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コラム No.142

CREコラム トレンド

観光立国推進計画、「客数」から「消費額」目標に

公開日:2023/02/28

観光庁は2023年2月、国の観光政策の方針となる新たな「観光立国推進基本計画」の素案を公表しました。3年後の訪日外国人観光客の目標を「訪日客1人当たり消費額20万円」と定め、訪日客数から消費額に軸足を移して実質的な経済効果を狙う姿勢に転じました。3月末までに成案が発表される予定で、コロナ禍による行動制限が緩和しつつある現在、新たな観光戦略として注目されます。

「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくり

「新たな観光立国推進基本計画」の素案は、国土交通大臣の諮問機関である「交通政策審議会」の観光分科会(2月9日開催)で示されました。同計画は数年おきに見直されており、新型コロナの感染拡大後で初めての見直し。2023年4月から3年間が対象です。その間、大阪・関西万博(2025年4月13日~10月13日)が開催されます。計画の基本方針は、観光立国の持続可能な復活に向け、(1)持続可能な観光地域づくり(2)インバウンド回復(3)国内交流拡大――の3つの戦略に取り組むことにしました。

持続可能な観光地域づくりでは、コロナ禍で打撃を受けた観光産業の再生・高付加価値化を図るため、経済効果の高い滞在型旅行の拠点として宿泊施設や観光施設のリノベーションを支援。観光DXを推進して観光産業の生産性向上を目指します。同時にSDGsを意識し自然や文化など地域の観光資源の保全と観光を両立。その際、観光地域づくりの司令塔の役割を果たす「観光地域づくり法人」を中心とした観光地マネジメント体制の構築を求めています。こうした取り組みで、観光振興が地域社会・経済に好循環をもたらす仕組みづくりを全国の観光地に展開し、「住んでよし、訪れてよし」の持続可能な観光地域づくりが拡大するよう促します。

アジア太平洋地域はコロナ前旅客水準の回復遅れ

インバウンド回復戦略は、特別な体験やイベントを全国各地で集中的に実施し、その魅力を全世界にアピールします。具体的には地方直行便の増便や大都市から地方への周遊円滑化、IR (統合型リゾート)整備の推進。文化財の夜間貸切など思い切った活用を進言しました。現下の円安のメリットを生かして早期の訪日外国人旅行消費額5兆円の達成を目指し、大阪・関西万博等の大型イベントも戦略的に活用していく構えです。観光に限らず国際会議や学会などビジネス需要や外国人留学生受け入れなどにも注力すべきとしています。

ただ世界全体の国際航空旅客のコロナ前水準への回復は2025年と予測されており、特に水際対策の緩和が遅れたアジア太平洋地域はさらに遅れる見込みで、インバウンド需要の早期回復の見通しは厳しい状況です。

図1:訪日外国人旅行者数/日本人の海外旅行者数

出典:観光庁交通政策審議会第45回観光分科会配布資料「新たな観光立国推進基本計画の素案について」(2023年2月9日)

インバウンド需要に依存していた観光業界では、国内交流拡大に取り組む重要性が増しています。国内における新たな交流市場を開拓するには、コロナ禍で生じたライフスタイルの変化を踏まえ、テレワークを活用したワーケーションや「何度も地域に通う旅、帰る旅」を定着させる第2のふるさとづくり、高齢者の旅行需要の喚起につながるユニバーサルツーリズムを推進していくとしています。

2025年の訪日外国人客の目標はコロナ禍前の19年(3188万人)は超えるものの、訪日客1人当たりの消費額は19年実績(約16万円)に比べて25%増、約4万円多い20万円と想定。訪日客数よりも日本国内に落ちるお金を照準に定め、国内旅行消費額を2025年までにコロナ前の22兆円に回復させる消費拡大を前面に出しています。

図2:訪日外国人旅行消費額単価

出典:観光庁交通政策審議会第45回観光分科会配布資料「新たな観光立国推進基本計画の素案について」(2023年2月9日)

観光DXで生産性向上を目指す

「新たな観光立国推進基本計画」の素案は、観光庁が1月に「観光DX推進のあり方に関する検討会」で示した中間とりまとめの内容が加味されています。検討会は観光地におけるDX推進に向けて「旅行者の利便性向上・周遊促進」「観光地経営の高度化」「観光産業の生産性向上」「観光デジタル人材の育成・活用」の4つの柱で検討しました。「旅行者の利便性向上・周遊促進」は旅行者の情報収集や予約などにおける不満の解消、タイムリーなレコメンド(お勧め)で旅の満足度向上や消費額増大を図ります。

わが国ではウェブサイトやSNSでの観光地紹介やオンラインの予約・決済など、観光業界のデジタル化は進んできました。しかし小規模事業者においてはオンライン上の情報発信は不十分なところもあり、多様な趣味嗜好を持つ旅行者に対応しきれていない側面もあるかもしれません。オンライン予約も、キャッシュレス決済においてもクレジットカード対応が大半で、QRコード(※)決済など決済手段の多様化に乗り遅れているとの指摘もあります。

「中間とりまとめ」では、観光産業の生産性向上について触れています。紙の台帳で管理する旧来型の経営を続けている事業者は少なくありません。経営の可視化が遅れているため、業績向上のための課題と解決の方法が見つけにくく成長を阻害しているという見方なのでしょう。観光デジタル人材の育成と活用を推進していくことを強く求めています。

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