
事例で検証する家族のための信託の活用方法(5)【ケース】遺言書を作成したのに、無効と判断されてしまう?
公開日:2025/05/02
相続に備えて、子どもたちがもめることがないように遺言を準備したいと考える被相続人の方は多いはずです。ところが、せっかく準備した遺言書が無効となってしまう場合がありますので注意が必要です。どのような遺言が無効となってしまうのでしょうか。
遺言には大きく自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類がありますが、遺言書を作成する人はまだまだ少数のようです。
日本財団の調査によると、60歳~79歳で遺言書をすでに作成している人は3.5%(公正証書遺言が1.5%、自筆証書遺言が2.0%)、近いうちに作成するつもりがある人は12.2%となっています。
遺言書があれば、相続時の財産を巡るトラブルを回避することにつながるほか、財産を後継者たちにどのように分配するのかという問題に対して、自分の意思を反映することができます。
特に、自筆証書遺言は、公証役場に行く手間や労力もかからず、自分一人で費用をかけずに作成できることができます。
また、自身で作成した遺言書を法務局が保管する「自筆証書遺言書保管制度」があります。遺言書の保管申請時には、民法の定める自筆証書遺言の形式に適合するかについて、遺言書保管官の外形的なチェックが受けることができ、紛失や消失、改ざんや隠匿のおそれがなく、遺言者の死後に法務局が相続人に遺言書の保管を通知する制度です。この制度の利用も検討しても良いでしょう。
上記調査結果を見ても、自分で簡単に作成できる自筆証書遺言を選択する人のほうがわずかながら多いようですが、自筆証書遺言は正しく作成しないと無効になってしまうこともありますので、注意が必要です。
東京法務局「遺言書を作成するときの注意点」の内容から、自筆証書遺言の作成上の注意点を紹介します。
民法で定められた必ず守るべき要件
遺言書を作成するときには、必ず守るべき要件を確認してください。作成した遺言書がこれらの要件を満たしていないと、せっかく書いた遺言書も相続の手続のときに使えなくなってしまいます。遺言書を作成するときの大切な点ですので、間違いがないようにしっかり確認しておきましょう。
- (1)遺言書の全文、遺言の作成日付及び遺言者氏名を必ず遺言者が自書し、押印する。
- (2)自書ではない財産目録が添付されている場合、全てのページに署名、押印する。
- (3)書き間違った場合の訂正や、内容を書き足したいときの追加は、その場所が分かるように示した上で、訂正又は追加した旨を付記して署名し、訂正又は追加した箇所に押印する。
氏名を手書きで書くことは必須で、手書きによる署名がない自筆証書遺言書は無効となります。遺言者自身が、自分の氏名を「自書」しなければなりません。「令和〇年〇月〇日」など、年月日を特定できる必要があります。令和〇年〇月吉日などでは、日付が特定できません。また、必ず一人の遺言者名だけを書かなければなりません。また、捺印も必須条件で、印を押していない自筆証書遺言は無効です。
訂正の際には、細心の注意を
自筆の遺言書を作成するわけですから、間違いや、後で確認した際に、修正を加えることもあるでしょう。書き間違った場合の訂正や、内容を書き足したいときの追加方法を誤ると、その部分が無効となり、前の内容に戻ってしまいますので、注意が必要です。
図
出典:東京法務局「遺言書を作成するときの注意点」
上図、左の事例では、書き間違った箇所が訂正されているのにもかかわらず、訂正した旨の記載や、訂正又は追加した箇所への押印が漏れています。
右のように、訂正した場所が分かるように示した上で(破線赤囲み内「上記2中~」の部分)、訂正又は追加した旨を付記(「3字削除3字追加」の部分)して署名し(「遺言太郎」の部分)、訂正又は追加した箇所に押印する必要があります。修正液や修正テープは使用しないでください。
財産目録をパソコンで作成した場合
パソコンで作成した財産目録にも署名、押印が必要です。また、自書ではない財産目録は本文が記載されている用紙とは別の用紙を用いて作成する必要があります。パソコン等で作成した財産目録を印刷してその余白に本文に該当する文言を自書することは認められていません。
本制度において求められる様式上のルール
民法上の要件に加え、法務局に預ける場合に守らなければならない様式上のルールを確認してみましょう。
- (1)用紙はA4サイズ
- (2)上側5mm、下側10mm、左側20mm、右側5mmの余白を確保する
- (3)片面のみに記載
- (4)各ページにページ番号を記載(1枚のときも1/1と記載)
- (5)複数ページでも、とじ合わせない(封筒も不要)
遺言書は、原本に加え、画像データとしても長期間適正に管理されます。遺言書を保管する際に、スキャナで読み込みを行いますので、通帳やカードのコピーの取り方によっては文字や数字が濃すぎたり薄すぎたりして、きれいに読み込めないことがあります。特に、濃すぎる場合には、きれいにスキャナで読み込めず、そのままでは保管の手続ができなくなってしまいます。コピーする際には、読みやすい濃さになっているかも確認してください。
遺言書は、自分の意志を表明するため、残された相続人を守るためにも、作成したほうが良いと思われます。自筆証書遺言は、自分一人で作成できるゆえに、ミスが発生しやすくなりますので、作成後は、有効な要件を満たしているかどうか、法務省のホームページなどで確認しましょう。また、できれば相続を専門に扱う弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。