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コラム vol.331
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人口流入増が招く賃貸住宅需要。都市別にみる有効求人倍率と人口の関係

公開日:2020/06/30

POINT!

・有効求人数が増えると転入者が増えるという傾向は、たいていの大都市でみられる

・職を求めて都市に移動する人は、賃貸住宅に住む人が大半なので、有効求人数が賃貸受託需要に影響を与える

初めて賃貸住宅を借りるタイミングは?

「初めて賃貸住宅を借りたのはいつでしたか?」この質問に対する大半の答えは、「進学」もしくは「就職」だと思います。近年では、高校卒業後の進学のあり方が変化しており、東京などの大都市にある大学・専門学校への進学以外では、親元から通うという方が増えているようです。そのため、これからは初めて賃貸住宅を借りるタイミングは「就職するとき」という方が、増えていくものと思われます。 

職の転移で増える賃貸住宅需要

このところ、新型コロナウイルスによる影響で失業者が増えているという記事をよく目にします。業績悪化に伴う解雇や雇止め(契約社員などの雇用期間の定めのある従業員について、契約更新をせずに契約期間満了を理由に契約を終了させること)により、失業者が増えているというものです。こうしたネガティブな状況は業種により異なるようですが、この傾向は雇用の転移(変化)を招くことになります。具体的には、1)職の少ない地方都市から比較的職の多い都市部への移転という勤務地の移転、あるいは、2)介護職など求人が多い業種への移転です。1)が増えると、地方から大都市部へ、また地方都市郊外から地方中心地への移転が増加し、これらの地域での賃貸住宅需要が高まることが予想されます。転居を伴う転職(就職)をする方々の大半は賃貸住宅に暮らします。その地でおおむね3~5年に一度の頻度で引っ越したり、結婚して広い部屋を求めて転居するなど、30歳くらいまでに2~3回引っ越す方が多いようです。

東京では有効求人倍率が増えると転入者人口が増える

こうして考えると、「有効求人倍率が増えると、人口流入が増える」と推測されますが、実際にはどうなのか、都市別に見ていきましょう。

(図1)東京23区の転入者数と東京都の有効求人倍率の推移

※転入者数:日本人移動、有効求人倍率:除学卒・パート含
転入者数:総務省「住民基本台帳人口移動報告」、有効求人倍率:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成

図1は、1998年以降の、東京23区への転入者数と有効求人倍率の推移を重ねたものです(注:転入者には外国籍の方を含みません)。メディアで報道されている数字と同様に、厚生労働省が発表する有効求人数であり、公共職業安定所を通じた求人・求職に限られ、また、新規学卒者は除かれています。有効求人倍率が1を超えるということは、職を探している1人の人に、計算上1社以上の求人があるということです。

ここ20年の東京23区への流入人口は、多少の波はありますが、毎年35万人前後となっています。リーマンショックによる景気悪化後の2010年~2011年あたりは多少減りますが、その後はおおむね増加傾向にありました。
東京における有効求人倍率は、バブル崩壊の立ち直りが見え始めた2000年代の前半ごろから1倍を上回りますが、ミニバブル崩壊の兆しが見えはじめリーマンショックに至る2008年~2010年頃には1を下回ります。しかし、自民党政権に交代、景気が回復し始める2013年ごろから1を超え、右肩上がりが続き、このところは2倍近くになっていました。
「売り手市場」が続いていたわけです。

グラフを見ると、23区への転入者数と有効求人倍率の動きが似ていることが一目で分かります。2014年から2016年の転入者の大きな変動を除けば、「ほとんど同じ動きをしている」といっていいでしょう。この間、東京都市部における賃貸住宅の空室率(空室数)は極めて少なく、特にワンルームなど一人暮らし向けの物件はフル稼働という状態が続いています。「職が増える」→「転入者が増える」→「賃貸住宅需要が増える」という構図がはっきりとうかがえます。

近年、変化の見られた大阪

次に大阪の様子を見てみましょう。

(図2)大阪市の転入者数と大阪府の有効求人倍率の推移

※転入者数:日本人移動、有効求人倍率:除学卒・パート含
転入者数:総務省「住民基本台帳人口移動報告」、有効求人倍率:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成

大阪市では、ミニバブル期くらいまでは、有効求人倍率はあまり高くなく、また倍率が増えても、それほど転入者が増えないという傾向にありました。また、グラフを見ると分かるように、リーマンショック後も2016年くらいまでは、有効求人倍率が増えても転入者が増えることはなく、あまり相関は見られませんでした。しかし、2016年以降は、有効求人倍率の増加とともに、転入者が増えるようになり、きれいな相関がみられます。

製造業中心の愛知県はきれいな相関 

最もきれいな相関が見られるのが愛知県です。

(図3)愛知県の転入者数と愛知県の有効求人倍率の推移

※転入者数:日本人移動、有効求人倍率:除学卒・パート含
転入者数:総務省「住民基本台帳人口移動報告」、有効求人倍率:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成

ここでは名古屋市ではなく、愛知県の転入数と有効求人倍率を見ます。自動車といった主要産業のトヨタ関連や航空機関連などの製造業の中心地が名古屋市ではなく周辺市町だからです。
これほどはっきりと相関が見られるのは、「自動車工場や家電工場、電子部品製造工場などで勤務する、期間の定めのある労働契約を結んで従事する労働者」、つまり期間工が多く勤務しているからだと推測されます。こうした方々は、会社が用意した社宅(社有、民間賃貸住宅借り上げ)に住むことが多いため、これらの地域での賃貸住宅需要が旺盛になっています。しかし、近年は有効求人倍率が高まっているものの、転入者数が増えていないようで、採用に苦心しているものと思われます。

はっきりした関連の見えない福岡

最後は、福岡の状況です。

(図4)福岡市の転入者数と福岡県の有効求人倍率の推移

※転入者数:日本人移動、有効求人倍率:除学卒・パート含
転入者数:総務省「住民基本台帳人口移動報告」、有効求人倍率:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成

福岡市の有効求人倍率の推移は、日本の景気の動き通りと言っていい状況です。
また、福岡市への転入者の数は、人口対比でみると高水準が長く続いています。
九州各県からの流入が多く、いわば九州地方の中での東京化が進んでいます。しかし、有効求人倍率と転入者の相関は、「それほど明確ではない」という状況になっています。福岡市内における郊外の開発が進んで人口が増えていますが、求人数の変化で上下しておらず、安定的に流入がある状況といえるでしょう。

今後の予測

「有効求人数が増える」→「転入者が増える」という傾向は、たいていの大都市でみられ、また、こうした「職を求めて都市へ移動する」方の大半は、初めは賃貸住宅に暮らすものと思われます。
こうして考えると、賃貸住宅需要は、世帯数による影響(人口ではありません)や持ち家比率の影響などとともに、求人数も大きな要因になっているものと思われます。

まだ詳細データは公表されていませんので、2020年春以降、新型コロナウイルス感染症が有効求人数にどのように影響しているか分かりません。
「航空業界が採用を見合わせる」という報道が大きく取り上げられましたが、その他、飲食や観光系ビジネスをはじめ、特定の業種では採用を控えており、求人数は大きく落ち込みそうです。しかし、これまで採用に苦戦していた業種では、採用しやすい状況になってきており、この機に採用を増やす業種業界もあるようです。
有効求人倍率は、2020年~21年半ばくらいまでは、落ち込む可能性が予測されています。

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