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コラム vol.264-6
  • 土地活用税務コラム

税の仕組みを知れば、もっと土地活用は面白くなる(6)借入による相続対策は、本当に有効か?

公開日:2019/05/31

POINT!

・不動産投資と税務対策とは切り離して考えるべき

・不動産が投資対象として適切かどうかという視点だけを考える

借入金があると相続税が軽減されると考えられている方が多くいらっしゃいます。実際に、「借り入れによる不動産投資をして、相続税の対策をしましょう!!」という税務対策をうたったキャッチコピーもよく目にします。
相続税の計算上これは間違っていませんが、実際に相続対策等に携わる専門家として、このような税務対策の提案を行うことは滅多にありません。また、私自身が、相続対策が必要な資産家だったとした場合、相続税の対策のために、銀行借り入れをしてまで不動産投資を行うかというと、おそらくしないと思います。
相続税の仕組みを熟知している人が銀行借り入れをしてまで不動産投資による税務対策を行わない理由はどこにあるのでしょうか。

相続税の仕組みについて

まず、相続税の仕組みについて見てみましょう。相続税の計算は、プラスの財産からマイナス(借金など)の財産を差し引いた正味財産(純資産)に対して課税されます。借入金などのマイナスの財産があれば正味財産は少なくなり、相続税の負担を小さくすることが可能です。仮に、プラスの財産よりもマイナスの財産の方が大きい場合には、相続税はかからないことになります。それ故に、借入金を増やして正味財産を小さくしましょうというのが、前述した借入金による税務対策スキームです。

ただ、実のところ借り入れをしただけでは、正味財産は小さくはなりません。
もともと1億円の遺産総額(=正味財産)だった人が、1億円の借り入れをして現金として保有したままの場合は、プラスの財産とマイナスの財産がそれぞれ1億円ずつ増えただけなので、正味財産に変動はなく1億円のままです。

ここで、相続税の計算で面白いのが、現金1億円や借入金1億円は、それぞれ相続税の計算上1億円と評価されるのに対し、不動産の場合には1億円で取得しても、1億円とは評価されずにもっと小さな金額で評価されることです。
例えば、土地の相続税評価は、実勢価格の約8割といわれていますし、その土地を活用して賃貸住宅やマンションを建設し不動産業を営めば、その実勢価格の8割の不動産評価額から約2割の評価減が可能になりますし、さらに、他の資産状況次第では、小規模宅地等の特例による評価減が可能な場合もあります。
つまり、借り入れた1億円を使って1億円の不動産投資をすると、相続税の計算上1億円ではなく半分程度の金額によって評価されます。
具体的な事例を以下に見てみましょう。借り入れによって1億円というマイナスの財産が増えますが、この1億円を使って不動産投資をすることでプラスの財産として増えるのは5000万円だけです。借金1億円が増えて5000万円の不動産が増えるだけなので、正味財産が1億円から5000万に減少し、相続税の対策が実現するのです。

これが、借入金による不動産投資の相続対策の代表例です。究極的には、このような対策の 規模を大きくし、借入金をより一層増やして不動産投資を拡大することで、相続税の軽減が期待されます。

相続税が安くなる本当の仕組み

「借り入れによる不動産投資をして相続税の対策をしましょう!!」というキャッチコピーに乗って、相続税の対策ができた場合、借入金のお陰で相続税が少なくなったと誤認してしまいがちですが、不動産投資をすることで税務効果が出る要因は、「借り入れ金額」と「不動産の相続税評価額」との差額によって、正味財産の金額が小さくなったのではありません。
正味財産が小さくなった要因は、「賃貸住宅・マンションの不動産の時価」と「不動産の相続税評価額」との差を活用することによって生じたものです。
もう一度申し上げますが、借り入れをしたことによって正味財産が少なくなったわけではありません。「借り入れによる不動産投資をして相続税の対策をしましょう!!」というキャッチコピーは、お金を貸したい金融機関によるものです。ここの理解を間違えてしまうと、資産と負債のバランスを誤ることになってしまいます。
実際に、借り入れをせずに、1億円の自己資金で賃貸住宅・マンション投資をしても、以下のように同様の相続税の軽減効果を得ることが期待できます。

借り入れによる不動産投資における税務対策を推奨しない理由

この借入金による不動産投資スキームは、相続税対策において多くの場で提案されています。このように相続税をゼロにすることができる夢のようなスキームがあるにもかかわらず、税理士などの専門家が積極的に借り入れを推奨しない理由は何でしょうか。
それは、簡単な話です。相続税の負担が小さくなった一方で、相続人は借入金を返済し続ける義務も承継します。ここで相続人に何千万円(場合によっては億単位)もの借金を背負わせてもよいのでしょうか。借入期間は数十年にも及び、借金という負担が相続人に重くのしかかることになります。相続税の負担が少なくなったからといって、相続人に借入金を遺すというのは、私が被相続人の立場なら非常に心苦しいものがあります。

不動産投資による税務対策が推奨されるケースとは

では、借り入れに頼らず自己資金ならば、相続税対策として「あり」なのでしょうか。どのような場合に、不動産投資による税務対策が推奨されるのでしょうか。
推奨するか否かの答えは簡単です。その不動産が投資対象として適切かどうか、という視点だけです。決して、銀行借り入れによる不動産投資が駄目、自己資金だったら有効という訳ではありません。
税務対策とは切り離して考えるべきで、結局のところ、その不動産が借入金に見合った投資なのか、自己資金を使っても価値のある投資なのかの目利きをしなければなりません。

相続税の対策は不動産投資の副産物にすぎず、決して税務対策が目的になってはいけません。税務対策が目的となると、相続税の負担軽減だけに目を奪われてしまい、不動産投資としての本来の目的を失い、資産と負債のバランスに配慮を欠いてしまいます。そうなると、相続人に多大な負担を強いることになってしまいます。
不動産投資をするうえで、自己資金が無い場合には、銀行借り入れをすることは当然の資金調達方法です。その際には、資金調達に見合った不動産投資なのかを検討されるでしょう。そこに「いくら相続税が安くなる」という判断要素を織り込むべきではないと思います。 また、借入金を相続人に残してはいけない、といっている訳でもありません。借り入れをしてでもなお、投資をすべき優良不動産なのであれば、相続人は仮に負債を相続したとしても納得してくれることでしょう。
私がこのような税務対策目的として推奨しないのは、税務対策を目的とした不動産投資をしてしまっては絶対にいけないという思いが根底にあるからです。
もし、相続人にも投資をさせてあげたい優良な不動産投資があるのであれば、銀行借り入れをしてでも検討すべきですし、そのような投資対象については、積極的に提案、投資の推奨をしてあげたいものです。

私自身、もしそのような優良な不動産とタイミングよく出会えたならば、それは税務対策を目的としてではなく、純投資としてその不動産を取得するでしょう。そして、そのような不動産については、あわよくば自分の相続人もその投資を継続してもらいたいと思うことでしょう。

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