3つのポイントからみる高齢の単独世帯の住宅事情
公開日:2022/07/19
POINT!
・高齢期になると、それまで住んでいた戸建てから集合住宅に移る方がいる
・リフォームにより環境が整備された居住空間であれば、より元気で生き生きと暮らすことができる
・高齢者が自立して暮らすために必要なのは、一人で生活できることだけではなく、適切な支援を受けやすい環境
令和3年度住生活基本計画によると、2023年(令和5年)をピークに、世帯数が減少に転じる見込みです。賃貸住宅の需要は、世帯数の増減と密接な関係があります。増加を続けている高齢者世帯は2021年(令和3年)からの10年間も緩やかに増加し、単身世帯全体でも2032年(令和14年)にピークを迎え、全世帯の4割弱を占めると予想されています。
賃貸経営をするうえで、世帯構造と環境の変化に合わせた住居を提供することが大切です。
2022年(令和4)年5月24日、東京都は“一定の新築建物を供給する事業者を対象に太陽光設置パネルを義務化する”という都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(環境確保条例)の改正について、都民・事業者の声を有識者がまとめていくという内容の中間案を発表しました。東京都が国に先駆けて、脱炭素に向け動きだしたことになります。今後は住宅でも、温室効果ガスの排出をゼロにする2050年カーボンニュートラルの達成のために、CO2の排出量の削減強化が必須となります。
賃貸住宅の仕様も、国の施策に沿って加速度的に動いていくでしょう。また高齢者世帯では、将来の介護に備えてリフォームをする人もいれば、郊外の戸建てから都心回帰を希望する人もいます。さらに、ご自身が元気なうちに高齢者向け住宅に住み替えるなど、さまざまなニーズがあると思います。
そこで今回は、3つのポイントを踏まえて、高齢者と賃貸住宅の動向についてお話していきます。
1つ目のポイント:高齢の単身世帯と賃貸住宅の相性
住生活基本計画目標の1つに、「居住者・コミュニティ」の視点として、目標4「高齢者、障がい者等が健康で安心して暮らせるコミュニティの形成とまちづくり」があります。高齢者の方はどのような住まいと相性が良いのでしょう。
高齢期になると、それまで住んでいた戸建てから集合住宅に移るという方がいます。その理由は、夫婦二人の生活になり「大きな家が不要になった」「戸建管理が負担に感じる」「自身で移動手段を持たないため利便性の良い物件に魅力を感じた」などです。
一方で貸す側(オーナー)は、以下の2つの理由から、貸すことを悩ましく思っているケースがあります。
- 高齢者に賃貸物件を貸し渋る2つの理由
- (1)健康面や孤独死によるリスクが高い
- (2)家賃支払に不安がある
孤独死は悩ましい問題です。内閣府「高齢者の住宅と生活環境に関する調査(平成30年)」によると、60歳以上の一人暮らしの5割超が孤独死を身近な問題と捉えています。
同調査によると、高齢男性の単身世帯の半数以上が、近所の人とはあいさつ程度の付き合いです。これでは、何かあったときに誰にも見つけてもらえないと心配するのもわかります。
不動産取引の重要事項説明の際には、宅地建物取引業者は、自然死・日常生活での不慮の死(転倒、誤嚥等)を告げなくてもよいとされています。一方、一般社団法人日本少額短期保険協会「第5回孤独死現状レポート」によれば、孤独死が発見されるまでの平均日数は約17日です。
約4割が3日以内、3割が4日~14日間で発見されます。長期間発見されなかった場合は、特殊清掃などを行う必要があります。住人同士の情報交換ができる関係を保つことが理想ですが、賃貸物件では難しいのが現状です。
図1:「居住者・コミュニティ」の視点
出典:国交相 高齢者の住まいに関する現状と施策の動向
次に、金銭面での不安についてです。「令和3年版高齢社会白書」によると、高齢期の収入は公的年金のみという世帯が全体の半数を占めています。高齢世帯の平均所得は312.6万円で、その他の世代と比べて低く、中央値は255万円とさらに低くなります。ここだけをピックアップすると、たしかにオーナーにとっては家賃の支払いや家賃の未回収の不安がよぎります。
ところが同調査によると、60歳以上の世帯は負債が少なく、貯蓄額もその他の世代より多いのです。貯蓄現在高では、全世帯の中央値1,033万円に対し、60歳以上の世帯の中央値は1,506万円で、1.5倍ほど所有しています。このため、家賃債務保証会社を利用すれば、家賃の取りこぼしも防げます。家賃債務保証会社の年代別審査状況(図2参照)では、60代では約5割が通りやすいという結果になっています。
図2:家賃債務保証会社の審査状況
民間会社の家賃債務保証の審査状況を見ると、年齢では、高齢者が通りにくく、属性別では、生活保護受給者や外国人等が通りにくい傾向。
年代別の審査状況
属性別の審査状況
出典:(公財)日本賃貸住宅管理協会(平成28年6月)「家賃債務保証会社へのアンケート調査」
2つ目のポイント:これからの高齢世帯が安心・安全に暮らせる住宅は
人生100年時代で、平均寿命も延伸しています。高齢者の71%が戸建て住宅で暮らしています。心身の機能が低下、障害が生じるなど、配慮が必要な方が暮らしやすい住宅には、どのような工夫が施されているでしょうか?
住生活基本計画目標の目標4(図1参照)では、エレベーターの設置を含むバリアフリー性能や、ヒートテック対策等の観点を踏まえた良好な温熱環境を備えた住宅の設備、リフォームの促進をかかげています。具体的にリフォームをする際の目安として、国土交通省「高齢期の住まいに関する現状と施策の動向」があります。
ガイドラインによれば、以下のとおりです。
- ・温熱環境でヒートショックを防ぐ:冬暖かく、夏涼しい
- ・トイレ・浴室の利用しやすさ:身体への負担を減らす、可能な限り自宅で過ごすことが可能
- ・容易な外出で孤立を防ぐ:外出の機会が増える・人が集う住まい
図3:高齢期の健康で快適な暮らしのための住まいの改修ガイドライン:概要
<配慮項目と改修する空間>
<改修のイメージ>
出典:国土交通省「高齢期の住まいに関する現状と施策の動向」
高齢者が居住する住宅の一定のバリアフリー化率目標数値は、2025年(令和7年)に75%となっています。しかし、2018年(平成30年)の時点では42%とまだまだ低く、目標数値と現状に乖離があります。ガイドラインに沿ったリフォームが実施されれば、近年問題となっている高齢者のヒートショック、トイレやお風呂での事故の発生を未然に防ぐことにつながります。
高齢者の健康管理に、IoT技術を活用した見守りを取り入れて、安心な暮らしを手に入れる方法もあります。この方法は、大きなリフォームをせずに簡単に取り入れることが可能です。また、高齢者だけでなく、子育て世帯にとっても便利なサービスといえます。
- IoTを活用のあれこれ
- ・キッチンと寝室にWEBカメラを取り付ける
- ・エアコン、加湿器の運用をスマートフォンで確認
- ・温度・湿度を自動記録しスマートフォンでチェック
- ・能な箇所は全て自動点灯(人感センサー)
リフォームにより環境が整備された居住空間であれば、より元気で生き生きと暮らすことができるでしょう。健康寿命が延びる=医療費、介護費用の削減にもつながります。また、すでに要支援・要介護認定を受けている方は、高齢者住宅改修費用助成制度を活用して、経済的負担が少なくなる住まいにリフォームすることが望ましいでしょう。
3つ目のポイント:自立できる高齢者の住替え事情
高齢期を迎え、将来のことを考えて利便性のよい都市部への転居を望む方がいます。あるいは、高齢者向け住宅を検討する方もいらっしゃるでしょう。高齢者が自立して暮らす選択肢として、高齢者向け住宅(優良老人ホーム、経費老人ホーム、高齢者向け優良賃貸住宅、サ高住等を含む)への住替えもあります。
サービス付き高齢者向け住宅の現状等によると、平成30年度高齢者向け住まい・施設を利用した人は約86万人です(図4参照)。また同調査によれば、サービス付き高齢者向けの住宅の入居費用は、全国の月額平均で約10.5万円です(図5参照)。この費用に含まれるものは、家賃、共益費、サービス費(生活相談・見守り)です。この費用以外にも、生活費用が必要となります。援助してくれる家族がいない、年金、預貯金等の資産が乏しい場合は、民間の高齢者向け住宅への住替えは難しいかもしれません。
図4:高齢者向け住まい・施設の利用者数
- ※1:介護保険3施設及び認知症高齢者グループホームは、「介護サービス施設・事業所調査(10/1時点)【H12・H13】」、「介護給付費等実態調査(10月審査分)【H14~H29】」及び「介護給付費等実態統計(10月審査分)【H30~】」による。
- ※2:介護老人福祉施設は、介護福祉施設サービスと地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護を合算したもの。
- ※3:認知症高齢者グループホームは、H12~H16は痴呆対応型共同生活介護、H17~は認知症対応型共同生活介護により表示。(短期利用を除く)
- ※4:養護老人ホーム・軽費老人ホームは、「社会福祉施設等調査(10/1時点)」による。ただし、H21~H23は調査票の回収率から算出した推計値であり、H24~H29は基本票の数値。(利用者数ではなく定員数)
- ※5:有料老人ホームは、厚生労働省老健局の調査結果による。(利用者数ではなく定員数)
- ※6:サービス付き高齢者向け住宅は、「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム(9/30時点)」による。(利用者数ではなく登録戸数)
- ※7:高齢者向け住宅:有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、軽費老人ホーム、高齢者向け優良賃貸住宅、シルバーハウジング
出典:国交省サービス付き高齢者向け住宅の現状等より
図5:サービス付き高齢者向け住宅の入居費用
入居費用は、家賃、共益費、サービス費(生活相談・見守り)で、月額約10万円程度。
サービス付き高齢者向け住宅の入居費用(月額)※
- ※家賃、共益費、必須(生活相談・見守り)サービス費用の合計。ただし、必須サービス費用は、介護保険適用分(1割負担)を除く。
- ※平成30年12月末時点における登録情報による
- ※大都市圏:埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県/地方圏:その他の道県
出典:国交省サービス付き高齢者向け住宅の現状等より
ただし、高齢者の持家率は81%と高く、そのうちの71%が戸建て住宅を所有しています。高齢者がスムーズな住替えを果たす鍵となるのは、所有している住宅を流通市場に反映せていくことです。既存住宅の流通市場規模は、2013年(平成25年)3.9兆円から2018年(平成30年)4.5兆円に増加しています。とはいえ、流通戸数は16.9万戸から16万戸に減少しています。既存住宅の価値が適正に評価されない原因の1つが、消費者が既存住宅の不具合や質に対して不安を持っていることです。
「どのようなサービスがあれば既存住宅の購入を検討するか」という質問に対して、上位3つの回答は以下のとおりです。
- (1)充実した保証やアフターケア
- (2)リフォーム・リノベーション済の物件
- (3)隠れた不具合を診断してくれるサービス
この部分が充実することで、既存住宅の流通もさらに活性化するでしょう。
図6:既存住宅の購入を検討するためのサービスについて
出典:「我が国の住生活の状況調査」(国土交通省、令和2年10月)
新型コロナウイルス感染症を契機に、働き方の多様化が進展しました。高齢者は郊外の一戸建て、働き盛りの人たちは都市部という構図だけでなく、テレワーク等を活用すれば、どの世代であってもご自身の選んだ場所で暮らすことが可能な社会になりつつあります。多世代が共存する街が「新たな日常」をつくっていきます。
高齢者が自立して暮らすために必要なのは、一人で生活できることだけではなく、適切な支援を受けやすい環境です。そういった意味でも、高齢者の適切な賃貸住宅(高齢者住宅を含む)住替えが進むことが望まれます。
図7:地域包括ケアシステム
出典:平成28年3月 地域包括ケア研究会報告書より
まとめ
近い未来、おひとりさまと呼ばれる単身世帯が4割弱を占める時代がやって来ます。高齢期こそ、ライフスタイルに合わせた柔軟な住み替えが必要です。
建築学者である上田篤氏が1973年(昭和48年)に提唱した昭和版の住宅双六から、今後は、住生活基本計画の目標4の令和版「住宅すごろくを超えた新たな住宅環境システムの構築」に沿って、国、地方自治体はかじをとっていきます。
住宅は、存在するかぎりCO2を発生し続けます。2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、住宅環境システムの構築と良質な住宅ストックの形成が欠かせません。新築住宅では、長寿命でライフサイクルCO2の少ない長期優良住宅、ZEH住宅が促進されていくでしょう。また、既存住宅では、継承する価値のある住宅へのリフォーム等が進むと考えられます。
賃貸経営もこの流れに沿うべきです。国の施策に沿ったより価値のある物件を提供することで、結果として安定した経営につながるはずです。