御幸)」印のものもある。
宇陀松山藩のお膝元で商ってきた「森野吉野葛本舗」

 吉野の西、宇陀市大宇陀は江戸時代に宇陀松山藩の陣屋町として栄えたところ。伊勢や熊野と結ぶ松山街道が通る要衝の地で、織田信長の血をひく松山織田家が治めていた。現在は国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されており、街並には閑雅な雰囲気が漂う。
 その一郭に吉野葛を商う「森野吉野葛本舗」がある。南北朝時代に初代が大和国吉野郡下市で葛粉の製造を始めたと伝えられる。20代目となる森野智至さんは「葛は気候や風土の影響を受けやすく、製造には良質の水、冬の寒さが大切です。この大宇陀地域は水がきれいで、真冬は日中でも氷点下になるほど、県内でも特に冷えこみが厳しいんです。山に囲まれているので冷気が流れ込みやすいんでしょう」という。記録によれば森野さんのご先祖は1615年、下市からこの大宇陀に移った。それ以来代々葛づくりを受け継いできた。
 今でこそ和菓子や日本料理の高級な食材として使われる葛粉だが、でん粉なので昔はそれ自体を栄養源として食べていた。かつては名古屋近郊の三重、金沢近郊の能登など、他の城下町近郊でもつくられていたが、それが廃れ、奈良の葛づくりが残ったのは京都や大阪に近い地理と、気候的な条件が大きいと森野さんは話す。

森野旧薬園の山腹で佇む20代当主森野智至さん。

  • 『松山本草』。大学の研究にも使われており、最近では銀座の企業ギャラリーの企画展で大きくとりあげられた。
  • 薬草の覚書『物産宝山記』。森野家に伝わってきた貴重な資料。
  • 森野旧薬園。約3000坪の広大な土地にさまざまな草木が繁茂している。
受け継がれていく葛づくりと国内最古の薬園

 葛は水菓子や羊羹に加えて食感を高めるなど、前面には出ずに素材の良さをひきたてる役どころだ。しかし、葛は洋菓子で使われる透明なゼラチンと違って、すぐ白濁してしまう。森野さんはそれを障子や磨りガラスのように淡く儚い「日本の美」だと言い表す。
 また、葛は体内に吸収されやすく、薬草として珍重された葛の根からつくられた葛湯は身体を温める効果があるといわれる。江戸時代中期の11代目当主森野賽郭(さいかく)は葛をはじめとする薬草に着目し、店の裏手の山に私設薬園「森野旧薬園」を開いた。園内には約250種もの薬草木や観賞用植物が育つ。訪れた春の薬園はカタクリが咲き終わり、アミガサユリやイカリソウが咲いていた。現在は国の史跡として一般公開されている。
 賽郭は、近畿や美濃、北陸の山野を歩き回って薬草を採取し、幕府に献上したほか、8代将軍吉宗のもとで国内産の漢方薬の普及にも貢献している。さらに薬草や動物を写生、彩色してつくった緻密な動植物図鑑『松山本草』全十巻は、本草学の貴重な資料として現在も高く評価されている。店の裏手には資料館もあり、そこには当主の肖像画や家則のほか、奈良県の採薬ルート、昔の見聞録などが見られるようになっている。(一部は期間限定)

森野吉野葛本舗
  • [Part.1]風土とともに歩んできた森野吉野葛本舗
  • [Part.2]厳しい仕事が生む吉野葛の輝き
  • [Part.3]吉野地方の味覚を堪能する

※掲載の写真は平成28年4月に撮影したものです。

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