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コラム vol.424
  • 不動産市況を読み解く

住宅地31年ぶりの上昇!2022年都道府県地価(基準地価)を読み解く

公開日:2022/09/30

POINT!

・全国的に地価の回復傾向が進み、都道府県地価では、住宅地の全国平均が1991年以来31年ぶりにプラス(+0.1)となった

・東京圏、大阪圏、名古屋圏の三大都市圏の住宅地、商業地とも、3年ぶりにすべてプラスとなった

・2023年の都道府県地価は、少なくとも前半(2022年年末まで)は、現在プラス圏の地域は上昇幅拡大、現在マイナスの地域では回復基調で推移すると思われる

2022年の都道府県地価調査が9月20日に公表されました。
都道府県地価は、「基準地価」とも呼ばれ、7月1日を価格時点としています。公的機関から公表される地価は4つありますが、7月1日を価格時点としているのはこの調査だけで、残り3つは1月1日時点となります。そのため、ちょうど中間点的な意味合いとして注目されています。
2022年の基準地価では、経済活動が正常化している中で、住宅や店舗などの需要は順調に回復傾向にあり、それがどれくらい地価に反映されているかという点が注目されていました。
本文、図表とも、データはすべて国土交通省「令和4年都道府県地価調査」より作成しています。

住宅地31年ぶりの上昇。全国の状況

今年の都道府県地価では、住宅地の全国平均が1991年以来31年ぶりにプラス(+0.1)となりました。
全用途全国平均は、+0.3%で3年ぶりにプラスとなりました(前年は-0.4%)。住宅地全国平均は前述の通り+0.1%(前年は-0.5%)、商業地全国平均は、3年ぶりのプラスとなり+0.5%(前年は-0.5%)でした。全国的に地価の回復傾向が進んでおり、住宅地は新型コロナウイルス感染拡大の影響が起こる前の状況に戻ったという状況、そして、商業地は回復上昇基調にあるものの、上昇幅は新型コロナウイルス感染拡大の影響前(2019年)に比べるとまだ小さいという状況です。

都道府県地価調査の概要

調査の概要を簡単にお伝えします。
本地価調査の調査主体は、都道府県(公示地価は国土交通省土地鑑定委員会)です。価格時点は7月1日。調査地点数は21,444地点(公示地価は26,000)となっており、うち1,618地点(うち住宅地1,115地点、商業地503地点)が同一地点です。同一地点の状況と推移を見ることで、中間地点(7月1日時点)での上昇下落といった傾向をつかむことができます。

3大都市圏の状況

3大都市圏をそれぞれ見てみると、少し違いがあります。
住宅地においては、3大都市(東京圏・大阪圏・名古屋圏)いずれも前年比でプラスとなりました。大都市部において、特に生活利便性の高い地域では、住宅需要はかなり堅調で、低金利環境が継続し、住宅取得支援策(例えば、住宅ローン減税)などが需要の下支えとなり、住宅地の地価上昇が顕著になっています。
また、大都市部の商業地においては、昨年は大阪圏ではマイナスでしたが、今年は東京圏、大阪圏、名古屋圏ともプラスとなっています。個人需要の持ち直しから店舗需要は回復傾向にあり、再開発事業が依然活発で、こうした地域では期待感から地価上昇傾向が続いています。
3大都市圏では、全用途平均、住宅地、商業地、3年ぶりにいずれもすべてプラスとなりました。

住宅地の状況

ここからは住宅地について見てみましょう。
変動率がプラスとなった都道府県は前年の7から倍増し14となりました。その一方で、マイナスとなった都道府県は32に上りました。前年の38からは減ったものの、7割近い府県がマイナスとなっています。しかし、冒頭でもお伝えしたように、全国平均では31年ぶりにプラスとなりました。
変動率がマイナスの都道府県数が32というのは過去15年をさかのぼれば、2018年(平成30年)と並んで最小でした。

住宅地地価、地方主要都市での伸びが目立つ

圏域別では、東京圏では+1.5%(前年は+0.2%)、大阪圏0.4%(前年は-0.3%)、名古屋圏+1.6%(前年は+0.3%)となっています。
地方では、地方圏全体が-0.2%(前年は-0.7%)で、これは過去15年を遡ってもマイナス幅は最小でした。また地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)に限ると、+6.6%(前年は+4.2%)となりました。

図1:都道府県地価変動率 直近5年間の推移(4大都府県:住宅地)

国土交通省「令和4年都道府県地価調査」より作成

直近5年の4大都府県(東京都・大阪府・愛知県・福岡県)にフォーカスしてみると、図1のようになります。主要都市の住宅地においては2020年の落ち込みは一時的なもので、変化率は、おおむね(影響前の)2019年を超える水準になっています。

図2:都道府県地価 都道府県別対前年平均変動率(住宅地)

国土交通省「令和4年都道府県地価調査」より作成

次に、都道府県別に見てみましょう。図2は、都道府県別の住宅地対前年変動率を高い順に並べたものです。

プラスになったのは14の都道府県でした(茨城県は±0)。
最も上昇したのは沖縄県で+2.7%でした。沖縄県は、前年は+1.6%、前々年は+4.0%、でしたが、上昇幅に多少の波はあるものの、2016年以降7年連続で上昇幅トップを維持しています。 マイナスとなったのは32の府県で、前年は38、前々年(2020年)は42でしたので、少しずつ減っており、ここ15年では最小数でした。
住宅地における地点別の変動率上位に目を向ければ、ベスト10はすべて北海道で、札幌の郊外エリア(江別市、石狩市)、もしくは新千歳空港~札幌市内の間の地域(恵庭市。北広島市は両方に該当)となっています。特に上位3地点はすべて北広島市で、北海道日本ハムファイターズの新本拠地となる北広島ボールパーク、それに付随する一体開発が地価上昇に弾みをつけているものと思われます。

住宅地地価全国平均の背景にはライフスタイルの変化が

今年の住宅地が31年ぶりにプラスになった大きな要因として、地方主要都市が大きく伸びていることに加えて、地方圏の下げ幅が小さくなっていることが挙げられます。住宅地地価の上昇の波は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で一時的に止まったものの、確実に地方に波及していることがこうした数字からはっきりと見えます。
また、生活スタイル、働き方のスタイルの変化による住まい方の多様化などにより、都市部の郊外、都市への移動がスムーズな地域にも住宅地地価上昇範囲が広まっています。この傾向は首都圏だけでなく他の大都市部、地方主要都市でも同様の傾向が見られます。広さや部屋数にゆとりがあり、家族との時間、自然との時間を大切にする暮らしの広がりが、ジワリと広がりを見せてきています。

商業地の状況

つづいて、商業地を見てみます。国内観光需要、ビジネス需要が回復しつつある状況で、さらにインバウンド需要も回復のキザシが見えてきていることで、人気ある繁華街などでは上昇に転じた地点も見受けられるようになりました。こうした状況により、昨年調査から上昇幅が拡大した地域が多く見られました。
東京圏では+2.0%(前年は+0.1%)、大阪圏は+1.5%(前年は-0.6%)、名古屋圏は+2.3%(前年は+1.0%)となりました。3大都市圏がすべてプラスとなるのは3年ぶりでした。商業地においても、地方圏の上昇が顕著となっています。
地方圏全体では-0.1%でプラス圏には届きませんでしたが、昨年は-0.7%でしたので、回復基調にあります。地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)に限ると+6.9%となり、3大都市圏よりも大きな上昇率となっています。地方圏(4市以外)では、-0.5%で、こちらの回復が、他に比べてやや遅れているという印象です。来訪客が戻っていない地方圏が、まだ結構あると言えそうです。

図3:都道府県地価変動率 直近5年間の推移(4大都府県:商業地)

国土交通省「令和4年都道府県地価調査」より作成

直近5年の4大都市(東京都・大阪府・愛知県・福岡県)の商業地地価の変動率をみると、図3のようになります。昨年は4大都市でやや違いが見られましたが、今年はおおむね似たような数字となっています。

図4:都道府県地価 都道府県別対前年平均変動率(商業地)

国土交通省「令和4年都道府県地価調査」より作成

次に、都道府県別に見てみます。 図4は、都道府県別の商業地対前年変動率を高い順に並べたものです。プラスになったのは18で、前年の6に比べて大きく増えました(滋賀、奈良は±0)。2019年の時は19でしたので、おおむねコロナショック前に戻ったという状況です。
最も上昇したのは先に述べた福岡県で、+4.0%(前年は+2.7%)で2年連続1位。福岡市中心街天神地区の周辺の再開発が地価上昇を大きく牽引しています。続いては宮城県で+2.7%(前年は3.0%)、3年連続の2位でした。2020年までの3年間、圧倒的1位だった沖縄県は+1.9%で6位。昨年は0.7%でしたので、そこからは上昇幅が大きくなりましたが、新型コロナウイルス感染拡大の波が収まらない上に、インバウンド観光客が戻らない現状でしたので、上昇率の回復が遅れている結果となっています。
商業地の変動率上位の地点を見てみると、ベスト10のうち9つが住宅地と同じく北海道の札幌周辺、もしくは新千歳空港から札幌の途中地域となっています。例外は、6位に入っている千葉県木更津市の地点で、このエリアでは駅前の再開発が続いており、街が新しく生まれ変わりつつあります。
大都市部、地方主要都市部の商業地地価の上昇の背景には、「海外投資家による物件取得意欲が旺盛な事」が挙げられます。海外投資家から見れば、我が国の不動産投資においては、対ドルでの円安が有利に働いていることに加えて、調達金利と利回りの差(yield gap)が他の主要地域よりも大きく取れている、という状況です。現在の日本の金融緩和政策が続く間は、この傾向が続くものと思われます。

前半と後半の比較

冒頭でお伝えしたとおり、都道府県地価と公示地価は、価格時点が半年違いですので、ちょうど地価における中間点といえます。基準地価は公示地価と同一地点が今年は1618(昨年は1625)地点ありますので、これらの変動率を比べることで、2021年7月1日~22年7月1日の1年を前半後半に区切って地価動向を分析することができます。

図5:地価公示との共通地点における半年ごとの地価変動率の推移

国土交通省「令和4年都道府県地価調査」より作成

図5は、公示地価との共通地点における半年ごとの地価変動率を示したものです。
住宅地においては、昨年と同様すべての地域において、後半が前半を上回っています。徐々に上昇幅が大きくなっているということです。
一方、商業地でも、おおむね後半が前半を上回っていますが、唯一地方4市においては前半が+3.6、後半が3.3%と後半の方が低くなっています。
*年間は+7.0%。共通地点のみの数字のため、地方4市商業地全地点の+6.9%と、わずかに数字が異なっています。

2022年はどうなる?

昨年の本レポートでは、「2022年9月に発表される基準地価は、住宅地においては今年に比べて上昇する可能性がかなり高く、また商業地においては、新型コロナウイルス感染症の影響が徐々に収まりつつある状態が続くことを願うばかりですが、地価は今年よりも改善しているものと予想します」と書きましたが、おおむね予想通りの結果となりました。
2023年の都道府県地価ですが、少なくとも前半(2022年年末まで)は、現在プラス圏の地域は上昇幅拡大、現在マイナスの地域では回復基調で推移するでしょう。後半(2023年の上期)も、そのまま上昇をキープしてほしいところですが、しかし、我が国の金利の行方次第では、後半はすんなりと上昇基調がつづかないかもしれません。金利のゆくえに、注視していただきたいと思います。

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