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コラム No.149

CREコラム トレンド

3000億円に迫る不動産特定共同事業への投資

公開日:2023/09/29

不動産を小口化し投資商品として販売する「不動産特定共同事業」への投資が増加しています。よりよい街づくりや空き家問題、さらには少子高齢化社会に不可欠な保育、老人介護施設など、不動産開発が抱える多様な課題の解消に対しては、クラウドファンディングなど柔軟な資金調達手段が求められます。

3度の法改正を経てブラッシュアップしたFTK法

「不動産特定共同事業法」(以下、FTK法)は1995年、銀行の不良債権処理と地価の下落で不動産売買市場が冷え込んで景気低迷が長期化したことから、その打開策として生まれた不動産市場の活性化策です。ただ不動産特定共同事業(以下、FTK)の許可を受けるには宅地建物取引業免許が必要で、不動産証券化の担い手であるSPC(特別目的会社)は事業主体になれませんでした。このため不動産を信託受益権にすることで宅地取引の世界から切り離し、金融商品として取り扱うことでFTK法の適用を避ける仕組みが取られていました。

2013年、国はSPCでFTKを営むことができるよう法改正し、SPCがFTKの免許を持つ会社(宅建免許を持つ会社)に事業を委託し、銀行や信託銀行などの機関投資家を事業参加者として組み入れることなどを条件に特例を認めました。この改正では銀行などの機関投資家が絡む取引に対して限定され、大手の不動産業者は参入できても中小事業者には高い参入障壁として残りました。そこで、2017年に小規模の不動産業者に事業参入への道を開き、クラウドファンディングによる投資を認め、インターネット時代に即した資金調達手段を認めました。3度にわたる法改正でFTKはようやく上昇気流に乗り始めたのです。

国土交通省は2021年7月に「不動産特定共同事業(FTK)の利活用促進ハンドブック」を作成し、FTKの利活用について調査や啓発を進めてきました。今年7月に改訂版を公表しています。それによると、FTKに対する出資募集額は2022年度に2,715億円と、FTK法が制定された1995年(29億円)と比べて大幅に増加しています。また、クラウドファンディングによる出資募集額も2022年度に419件/604.3億円で、5年前と比較すると件数で約16倍、金額で約48倍と大幅に増えています。

図1:不動産特定共同事業の実績(契約累計別の出資募集額)

出典:国土交通省「不動産特定共同事業(FTK)の利活用促進ハンドブック」(2023年7月 不動産・建設経済局不動産市場整備課)

図2:不動産特定共同事業(FTK)のクラウドファンディングの件数・出資募集

出典:国土交通省「不動産特定共同事業(FTK)の利活用促進ハンドブック」(2023年7月 不動産・建設経済局不動産市場整備課)

不動産開発業者に重荷の資金調達

2017年の法改正では、地方の小規模不動産の再生や成長分野での良質な不動産ストックの形成を推進し、都市の競争力向上を図ることを目標に設定しました。国交省作成のハンドブックにはFTKの好事例を掲載しています。いくつか取り上げてみましょう。

札幌市にある複合施設は、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)とスポーツクラブ、保育園を併設しています。地元の介護業者がFTKの仕組みを使って地方銀行、地元証券が組成した市民ファンドと連携し、サ高住は25年、スポーツクラブは5年、保育園は20年の固定賃料で運営しています。
地元の介護業者は施設の新規開設意欲はあるものの不動産業専門ではなく、不動産開発リスクの観点から資金調達に苦慮していました。そこでFTKの事業者に相談して施設の開発資金を確保。地域に必要不可欠な施設づくりというコンセプトを掲げて地域住民の資金を集めることに成功しました。地域に必要な施設は地域の資金で整備する、という考え方を実践した好事例といえるのではないでしょうか。

投資対象としての歴史が浅い弱点は広報活動で補完

東京・品川にある保育所はFTK法によるクラウドファンディングで資金調達しました。保育所は地主の土地有効活用として事例は多いといわれますが、地主に代わって匿名組合を組成し、保育所運営会社が運営しています。保育所は投資対象としては歴史が浅く、機関投資家による私募ファンドなど資本市場から資金調達するのは厳しいものがあるといわれていました。
そこでクラウドファンディングによる資金調達では、商品サイトで保育所の安定したキャッシュフローを説明するとともに事業者の運営理念を動画で紹介するなど、個人投資家の理解と共感を得る仕組みを構築しました。「認可保育園への投資は社会課題の解決に繋がる」と考えた投資家も少なくなかった、ということです。貴重な資金を集めるためには、資金拠出を促すだけの広報活動が必要ということではないでしょうか。
FTKによる不動産開発では、古民家再生やリノベーションなどが各地で行われています。近年の不動産投資は、ESG投資やSDGsに関連した不動産開発など、単なるリターン狙いのものから社会性を帯びた投資に変化している傾向もうかがえます。投資家の共感を呼び、投資家自らが対象不動産(施設)の利用者になる参加型の投資も増えています。

一般的な不動産証券化事業では、担い手(参画するプレーヤー)が多く仕組みが複雑なケースが少なくありません。しかし小規模事業を含めたFTKによる不動産開発は関係者が少ないので、今後普及する可能性があります。また広く資金を募ることで自治体など行政の資金負担も軽減できるメリットがあります。

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