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コラム vol.434
  • 土地活用税務コラム

不動産オーナーのためのインボイス制度対策

公開日:2022/12/27

POINT!

・2023年10月1日より、消費税に関する新しいルール、インボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入される事業者は消費税の「課税事業者」と「免税事業者」に区分され、課税事業者は納税義務があるが、免税事業者は免除される

・賃貸住宅などの住宅の賃料は消費税が非課税で、インボイス制度の影響はない

・事業用の店舗・事務所・倉庫の賃貸収入などは消費税が課税されるため、オーナーが課税事業者になってインボイスを発行する、賃料を減額する等の対策を考える必要がある

2023年10月1日より、消費税に関する新しい制度「インボイス制度」が導入されます。すでに登録受付は2021年10月から開始されており、登録を済まされた方もいるかもしれません。あるいは、どう対応すればいいのか分からないと不安を感じている方もいるでしょう。
不動産オーナーにとって、インボイス制度導入はどのような制度であり、どのように影響があるのか整理してみます。
インボイス制度による影響を確認する前に、まずは消費税の仕組みからおさえておきましょう。

課税事業者と免税事業者

消費税は私たちにとって、とても身近な税金です。現在、ほとんどの商品やサービス(軽減税率の対象商品を除く)に、10%の消費税を別途付加して代金を支払う必要があります。事業者がいったん消費税を受け取りますが、この消費税は「預かったお金」であり、消費税を受け取った事業者は、消費税を納税する必要があります。
消費税は、「税を負担する人(消費者)」と「納税する人(事業者)」が異なる間接税のひとつです。
しかし、すべての事業者に消費税の納税義務があるわけではありません。事業者には「課税事業者」と「免税事業者」という区分があり、課税事業者は納税義務がありますが、免税事業者は納税の義務が免除されています。納税の義務が免除されていることを免税制度といい、小規模事業者や個人事業者の納税負担を軽減する目的で設けられています。

表:税事業者と免税事業者

課税事業者 基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)における課税売上高が1,000万円を超える事業者は、消費税の納税義務者(課税事業者)となります。基準期間における課税売上高が1,000 万円以下であっても、特定期間における課税売上高が1,000 万円を超えた場合は、その課税期間においては課税事業者となります。
免税事業者 基準期間の課税売上高及び特定期間の課税売上高等が1,000 万円以下の事業者(免税事業者)は、その年(又は事業年度)は納税義務が免除されます。なお、免税事業者でも課税事業者となることを選択することができます。

出典:国税庁

仕入税額控除

商品やサービスの取引は、事業者と消費者という1対1の関係で終わることはめったにありません。通常、ある商品が消費者の手元に渡るまでには、原材料メーカー、メーカー、問屋、小売店など、さまざまな事業者を経由します。ですから、そのたびに消費税がかかってしまうと、ひとつの商品に何重もの消費税がかかってしまうことになります。実際に消費税を納める際には、「受け取った消費税額」から「支払った消費税額(仕入れにかかった消費税)」を差し引くことで、消費税額を計算します。これを「仕入税額控除」と呼びます。
下の図で説明すると、「会社B」は2,000円の商品やサービスを売った際、200円の消費税を預かります。ただし、その商品やサービスを「仕入れ会社A」から仕入れる際に、1,000円がその対価とすれば、100円の消費税を支払っていることになります。税務署に消費税を納める際には、仕入れ会社Aも100円の消費税を税務署に納めますから、会社Bは売上にかかる消費税200円から仕入れにかかる消費税100円を差し引き、100円の消費税を納めれば良いことになります。これを仕入税額控除と呼びます。この仕入税額控除によって、生産や流通の段階で2重に消費税がかからないようになっています。

仕入税額控除は消費税納付の負担を減らす意味で、課税事業者にとって重要です。今回のインボイス制度は、この「仕入税額控除」に関することになります。

インボイス制度

インボイス制度とは、正式名称は「適格請求書等保存方式」で、「消費税に関する新しいルール」ともいえるもので、仕入税額控除を行う際に、守らなければならない制度です。
2023年10月1日にインボイス制度が導入されると、商品・サービスを提供し、費用の請求をする際に「適格請求書(インボイス)」を発行してもらわなければ、仕入れ側は、仕入税額控除ができなくなってしまいます。仕入税額控除ができなければ、その分の消費税負担が増えますので、仕入れ側の課税事業者は利益が減ることになってしまいます。この適格請求書(インボイス)を発行するための制度がインボイス制度です。

適格請求書(インボイス)を発行するには

適格請求書(インボイス)を発行しないと、その請求書を受け取った取引先が消費税を納める際に負担が増えるということですが、それなら単純に、「インボイスを発行すればいい」ということではありません。
インボイスを発行するためには適格請求書発行事業者になる必要があり、それには条件があります。消費税の「課税事業者」でなければ、登録事業者になることはできません。つまり、「免税事業者」は適格請求書(インボイス)を発行できません。ただし、免税事業者でも消費税の課税事業者になり、適格請求書発行事業者の登録を受ければインボイスを発行できます。

インボイスには、適格請求書発行事業者の登録番号や、税率ごとに区分した消費税額を記載する必要があります。記載内容は以下の通りです。

  • ・適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
  • ・取引年月日
  • ・取引内容(軽減税率の対象品目である場合はその旨)
  • ・税率ごとに合計した対価の額および適用税率
  • ・消費税額
  • ・書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
  • (国税庁ホームページより)

インボイス制度が導入された理由

現行制度では、免税事業者でも商品・サービス代金を請求する際、消費税を付加するのが一般的ですが、免税事業者は消費税を受け取っても、消費税を納税する必要がないため、消費税部分が利益になります。この免税事業者の消費税が利益になってしまう問題を、インボイス制度によって解消するのが狙いだといわれています。つまり、仕入れ側の仕入税額控除を認めないようにすることで、実質的に免税事業者が消費税の請求ができにくくなってしまうという制度であるといえるでしょう。

インボイス制度が影響する不動産オーナー

消費税に関するインボイス制度は、不動産オーナーにとって、どのような影響を与えるのでしょうか。
賃貸住宅やマンションなどの住宅用の賃料(社宅として法人に貸している場合、家賃に含まれている駐車場賃料も非課税)には、基本的に消費税がかかりませんので、消費税を納める必要もありません。したがって、インボイス制度の影響はありません。土地の賃料、土地の売却収入も非課税です。
しかし、事業用の店舗・事務所・倉庫の賃貸収入などは、消費税が課税されます。以下、国税庁のホームページより、不動産関連の消費税について紹介します。

  1. 地代
    土地の譲渡や貸付けは、消費税の課税の対象とならない(非課税取引)。なお、土地の貸付けのうち、貸付けに係る期間が1か月に満たない場合および駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合は、非課税にはなりません。土地には、土地の上に存する権利も含まれます。
  2. 家賃
    事務所などの建物を貸し付ける場合の家賃は課税の対象となる。この場合、家賃を土地部分と建物部分とに区分している場合でも、その総額が建物の貸付けの対価として取り扱われます。 なお、住宅用としての建物の貸付けは、貸付期間が1か月に満たない場合などを除き非課税となります。ただし、契約において住宅用であることが明らかにされているものに限ります。
  3. 権利金、敷金などの取扱い
    • (1)地上権、土地の賃借権の設定に伴い授受される更新料や名義書換料は、土地の貸付けまたは土地の上に存する権利の設定の対価として、非課税となります。
    • (2)事業用の建物の賃貸借契約の締結や更新に伴う保証金、権利金、敷金または更新料などのうち、返還しないものは、資産の譲渡等の対価として課税の対象となります。ただし、契約の終了により返還される保証金や敷金などは、課税の対象にはなりません。住宅用建物の賃貸借契約の締結や更新に伴う保証金、権利金、敷金または更新料などのうち、返還しないものは非課税となります。

つまり、事務所ビルや店舗ビルを賃貸している不動産オーナーは、インボイス制度の対策を立てる必要があります。すでに課税事業者として、消費税の納税を行っている人は、インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)の登録を行えば、これまで通りの請求、取引を行うことができます。
また、事務所や店舗の家賃収入があっても、テナント(借主)が免税事業者の場合は、そもそも仕入税額控除は不要なので、オーナーがインボイスを発行する必要はありません。
しかし、借主が課税事業者の場合、オーナーの年間の売上が1000万円以下の免税事業者であっても、インボイス制度への対策を検討する必要があります。

図3

※住宅の家賃収入のみの場合、消費税は非課税でインボイス対策の必要はありません。

インボイス制度による不動産オーナーへの影響

借主が課税事業者の場合、どのような影響があるのでしょうか。
借主が、免税事業者からインボイスではない請求書を受け取っても仕入税額控除が受けられないので、その分の消費税の納税額が増え利益が減ることになります。そうすると、借主としては、オーナーに対して何らかの要請をすることが予想され、おおむね次の3点に集約されそうです。

  • 1.消費税分を家賃から減額してほしい
  • 2.適格請求書発行事業者になってほしい
  • 3.「適格請求書」を発行できる建物に移りたい

まず、消費税分が控除できないわけですから、これまで支払っていた消費税分の減額を求めることが考えられます。また、すぐに移転する可能性は低いと思いますが、次の移転のタイミングや新規で募集する場合は、「インボイスを発行できる物件」に変更される可能性があります。
こうした交渉を避けるために、2の適格請求書発行事業者になることを選択した場合は、消費税の納税を行う必要があるため減益になり、収支計画の見直しを迫られることにもつながります。

投資不動産を売却する場合

土地の売却に関しては非課税ですが、建物の売却については課税されます。ですから、課税事業者が不動産を購入する場合、建物には消費税がかかりますが、売主が免税事業者の場合、適格請求書(インボイス)を発行できませんので、買主は建物分の消費税を仕入税額控除できなくなります。免税事業者が収益物件を売却するときには、購入者層のことを考慮する必要がありそうです。
買主が免税事業者、もしくは一般の個人の場合は、免税事業者が不動産を売却した際にも取引に影響はありません。

まとめ

すでに課税事業者であればインボイス制度への登録を行えば、何も問題はありません。これまで通りの取引を行うことができます。
また、課税事業者になった場合、基準期間(2年前)の課税売上高が5,000万円以下であれば、簡易課税制度を活用することも可能です。
詳しくは、税理士等にご相談ください。

免税事業者の場合でも、賃貸住宅などの住宅の賃料は消費税が非課税なので、インボイス制度の影響はありません。しかし、消費税が課税される事務所・店舗等の家賃収入がある場合は、オーナーが適格請求書(インボイス)を発行できないので借主(テナント)は仕入税額控除ができず、消費税の負担が増えてしまいます。
そのため、オーナーが課税事業者になってインボイスを発行(=消費税を納税)するか、賃料を減額するといった対策を考える必要があるでしょう。

監修:税理士法人米田会計 米田 和弘

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