
CASE17親から子へ土地を安く売却するとみなし贈与になる?
公開日:2025/05/30
Aさんは保有する土地を子どもに生前贈与したいと考えましたが、無償で贈与すると贈与税がかかると心配になり、現在の実勢価格1億円(30年前に3000万円で購入)の土地を1000万円で子どもに売却することにしました。ところが、この方法は「みなし贈与」の課税対象になると指摘されてしまいました。

「不動産を無償で譲れば贈与税がかかることは理解できるが、有償で売却すれば、問題ないのではないか」と多くの人が考えるかもしれません。しかも、「売却価格は売主が決めるのだから」と考えれば、いくらで売っても自由のはずと思っても不思議ではありません。この場合、思惑どおり贈与税の支払い義務は生じないのでしょうか。
この場合は、本来ならば1億円の土地を1000万円で子どもに売却しているため、差額の9000万円がみなし贈与の対象となります。したがってAさんには所得税が、子どもには贈与税がそれぞれかかります。
実勢価格どおりの1億円で売却すれば、子どもには贈与税はかからず、親に所得税がかかるだけですが、みなし贈与の場合、所得税よりもはるかに高い贈与税率になってしまう可能性がありますので、注意が必要です。
このケースのようなみなし贈与は、知らないうちに課税対象となる取引を行っていたことによって、後日発覚することもありえます。発覚した時には原則としてすでに手遅れとなってしまい、後で対策を取ることはできません。
通常の売買価格との差額は「みなし贈与」になる
親族の間で不動産を取引すると、売買をしたにもかかわらず贈与税が課税される場合があります。親の心理として子どもには通常の取引価格ではなく、安く譲渡したいという気持ちは誰にでもあることでしょう。ところが、不動産の親族間売買において、「通常よりも著しく低い価格で売買した」と判断された場合は、通常の価格との差額は贈与とみなされ、贈与税の対象になってしまいます。
不動産を通常よりも低い金額で売買すると、買った子どもは通常の価格で購入した場合に比べて大きな得をしたことになりますので、その得をした分の金額は、税制上、売主から買主へ贈与があったとみなされます。これを「みなし贈与」といいます。つまり、売買を行ったにもかかわらず、贈与税が発生してしまいます。
このケースのように、通常1億円で売買される不動産を親から子へ1000万円で売却した場合は、買主である子どもは9000万円得したことになります。この9000万円がみなし贈与となり、親から子への贈与として贈与税の対象になります。そうなると、1000万円の購入費用をはるかに超える贈与税がかかってしまうことになります。
親から子どもへの土地を譲渡する際の、適正価格については、後述しますが、さまざまなケースが考えられますので、専門家への相談することをお勧めします。
慎重に親族間売買を活用する
売買の金額の問題はあるものの、生前に親子間で売買を済ませておくことができれば、何よりも相続上のトラブルを防ぐ方法のひとつになります。亡くなったあとに相続財産として不動産がある場合、相続人同士でトラブルになるケースも少なくありません。生前に話し合いのもと、子どもに売却しておけば、少なくとも土地に関する問題を解決することにつながるでしょう。親にとっても、大切な不動産ですから、子どもが引き継いでくれるのが決まっていれば、安心感は増すでしょう。
また、親子間で土地を売買することは、金額面での注意は必要ですが、売買代金の支払いなどの取引の条件や引き渡し条件など、柔軟に調整できます。
親族間売買の適正価格
親子間(親族間)で不動産価格をいくらにすればよいかについては、さまざまな意見やケースがあり、難しい問題ではありますが、少なくとも「みなし贈与」と判断されない価格で取引する必要があります。いくつかの方法を紹介します。
不動産業者による査定価格
不動産業者に査定を依頼することで、実勢価格に近い価格が提示されるでしょう。安く売買したいという親子のニーズには合わない可能性もありますが、実勢価格からはずれることはないでしょう。
不動産鑑定価格
厳密な査定を望むのであれば、不動産業者に加えて、不動産鑑定士に鑑定を依頼することです。ただし、不動産鑑定士の報酬がかかることになります。
路線価
実務上よく行われる対応としては、路線価を1.25倍して(80%で割り戻して)適正価格を求めることもあります。この対応は、路線価が地価公示価格等の80%で定められていることを根拠にしたものです。
また、路線価が時価から大きくかけ離れていないことが前提にはなりますが、路線価をそのまま適正価格として使うこともひとつの方法です。
親から子どもへの「みなし贈与」の問題は、ありがちな問題です。生前贈与、または生前贈与を検討している場合は、税理士や不動産の専門家に相談しながら進めるようにしてください。