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コラム vol.413
  • 賃貸住宅経営のポイント

火災保険と今後の動き

公開日:2022/08/31

甚大な災害が世界各地で起きているニュースを時々目にします。災害で損害を被ったときに、火災保険が役に立つことは皆さんご存じでしょう。賃貸住宅経営を行うオーナー様にとっても火災保険の補償内容を知っておくことは重要です。また、融資を受けて建物を建てる場合は、火災保険の加入は必須になるはずです。

このコラムでは、火災保険の補償内容や今後の火災保険料の動向について解説していきます。

火災保険の補償とは

火災保険は、火災や自然災害に被災したときの建物などの損害を補償します。
補償の内容は、火災・風災・水災・雪災そして水漏れ、外部からの飛来、盗難等です。ご自宅の火災保険に加入する場合は、建物と家財どちらも住まわれている方が契約者になります。

一方、賃貸住宅の場合は、契約者は賃貸住宅のオーナー様となり、借家人は家財保険に加入するのが一般的です。
保険金額は、建物を再調達するために必要な金額が支払われる再調達価額と損害が起きた時点での建物の時価の2つの評価方法のどちらかで決まります。保険会社によって評価方法は異なりますが、再調達価額が一般的です。

賃貸住宅の場合は、経営リスクに備えることも必要です。保険会社によって名称は異なりますが、代表的な特約3つをご紹介します。

1つ目は、「家賃収入特約」です。建物の損害だけでなく損害を受けた部屋の家賃収入が途絶えた場合の損失に備える特約です。

2つ目は、建物が損壊し入居者がけがをした場合などに備える「建物所有者賠償責任特約」です。

そして3つ目は、賃貸住宅の部屋で死亡事故が起こったときに、再び賃貸可能な状態にするための費用や家賃の値下げによる損失を補償する「家主費用特約」があります。

保険料の算出方法

保険制度は、「大数の法則」と「収支相等の原則」「公平の原則」の3つのルールに則して保険料を適正に算出しています。

「大数の法則」とは、災害や事故が発生する確率は発生数が増えれば増えるほど一定値に近づくことをいいます。例えば、サイコロを振って1が出る確率はサイコロを振る回数が増えれば増えるほど6分の1の確率に近づきます。同様に、保険でも災害や事故の過去のデータを多く分析することで、将来の災害発生の確率が予測できるということです。

「収支相等の原則」は、契約者から集めた保険料の総額と災害や事故など損害が生じたときに支払う保険金の総額が等しくなるように保険料を算出します。

「公平の原則」とは、災害や事故の確率の高低によって保険料が決まることです。つまり、鉄筋コンクリート造と一般的な木造では耐久性が異なるため、保険料の負担が公平になるように調整する必要があるのです。

損害保険料は、災害や事故などで損害が発生したときに支払うために充てられる純保険料と保険会社の人件費やその他諸経費、つまり保険会社が会社を運営するためにかかる経費に充てられる付加保険料に分けられます。

なお、損害保険の場合、実際に支払われる保険金は実損払いが原則であるため、契約時点では支払われる保険金額が決まっていません。ですから、保険料を算出する保険会社は将来の災害や事故の発生する確率を予測する必要があります。そのため、過去のデータや自然災害の発生を基に将来予測を行い、保険料を算出します。

近年の災害について

最近は発生する災害が激甚化しています。そこで過去の災害についてのデータを見てみましょう。

下のグラフは、1日に200ミリ以上降水のあった年間日数を示しています。1日に200ミリとは、どのくらいなのでしょうか。気象庁のデータによると東京で月平均降水量が、200ミリを超えるのは年に2~3カ月です。したがって、1日で200ミリ降るということはどれほど大量の雨なのかということがわかります。

図1:日降水量200ミリ以上の年間日数の変化

棒グラフ(緑)は1地点当たりの各年の日降水量200ミリ以上の年間日数。年ごと、あるいは青線(5年移動平均)で示される数年ごとの変動を繰り返しながらも、赤線で示されるように長期的に大雨の頻度は増加している。

さらに、この3年間で災害をもたらした事例をみてみます。

2021年(令和3年)
前線による大雨 8月11日~
8月19日
西日本から東日本の広範囲で大雨。総降水量が多いところで1200ミリを超える。
東海地方・関東地方南部を中心とした大雨 7月1日~
7月3日
東海地方・関東地方南部を中心に大雨。静岡県熱海市で土石流が発生。
発達した低気圧及び強い冬型の気圧配置に伴う大雪・暴風 1月7日~
1月11日
北日本から西日本の日本海側を中心に広い範囲で大雪・暴風。北陸地方の平地で1メートルを超える積雪。秋田県などで停電発生。
2020年(令和2年)
強い冬型の気圧配置による大雪 12月14日~
12月21日
北日本から西日本の日本海側を中心に大雪。群馬県みなかみ町藤原では、期間中の降雪量が291センチ。関越道等で多数の車両の立ち往生が発生。
台風第10号による暴風・大雨等 9月4日~
9月7日
南西諸島や九州を中心に暴風や大雨。長崎県野母崎で最大瞬間風速59.4メートル。
令和2年7月豪雨 7月3日~
7月31日
西日本から東日本、東北地方の広い範囲で大雨。4日から7日にかけて九州で記録的な大雨。球磨川など大河川での氾濫が相次いだ。
2019年(平成31年/令和元年)
低気圧等による大雨 10月24日~
10月26日
千葉県と福島県で記録的な大雨
令和元年東日本台風(台風第19号)による大雨、暴風等 10月10日~
10月13日
記録的な大雨、暴風、高波、高潮。
令和元年房総半島台風等による大雨・暴風等 9月7日~
9月10日
千葉県を中心に記録的な暴風、大雨。広範囲で大規模な停電が発生した。千葉市で最大瞬間風速57.5メートル
前線による大雨 8月26日~
8月29日
九州北部地方を中心に記録的な大雨

出典:気象庁「災害をもたらした気象事例」

では、自然災害による火災保険の保険金の状況はどうなっているでしょうか。
下記のグラフは、自然災害による保険金の支払い状況です。支払額、支払い件数ともに増加しています。

図2:自然災害による保険金の支払い状況

出典:損害保険料率算定機構「火災保険・地震保険の概況2021年度版(2020年度統計)」

特に、2018年、2019年の風災・水災の支払額が大幅な増加となっており、今後も自然災害の件数や保険金の支払額が気になります。

今後の火災保険の動向について

前項でご紹介した通り、自然災害の甚大化や多発化により、災害時の保険金支払い件数、保険金支払額が増加傾向にあります。

気象庁の将来予測によると二酸化炭素等の温室効果ガスの排出が高いレベルで続いた場合、スーパーコンピューターで出したシミュレーションでは、21世紀末の1日の降水量が200ミリを超える大雨発生回数は、20世紀末の2倍以上になるという結果が出ています。

図3:日降水量200ミリ以上の大雨の年間発生回数の変化(二酸化炭素の排出が高いレベルで続く場合)

出典:気象庁HP「気象業務はいま2020」

前述の「保険料の算出方法」で解説しましたが、火災保険は契約者全員が保険料を払い、その集まった保険料で損害を受けた契約者に保険金として支払う仕組みです。このため、保険金の支払いが多くなれば、当然契約者の保険料も高くなることが予測できます。

この数年でも保険料の改定がされています。実際、2018年、2019年に保険料の改定(全国平均で値上げ)が行われました。火災保険料の払い込みは月払い、年払い、5年払い、10年払いがあり、年数をまとめて払うと割引があります。2015年以前は保険期間30年など長期払いが可能でしたが、2015年10月から10年が最長となりました。

さらに、近年の自然災害の被害が多くなっていることを踏まえ、国内の損害保険会社で作る損害保険料率算出機構は2022年10月以降の火災保険の契約について値上げを発表しました(家財保険の保険料は据え置き)。具体的には、個人向け住宅総合保険の保険料の改定率が全国平均で10.9%となっています。なお、保険料の長期払いも長期的なリスクを評価することが難しいため、最長期間は5年に変更されます。

保険料の改定率の全国平均が10.9%ですが、地域によって改定率は異なります。災害が少ないと予想される場所は、改定率は平均より低くなるわけです。地域差があるためお住いの地域の改定率を確認しておくとよいでしょう。また、築年数や建物の構造によっても保険料率に影響があります。構造は、M構造、T構造、H構造の3つに分けられています。M構造とは、耐火構造(鉄筋コンクリート等)の共同住宅で、マンションなどのコンクリート造やレンガ造など、耐火性に優れている建物のことです。T構造は、M構造以外の耐火構造の建物、準耐火構造(鉄骨造等)の建物です。鉄骨造りの建物や木造住宅でもM構造の次に耐火性に優れている建物です。そして、H構造は、M、T構造以外の建物で、非耐火構造の木造住宅などのことです。

以下の表は三大都市圏で契約件数が多い都府県と改定率が最大と最小の都府県の改定率を構造別に示しています。 (「損害保険料率算出機構「火災保険参考純率改定のご案内」より引用)
築年数が古ければ、建物の耐久性は低くなります。そのため、災害が生じたときに損害を被りやすくなります。したがって、以下の表のように築年数の古い10年以上のほうが改定率は高くなっています。例えば、M構造・東京都の改定率を見比べてみると、築年数5年未満は1.7%、一方築年数10年以上は7.3%となっています。

また、地域差に関しても過去の災害データから、災害が多い地域と少ない地域で改定率に差があります。公平性を示す意味でもこのような差があり、「公平の原則」に基づいているのです。

【改定率の例】築年数5年未満

  M構造 T構造 H構造
  都府県 改定率 都府県 改定率 都府県 改定率
三大
都市圏
東京都 +1.7% 東京都 ▲0.6% 東京都 +3.3%
大阪府 +15.3% 大阪府 +15.6% 大阪府 +24.6%
愛知県 +4.5% 愛知県 ▲2.1% 愛知県 +3.8%
最大 宮崎県 +30.5% 山梨県 +21.9% 大阪府 +24.6%
最小 山形県 ▲4.7% 山口県 ▲11.6% 山口県 ▲13.8%

【改定率の例】築年数10年以上

  M構造 T構造 H構造
  都府県 改定率 都府県 改定率 都府県 改定率
三大
都市圏
東京都 +7.3% 東京都 +3.2% 東京都 +5.9%
大阪府 +21.5% 大阪府 +22.4% 大阪府 +30.9%
愛知県 +9.3% 愛知県 +2.2% 愛知県 +7.6%
最大 宮崎県 +33.0% 山梨県 +33.4% 沖縄県 +36.6%
最小 山形県 +1.1% 山口県 ▲7.1% 山口県 ▲10.3%

改定率の最大は、築年数10年以上・H構造の沖縄県の住宅で36.6%。最小は、築年数5年未満のH構造の山口県の住宅で▲13.8%となっており、地域によって大きな差があることがわかります。

自然災害は損害が大きい場合は、預貯金だけで補填できる方は少ないでしょう。そのため火災保険に加入しておくことは重要です。重複になりますが、2022年10月からの保険料の平均改定率が10.9%となっており、契約者にはますます負担が増えます。なるべく保険料を抑えたいのであれば、廃止される前に10年払いに変更するなどの対策を検討してみてはいかがでしょう。

近年の自然災害が大きな損害をもたらしていることから、今後も火災保険の保険料が上昇する可能性が考えられます。火災保険の保険料の動向には、引き続き注視しておくことが重要です。
ご自宅でも賃貸住宅経営においても必須となる火災保険は、建物の構造や地域によって保険料が異なることを理解しておきましょう。

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