賃貸住宅経営は不動産事業(6)賃貸住宅経営の損益分岐点を考える
公開日:2024/12/26
賃貸住宅経営は、初期投資が大きく、その投資を徐々に回収していくというビジネスモデルになりますので、最終的にどのように収益化していくのか、綿密な計画を立てる必要があります。
その計画がないと、確かに賃料は毎月入っていても、果たしてビジネスとして順調に進んでいるのかどうか分からないということが起きてしまいます。
そうならないためには、「損益分岐点」を十分に理解することが大切です。損益分岐点を知っているかどうかで、投資の結果も大きく変わってきます。
損益分岐点とは、利益と損失がちょうど同じになるポイント、分かれ目のことです。損は出ていないけれど利益も出ていないゼロの段階とも言え、損益分岐点よりも利益が出ていれば黒字、損失が出ていれば赤字ということになります。
仮に年間に800万円の家賃収入を得ていたとしても、ランニングコストが700万円かかっている場合、順調とは言えないでしょう。損益分岐点を知ることは現在の状況を正しく把握し、賃貸住宅経営がうまくいっているかどうかを判断する基準を知ることになります。
賃貸住宅経営を始めたころは、売上や利益などを計算してみても、その時点で順調かどうか判断できないことがあります。賃貸住宅を経営するにあたり、利益だけでなく、これまで発生した経費、これから発生すると思われる経費についても考えていかなければなりません。そのためには、「損益分岐点」に注目する必要があります。
収入と経営にかかる費用について
賃貸住宅経営での損益分岐点を考えるにあたって確認しておきたいのが、収入と経営にかかる費用です。
収入
自身の経営している賃貸住宅の収入のうち、メインになるのは家賃です。この他にも共益費や礼金を受け取っている場合は、これらも収入になります。駐車場の賃料を受け取っていれば、これも賃貸住宅経営に関する収入です。
費用
賃貸住宅経営ではさまざまな費用(経費)が発生します。例えば、火災保険や地震保険などの保険料、不動産会社への仲介手数料、管理会社に支払う手数料など。また、賃貸住宅の共用部分の光熱費や修繕積立金、ご入居者が入れ替わる際の清掃、ハウスクリーニングの費用もあります。
損益分岐点の計算方法
収入と費用が明確であれば、損益分岐点を計算することができます。
「(費用+アパートローンの返済額)÷家賃収入」が基本的な損益分岐点の計算式となります。
例えば、10部屋の賃貸住宅を経営しており、各部屋の家賃が10万円だとします。アパートローンを利用していて、ローンの返済額は毎月40万円、費用は月に30万円としましょう。
計算式に当てはめると「(30万円+40万円)÷100万円=0.7」となります。つまり、入居率が70%以上あれば黒字になることが分かります。
このように、損益分岐点を計算してみると、どの程度の入居率が必要なのか分かるため、経営指標のひとつになります。
損益分岐点は長期で考える
賃貸住宅経営の損益分岐点は、できる限り長期的な視点で考えることが重要です。例えば、損益分岐点が70%で、現在入居率が75%を達成できていたとします。ここだけ見ると黒字と判断できますが、将来、突然思わぬ支出が発生する可能性もあります。大型の設備を買い換えなければならなかったり、災害などによって大規模な修繕が必要になったりすることがあります。それまで安定して黒字を出していたとしても、突発的な大きな支出があれば赤字に転落してしまうこともあります。短期的な視点だけではなく、長期的な視点で経営を見ることが重要です。
損益分岐点を上回るために
支出を減らす
損益分岐点を常に上回るためには、まず月々の支払いを抑えることです。賃貸住宅経営において、大きな負担となるのがアパートローンです。アパートローンの返済額は、家賃収入との比率で考える必要があります。ローンの比率が家賃収入に対して高いと、前述したように、急な出費が起きた際に、すぐに収支が悪化してしまいます。さらに、損益の判断だけではなく、金利の負担を含めたキャッシュフローにも影響を与えますので、ローンをいくらに設定するのかは重要な問題です。
管理会社への支払いも毎月発生します。自身の収支計画に見合った管理の業務と費用を考慮した上、依頼することが必要です。
空室を減らす
支出を減らすことができても、空室が生じ、家賃が入らない状態では意味がありません。常に満室状態というのは現実的ではありませんが、できる限り空室をなくすための対策が必要です。
退去者が出たあとの期間を短くする工夫や、なるべく長期で入居いただける対策が重要となります。
また、意外に大きいのが、家賃の滞納です。管理会社と協力しながら、早い段階で対処が必要です。
確定申告を行う
利益が20万円以下の場合、基本的に確定申告を行う必要はありません。赤字経営となった場合、税金の支払いがないと判断し、申告をしない人もいますが、他に給与所得がある場合など、確定申告をすれば損益通算の利用が可能となります。損益通算とは、同一年度内で発生した利益と損失を相殺することですが、赤字が出た場合は、その分を所得から差し引くことができます。また、毎年確定申告を行うことで、賃貸住宅経営の経営状態を経年で比較したり、分析したりすることもできますので、賃貸住宅経営を「経営」として運営していくためにも、確定申告は毎年行うようにしましょう。
賃貸住宅経営で長期的に収益を生み出していくためには、収益分岐点についてしっかりシミュレーションしながら、計画を立てる必要があります。信頼できるパートナーに相談しながら進めてください。