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コラム No.13-1

トレンド・CREコラム

耐震・環境不動産形成促進事業実施要領の改正に見る、老朽化不動産対策

公開日:2016/09/30

増加する老朽化不動産

現在、マンションやオフィスビル、自治体の公共施設などの老朽化したビルや建築施設に対する対策が急がれています。
昨今頻発する地震や災害による倒壊の懸念、またそれに伴う二次災害への不安、空室や空き家問題が引き起こす資源の無駄遣いや治安の問題、さらに環境問題への影響も懸念されるところです。
当然、立地条件が良く、立て直しやリノベーション後でも十分な採算が見込めるものであれば、すぐにでも対策を講じることができるかもしれませんが、1960~70年代、人口が大幅に増え、経済成長時代に建築されたビルや施設は、条件の良くないものも多々あり、再活用のビジネスを行うにあたっても、採算が見込めず、手つかずの状態になっているものも相当数あります。

実際に、日本不動産研究所の「全国オフィスビル調査」(2015年1月現在)によると、「新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルストックは、全都市で3,020万m2(2,682棟)と総ストックの27%を占めた。都市別では福岡(41%)、札幌(40%)が4割を超え、京都(38%)、大阪(34%)と続いて多い」とあります。
また、現在40数万戸である築40年を超える老朽化マンションストックは10年後には140万戸に迫るとも言われており、老朽化ビルは今後増大の一途のようです。

地方公共団体においても、老朽化の問題は山積しています。
総務省自治財政局財務調査課の調査によれば、全国の自治体における公共施設は1970年代にもっとも増加しており、これらの老朽化対策が問題となっています(下図参照)。

公共施設状況調査

出典:総務省自治財政局財務調査課

しかし、地方自治体の財政も同時に悪化しており、同調査によれば、

  • (1)過去に建設された公共施設等がこれから大量に更新時期を迎える一方で、地方公共団体の財政は依然として厳しい状況にある。
  • (2)人口減少等により今後の公共施設等の利用需要が変化していく。
  • (3)市町村合併後の施設全体の最適化を図る必要性がある。

とされており、「公共施設等の全体を把握し、長期的な視点をもって、更新・統廃合・長寿命化などを計画的に行うことにより、財政負担を軽減・平準化するとともに、公共施設等の最適な配置を実現することが必要」と指摘します。

耐震・環境不動産形成促進事業

こうした老朽化の問題を受け、平成25年1月11日、緊急経済対策の一環として「良質な不動産形成のための官民ファンドの創設」が閣議決定されました。それに基づいて国土交通省と環境省が取組みを始めたのが「耐震・環境不動産形成促進事業」です。
「老朽・低未利用不動産について、国が民間投資の呼び水となるリスクマネーを供給することにより、民間の資金やノウハウを活用して、耐震・環境性能を有する良質な不動産の形成(改修・建替え・開発事業)を促進し、地域の再生・活性化に資するまちづくり及び地球温暖化対策を推進します」とするもので、前述したように、条件の良い物件であれば、民間企業が進んで投資を行いますが、そうではない物件に対して、国が予算を投入し民間投資を促進することで、建築物の耐震化や老朽物件の再生を図ろうとするものでした。

当初は、人口集中地区内の事業後の延床面積が2,000m2以上の建築物がこの事業の対象でした。これらの建築物について、耐震改修事業、15%以上のエネルギー消費量削減効果が見込まれる省エネ改修または建替え・開発事業、建築環境総合性能評価システム(CASBEE)による評価がAランク以上となる改修または建替え・開発事業、都市の低炭素化の促進に関する法律に規定する低炭素建築物などのうち、いずれかを満たすものが対象となっていました。

しかしながら、官民ファンドの活用推進に関する関係閣僚会議幹事会の報告によれば、「耐震・環境不動産形成促進事業(一般社団法人環境不動産普及促進機構)」の平成27年度下期における支援決定件数は1件、支援決定額は4億円、実投資額はなしであり、平成25年3月29日の基金設置以来の累計では、支援決定件数は7件、支援決定額は87円、実投資額は61億円となっており、十分な成果があったとは言い難い状況でした。

耐震・環境不動産形成促進事業実施要領を改正

そこで、地方における建築物の耐震化等を円滑に進めるため、平成28年1月に、環境省と国土交通省は、訪日外国人旅客の増加等により需要が高まっているホテル・旅館等をはじめ、地方における建築物の耐震化等を円滑に進めるため、耐震・環境不動産形成促進事業実施要領を改正しました。

発表資料によれば、改正内容は以下の通りです。

  • (1)地域要件の撤廃:対象地域を全国に拡大。
  • (2)耐震性が不足する建物の建替えを行う場合の環境要件の見直し:建築環境総合評価性能システム(CASBEE)「A」以上から「B+」以上とするとともに、建築物に係るエネルギーの使用の合理化の一層の促進のために誘導すべき基準を新たに追加。
  • (3)その他:環境要件として、建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)による評価結果の星表示が三つ以上であることを追加。

また今後の取組方針として、「上記見直しを踏まえ、ファンドマネージャーや地域金融機関等に周知徹底するとともに、ファンドマネージャーからの情報収集、パートナー協定を締結した183の地域金融機関等との情報交換、ホテル・旅館・ヘルスケア・不動産業等の関係事業者・団体、地方公共団体や地方事業者等への事業紹介・意見交換等を積極的に行い、耐震・環境性能を有する良質な不動産の形成を促進すること」としています。

この改正により、投資へのハードルを下げ、さらなる投資を呼び込もうという狙いを見ることができますが、現実には活用実態は、まだまだ十分とは言えず、今後さらに時間はかかるかもしれません。
しかし、都市部、地方にかかわらず、老朽化問題は早急に解決しなければならない大きな社会問題でもあり、この改正によって、災害対策、環境問題対策、街の活性化など、様々な問題解決の足がかりになることが望まれるところです。

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