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コラム vol.451
  • 土地活用税務コラム

本当に朗報か?
相続土地国庫帰属制度(相続した土地を国に帰属できる制度)が創設されました。

公開日:2023/05/31

POINT!

・相続土地国庫帰属制度とは、所有者不明土地の発生を予防するための対策の1つとして、相続した土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度

・制度の利用には、「ヒト」「モノ」「カネ」の観点から条件(要件)が付されている

相続財産には、維持管理が困難な土地、孫子の代まで引き継ぐことが好ましくない土地が存在します。その際、「相続放棄をすればいいのでは?」と考える方が意外に多いのが現状です。
「相続放棄」とは、その相続財産のすべてを放棄する手続きであり、一部の土地だけを相続放棄することはできません。被相続人が所有していたすべての財産(遺産)が相続放棄の対象となってしまう手続きです。
昨今、「所有者不明土地」の問題が取り上げられることが増えています。その原因の1つが、土地を相続したけれども維持管理はできない。手放したいけど買い手がつかないなどを理由に名義変更をしないまま放置し、時が流れたことで次の相続が起きてしまい、また放置する方が増加していることだといわれています。
この所有者不明土地の発生を予防するための対策の1つとして、相続した土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度が創設されました(正式名称は、『相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律』〔令和3年法律第25号〕)。この法律ができたことで、「他の相続財産を放棄せず、不要な土地だけを国に帰属してもらえばなんとかなるのではないか」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、本当に「なんとかなる」のでしょうか。

相続土地国庫帰属制度のメリット

まずメリットから考えてみましょう。せっかく相続した不動産ですから、本来は有効活用したり売却したりすることで、資産として運用することが望ましいでしょう。しかし、買い手がつかない場合や有効活用の手立てが見つからない場合は、固定資産税の支払いや荒地にしないための管理などが必要となり、負担も年々かさんでいきます。この制度を利用することで、条件さえ満たせば、とても買い手がつかないような条件の土地でも国が引き取ってくれるとされています。このまま保有していても、有効活用ができない場合、管理に手間や費用がかかる場合などは、この国庫帰属制度を活用することでメリットになりそうです。
また、宅地や商業地だけではなく、農地や山林もこの制度の対象に含まれている点も、メリットの1つといえるでしょう。農地の場合、農地法という法律によって売却の条件が規定され、買い手も原則として農家に限定されますし、山林の場合は、災害リスクや管理の手間の大きさもあり、買い手がつくことはまれです。

本当に朗報か?

この法律ができて、相続した土地がどうにもならなかったら国庫に帰属させるという制度ができたこと自体はプラスといえるかもしれませんが、本当にそうなのでしょうか。
法務省は手続きのフローとして図1のように紹介しています。まず、承認申請書を土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門(登記部門)に提出することから始まり、審査が行われたのちに承認となるのですが、手続イメージを見ただけで、簡単に引き取ってもらえるわけではないことが想像できます。

図1:手続きイメージ

出典:法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」

そして、この制度は、誰でも・いつでも・どんな土地でも利用できるわけではありません。利用には、「ヒト」「モノ」「カネ」の観点から条件(要件)が付されています。

ヒトの条件(問題点)

「国民の誰でも、持っているいらない土地を国に引き取ってもらえる」ということではありません。
この制度が利用できる人は「相続や遺言で土地を取得した方」に限定されています。つまり、「自分で買った」「贈与でもらった」土地などは、対象外となります。また、複数人で共同所有(共有)相続した場合は、全員での申請が必要です。

カネの条件(問題点)

  • 1、審査手数料
    国が無料で引き取ってくれるわけではありません。費用の負担が必要となります。まず、審査手数料の金額は、土地一筆当たり14,000円となります。また、手数料の納付後は、申請を取り下げた場合や、審査の結果、却下・不承認となった場合でも、手数料は戻ってきません。
  • 2、負担金
    国が引き取ることになった場合に「負担金」という、おカネがかかります。土地は「原則20万円」となっていますが、土地の状況や面積などで変化します。法務省は次ページ図2のように負担金を定めていますが、多くのケースで、面積に応じた負担金が求められます。

図2:負担金算定の具体例

※1:市街化区域とは、すでに市街地を形成している区域又はおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域をいいます(都市計画法(昭和43年法律第100号)第7条第2項)。

※2:用途地域とは、都市計画法における地域地区の一つであり、住居・商業・工業など市街地の大枠としての土地利用が定められている地域をいいます(都市計画法第8条第1項第1号)。

※3:農用地区域とは、自然的経済的社会的諸条件を考慮して総合的に農業の振興を図ることが必要であると認められる地域として指定された区域をいいます(農業振興地域の整備に関する法律(昭和44年法律第58号)第8条第2項第1号)。

出典:法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」

モノの条件(問題点)

「ヒト」「カネ」の問題に加えて、さらに大きな問題が「モノの条件」といえます。どんな土地でも引き取ってもらえるわけではありません。法務省の「相続土地国庫帰属制度の概要」によれば、以下の土地は引き取ってもらうことができません。

  • 【引き取ることができない土地の要件の概要】
  • (1)申請をすることができないケース(却下事由)(法第2条第3項)
  • A 建物がある土地
  • B 担保権や使用収益権が設定されている土地
  • C 他人の利用が予定されている土地
  • D 土壌汚染されている土地
  • E 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
  • (2)承認を受けることができないケース(不承認事由)(法第5条第1項)
  • A 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
  • B 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
  • C 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
  • D 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
  • E その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
  • 出典:法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」

中でも、「(1)E境界が明らかでない土地」という条件が付されていますが、国庫に帰属させたい土地の多くのケースで境界が明らかではないことが想像できます。境界を明らかにするには、隣接する地主全員から「境界確認」の承諾をもらうことになりますし、境界確定には測量費用や地積更正登記などの費用がかかります。

まとめ

相続土地国庫帰属制度を簡単にまとめると、「建物もない更地で、抵当権等の設定や争いがない、境界が明らかになっている」場合は引き取る可能性がありますが、「とにかく、問題が少しでもあったら、引き取ることはできません!」という意味にもとることができます。また、上記に該当しない土地であれば、売却したり、引き続き持ち続けたりすることができる土地である可能性が高いと思われます。国への引き取りを望む方は、その土地がなんらかの問題を抱えているから困っているのではないでしょうか。
この制度を活用したいとお考えの方は、この制度を活用することが本当に有効なのかどうか、「相続した不要な土地は、本当になんとかなる」のかどうか、税理士・会計士や不動産の専門家に相談しながら、正しい判断をするようにしましょう。

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