数字でみる、これから10年賃貸住宅の建て替えが進む実態
公開日:2022/11/30
POINT!
・1980年以前に建てられた、旧耐震基準の「共同住宅の貸家」が約231万戸あり、今後建て替えが進むことが予想される
建て替え期を迎える賃貸住宅が増えています。1980年以前に建てられた賃貸住宅(共同住宅タイプ=非戸建)で、居住されている既存の物件(=住宅ストック)数は、最新の住宅・土地統計(総務省:2018年)によれば、約231万戸あります(以下、住宅ストック数に関する数字は、同統計より)。欧米では100年を超える木造住宅もありますが、わが国では、木造住宅は40年程度、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)の建物や建築物(集合住宅など)でも多くは60年超で建て替えられる事例が多いようです。コンクリートや鉄骨の耐用年数を考えると、100年以上の耐用は可能だとしても、「リノベーションするよりも建て替えよう」と考える所有者が多いのでしょう。
賃貸住宅においても、築30年を超えると建て替え検討をする方が増えてきます。建物の耐久性もさることながら、築古物件という扱いとなりご入居者を獲得しにくくなるという実態が、建て替え検討を促進させるのでしょう。
築40年超の物件はどれくらいあるのか
「平成30年住宅・土地統計調査(総務省)」によれば、現在、住まいとして使っている住宅の総数(ストック総数)は、約5362万戸あり、そのうち、耐震基準が変わる前の1980年以前に建築された住宅ストックは、約1160万戸となっています。
1980年(昭和55年)以前に建築され、今も居住されている住宅にフォーカスすると、下の表のようになります。
表:建築年別の住宅ストック数(単位:万戸)
1970年以前物件 | 1971~80年物件 | (単位:万戸) | |
---|---|---|---|
旧旧耐震基準 | 旧耐震基準 | ||
持家(戸建) | 340.1 | 449.8 | |
持家(共同住宅) | 12.1 | 74.3 | 概ね分譲マンション |
貸家(共同住宅) | 60.2 | 170.8 | 賃貸集合住宅 |
貸家(戸建) | 24.8 | 28.1 |
※貸家には、民営借家(=一般的な賃貸住宅)だけでなく、UR、公営・公社貸家、社宅も含む
総務省「平成30 年住宅・土地統計調査」より作成
現在の建築基準法による耐震基準は1981年に改定されたもので、それ以前は1971年に改定された基準でしたので、改定年の前後で表を区切っています。これを見れば、1971年以降の賃貸集合住宅と分譲マンションが大きく増えていることが分かります。
1970年以前の物件はすでに築50年を超えていますので、建てられた物件のうち一定割合は、建て替えられたり、建物滅失後土地を売却していたりして、再生されているものと思われます。また、特に過疎地域などでは、居住されていない住宅(≒空き家)となり、この総務省統計データから外れています。
表を見ると、現在も居住の用にある1970年以前に建てられた貸家(共同住宅)が60万戸を超えている現実に驚かされます。これらは、早急に建て替えを含めた検討が必要だと思われます。
公営住宅の建替え
公営住宅・公団住宅は、賃貸共同住宅の先駆けとして1960年代後半から全国に建てられましたが、築50年を超えた2000年代前半ころから建て替え検討が進み、多くは建て替えが行われました(一部は売却など)。旧耐震基準の物件が多く、1995年に発生した阪神・淡路大震災を契機として検討が進みました。
その結果、分譲マンションとして生まれ変わったり、新しい賃貸住宅になったり、複合施設として再生されたりしています。
賃貸住宅の需要が比較的旺盛な地域に物件があること(駅近くの場所に多く存在するというわけではなく、あくまでも賃貸住宅需要が旺盛という意味です)。また、公営の賃貸住宅は、広く遍く国民に住宅を供給するという責務に基づいた建築、賃貸住宅運営であること。こうした理由から、早めの建て替え検討が行われたのでしょう。
5年後には500万戸を超える、建て替え検討賃貸住宅!
表にあるように、旧耐震基準の「共同住宅の貸家」は約231万戸あります。表にはありませんが、1981~90年の10年間に建築されて、現在も居住の用にある共同住宅の貸家は304.4万戸あり、先の10年間分に比べると倍近くなります。
これらが2025年には築35~45年となり、そろそろ建て替え検討が始まります。この建て替え予備軍とも言える物件は、統計データ発表から今日までの間に状況が変わっていないとして、単純計算で合計530万戸を超えます。近年の年間新築貸家着工戸数は32~35万戸程度ですので、比較すれば、そのスケールの大きさが分かります。
こうしたことを考えると、これから5年もしないうちに、賃貸共同住宅の建て替えを検討する方が増えるかもしれません。
また、分譲マンションの建て替えが問題になっています。建築数は賃貸共同住宅の半分以下(3割~4割程度)ですが、建て替え議決に区分所有者の4/5以上の賛成が必要(現在3/4に改正するか検討中)で、高いハードルとなっているためです。一方、一般的な賃貸共同住宅はワンオーナーが多いので、こうした問題は多くありません。
建て替えを検討したらまず行うこと
建て替えを検討し始めたら、どのような手順で行うか等については、本サイト内「賃貸住宅建て替えについて」で お伝えしていますので、そちらをご覧ください。また、大和ハウスでの建て替え事例もサイトにて参考にしてください。