
賃貸住宅経営のキャッシュフローを良くするには
公開日:2025/04/10
不動産投資におけるキャッシュフロー
キャッシュフローとは、不動産経営においては、家賃収入から経費を差し引いた後、手元に残るお金(キャッシュ)のことを指します。手残り現金とも言いますが、不動産オーナーにとって実質的な収入であると言えるでしょう。
不動産経営においては、税務申告のために、「損益計算(P/L)」書を作成するため、経営指数としてはPLのほうが一般的かもしれませんが、いわゆる帳簿上(P/L)の利益と現金の残高は同じではないため、注意が必要です。
賃貸住宅経営の損益計算(P/L)は、家賃収入から、借入金利息、減価償却費、そして諸経費を差し引いて求め、確定申告もこのP/Lを基に行います。ところが、家賃の未収金があったり、修理など突然の出費があったりすると、損益計算書とは異なる現金の動きが現れます。また、損益計算書には、借入金の元本返済などの支出が含まれないので、実際に手元にいくら残ったのかという「キャッシュフロー(CF)」とは異なる計算結果になることが、たびたび起こります。
P/Lとの関連で言えば、P/Lで算出した利益から、税金を引き、そして減価償却費をプラスし(実際にはキャッシュが動いていないため)、借入金元本を引いたものがキャッシュフロー(手残りキャッシュ)ということになります。
このように計算式が異
なぜキャッシュフローを重視するのか
一般企業の場合は、企業の評価としては、売上、経常利益がわかる、P/Lを重視することが多いですが、個人事業者の賃貸住宅経営においては、最終的にはキャッシュがどれだけ残るかという観点をむしろ重視したほうが良いケースが多く、経営には欠かすことはできない要素です。改めてキャッシュフローの重要性を挙げてみます。
長期的な経営(リスクに備える)
当然のことですが、現金が多くあることで、長期的な経営につながります。賃貸住宅経営には、リスクがつきものであり、急な出費が必要になることもあるでしょう。手元に現金が多くあれば、急な出費にも対応できるため、長期的な経営につながります。
例えば、長年賃貸住宅経営を行っていると、建物が劣化し、賃貸住宅の競争力は相対的に落ちてきます。そうなると、賃料低下や空室増加による家賃収入の減少のリスクがあります。加えて、経年劣化や予期しない自然災害による修繕費やメンテナンス費用もかかります。しかも、アパートローンの返済は待ってはくれませんし、これからは金利上昇のリスクもあります。また、ご入居者が突然亡くなったり、家賃の未納が発生したりするなど、ご入居者に関するリスクもあります。
これらはほんの一例ですが、賃貸住宅経営には、ほかにもさまざまなリスクが伴い、避けられない場合も少なくありません。こうしたリスクに対応し、解決するにはキャッシュは必要不可欠です。
将来、賃貸住宅ビジネスを拡大していこうと考えている人にとっては、キャッシュフローはさらに重要な指標になりそうです。次の投資への頭金の準備ができることで、よりクオリティが高く、収益性が良い賃貸住宅の選択も可能になってくるでしょう。
出口戦略にも有利に
出口戦略とは、最終的に賃貸住宅を売却し、収支をいったん確定させることですが、その際、該当する賃貸住宅のキャッシュフローが順調であれば、査定価格が高く評価される可能性が高まります。
売却価格はさまざまな要因によって決まりますが、一般的に、キャッシュフローが良いということは、経営的に問題がないと判断されますので、売却交渉も優位に進めることにもつながります。
「キャッシュフロー」悪化の要因
では、どのようなときにキャッシュフローが悪化するのでしょうか。その要因を挙げてみます。
減価償却費
賃貸住宅経営にとって、減価償却は経費計上できるために、税務対策としてはメリットがありますが、減価償却がなくなった場合に、キャッシュフローが悪化することがあります。
賃貸住宅は、購入した時期、つまりお金が出ていった時期に全額費用には計上されません。工法によって減価償却期間が決まっており、一定期間にわたって費用として計上します。
ところが、減価償却期間が終了してしまうと、減価償却費がゼロになるため、減価償却という経費項目が減少することで、帳簿上は利益が出ていることになり、結果として税金の支払額が大きくなってしまいます。そして、税金によって実際のキャッシュフローがこれまでと大きく変わってしまうということが起こりえます。
ローンの返済方式
ローンの返済には「元利均等」と「元金均等」という2つの方式がありますが、一般的に使われるのは、毎月の返済額が一定に設定してある元利均等返済です。借り入れ当初の返済額の内訳は、元金が少なく利息が多い状態ですが、返済が進むにつれ、毎月の返済額は、元金が多く利息が少ない状態となります。つまり、あとになるほど経費となる金利が減り、返済元金が増えるため、キャッシュフローに影響を与えます。
経年劣化による空室の増加
賃貸住宅は年月を重ねていくと、家賃収入は経年劣化により年々減少し、修繕費などの経費は増加していきます。何も対策をしないと、収入は減少し、現金出費が増加し、キャッシュフローが年々悪化することも考えられます。
キャッシュフローとは、こうした帳簿上では見えないお金の流れを把握するための指標となります。キャッシュフローを把握することによって、黒字倒産のリスクを抑え、健全な不動産経営に活かすことができます。
キャッシュフローを良くするポイント
キャッシュフローの管理は、賃貸住宅経営にとって、必要不可欠なことです。実際、キャッシュフローが良くない、あるいはシミュレーションをしてみると将来に不安がある、という場合には、長期的な経営のためにもキャッシュフローを改善していく必要があるでしょう。
キャッシュフローを良くするには、原則的に、収益を上げるか支出を抑えるかのどちらかを行うしかありません。支出を抑えるには、経費や管理費、税金、金利など、いくつかの項目があります。
収益を上げる(空室を減らす)
まずは、空室を減らし収入を上げることが第一優先です。そのためには、現在の運営状況を詳細に分析する必要があります。
入居条件、募集内容の確認
同じエリアの競合となるほかの賃貸住宅と比較して、家賃や初期費用が高すぎると空室を生む原因となってしまいます。現在の周辺エリアのニーズを把握して入居条件を見直し、その対象者に対して、ニーズに合った入居条件を設定し、効果的に訴求する必要があります。
対象となるご入居者属性に対する機能や設備確認
一般的に古い設備より、新しい設備や機能の付いた賃貸住宅が選ばれる傾向にありますので、設備や機能の見直しは常に行っておく必要があるでしょう。新築でなくても、メンテナンスがしっかりしていて、機能が十分であれば、ご入居者に選ばれる可能性は高まります。快適な生活を維持できる状態なのかどうかをチェックしておく必要もありそうです。
また、空調設備や防犯設備、インターネット環境の整備など、人気のある設備が入っているかどうかもポイントのひとつになりますので、併せて確認しておきましょう。
未納家賃をなくす
何より「未収家賃(滞納)」をなくすことが重要です。未納家賃は、P/L上では収益になりますので、課税の対象となり、しかもキャッシュは入らないという最悪の状態です。未納を少なくするためには、常日頃から、ご入居者の様子を確認しながら、良好なコミュニケーションを取っておくことも大切なことでしょう。
支出を抑える
キャッシュフローを改善する次のポイントは、支出を減少させることです。支出を減らす方法としては、たとえば以下のような改善策が考えられます。
過度な修繕、メンテナンスを行っていないか
選ばれる賃貸住宅を提供するために、設備の見直しや修繕を行うことは大切なのは前述したとおりですが、逆に、収益アップのために設備や機能に費用をかけすぎるとキャッシュフローが悪くなってしまいます。バランスを取りながら、ニーズに合った設備に注力して付加価値を付けていくのが良いでしょう。
管理費用の見直し
不動産投資でマンションの運営をする場合は、管理会社と契約しているオーナー様がほとんどだと思いますが、管理会社の費用とサービスを見直すことで、キャッシュフローが改善することもあります。過剰なサービスを依頼していないか、管理費は適切か、調べてみることも必要です。
ローンの繰り上げ返済
ローンの繰り上げ返済は、キャッシュフローを改善するひとつの方法です。いったん返済することで一時的にはキャッシュは減少しますが、当初の借り入れと比べて利息部分を一部削減することができます。支払い利息を減らすことで、将来に向けて出ていくキャッシュを減らします。
法人の活用
現在個人で賃貸住宅経営を行っていて、個人所得が多く、所得税の負担が大きいと感じている人は、不動産管理会社として法人を設立することも、税務対策として考えられる方法です。所得税は「累進課税」のため、所得が多ければ多いほど税率が上がります。法人の場合、最高税率が決まっており、さらに、家族を従業員として雇用すれば、給与として財産の分散も可能です。
返済元本を少なくする
返済期間も毎年のキャッシュフローに影響を与える要因です。「ローンの繰り上げ返済」がキャッシュフローの改善のポイントと述べましたが、状況によっては、返済期間を長くすれば、毎年の支払額が減り(出ていくキャッシュが減る)、キャッシュフローが良くなります。
ただし、長期的に見れば、利息が増え、トータルの収支は悪化しますので、バランスを考慮した上で選択する必要があります。
このように、キャッシュフローを改善する方法は、状況によって、その対策方法も異なります。専門家に相談しながら、自身の賃貸住宅経営における状況分析を行った上で、適切なキャッシュフローの改善策を検討してください。
さまざまな工夫を施し、周辺施設との差異化を図り、帳簿上は事業としては成り立ったとしても、キャッシュ不足によって、新たな借り入れが必要となったり、事業の見直しが必要となったりすれば、賃貸住宅経営の意味がなくなってしまいます。そうした事態に陥らないためにも、将来まで見据えて、キャッシュフローを把握、管理しておくことが大切です。