コラム vol.069
建物をめぐるトラブル
執筆:弁護士 吉山晋市
公開日:2015/03/12
土地の有効活用としては、以下の2つの方法が考えられます。
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(1)地上に賃貸用の建物を建てて,それを賃貸するという方法
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(2)土地を貸して、借主が店舗など建物を建てるという方法
では、所有する建物を賃貸しているとどんなトラブルがあるのか、所有する土地上に借地権付きの建物があるとどんな問題が発生するのか、賃貸人にはどんな権利があって、どのような義務を負うのでしょうか。今回のコラムでは、(1)のような賃貸用の建物を巡るトラブルの予防法と解決法について考えてみたいと思います。
なお、(2)借地上の建物に関するトラブルについては、vol.70「借地権・借家権をめぐるトラブル」の中で検討する予定です。
賃貸用建物の破損・汚損について
建物の貸主、オーナーとしては、貸している建物は大切な資産ですから、建物の破損や汚損とその修繕は大きな関心事と思われます。このような建物の破損・汚損は、賃借人の故意・過失によって生じたものかどうかによって、誰が修繕すべき、費用は誰が負担すべきか、結論が異なります。
【賃借人の故意・過失で破損・汚損した場合】
賃借人は賃借物件を善良な管理者としての注意をもって使用する義務(善管注意義務、民法400条)を負っていますので、賃借人の故意・過失で建物を破損・汚損したときは、賃借人が修繕義務を負います。
【賃借人の故意・過失以外で、自然損耗や自然災害などで破損・汚損した場合】
賃貸人は賃借人に対して、建物をその用法に従って使用収益させる義務があります(民法616条・594条1項)。そのため、賃貸人は、自然損耗や台風や地震など自然災害、第三者の行為により破損・汚損した場合には、賃貸人は使用収益に必要な修繕をする義務を負います(民法616条1項)。では、賃借人の故意・過失によらない破損・汚損であれば、賃貸人はいかなる破損・汚損についても修繕義務を負うのでしょうか。
まず、雨漏りや水道管の詰まりなど、住居として通常の使用に支障が生じる場合には、賃貸人は修繕義務を負います。これに対して、ふすまが破れたなど、通常の使用に支障を生じない場合には、賃貸人は修繕義務を負わないと考えられます。
もっとも、建物の躯体の破損でも、建物自体が老朽化しており、修繕するよりも建替えのほうが社会経済的に合理的といえる場合には、修繕義務を認めない裁判例もあります(最判昭和35年4月26日)。
では、賃貸人として修繕義務を負うにもかかわらず、これに応じなかった場合に賃貸人にはどのようなリスクがあるでしょうか。修繕しないことで賃借人が建物の通常の使用ができなかった場合には、賃貸人の債務不履行として損害賠償責任を負います。また、賃貸人が修繕しなかったため、賃借人自ら修繕した場合には、「必要費」(民法608条1項)として全額償還する義務を負います。
では、賃借人に修繕費用を負担させる旨の特約を結ぶことで、上記のリスクを予防することはできるでしょうか。
このような特約は、家主が修繕義務を免除する趣旨にすぎないと制限的に解釈されています。そのため、賃借人に修繕費用まで負担させることは特約ではできないと考えられます。また、最高裁は、経年変化や通常損耗分の修繕義務を賃借人に負担させる特約について、賃借人が修繕費用を負担することになる通常損耗及び経年変化の範囲を明確に理解し、それを合意の内容としたものと認められるなど、通常損耗補修特約が明確に合意されていることが必要であるとの判断を示しています。
賃貸用建物の用法違反について
つぎに、家主としては、「住居」として貸したのに、いつの間にか「店舗」として使用され不特定多数の人が出入りしているような場合です。このようなケースは、家主としても不安を感じるものです。
したがって、一般的には、賃貸借契約書には用法を制限する規定が盛り込まれています。
では、用法違反(目的外利用)があった場合には、家主はいかなる手段をとりうるでしょうか。
用法違反があった場合には、家主は賃借人に対して、是正を求める、賃貸借契約を解除する、損害賠償請求するという手段があります。もっとも、用法違反があっても直ちに賃貸人と賃借人との信頼関係が破壊されたといえる事情がなければ、解除が認められないこともあります。
ですから、用法違反があった場合には、再発しないよう是正を求めておくことで、再発した場合に契約解除を認められやすくするために、再度用法違反しない旨の誓約書に署名してもらうなど工夫が必要です。