動き出した「自動物流道路」構想
公開日:2024/09/30
「物流2024問題」などに代表される物流危機への対応や温室効果ガス削減に向けて、新たな物流形態として、モーダルシフトや道路空間をフルに活用した「自動物流道路」構想が動き出しています。物流など社会インフラの持続的な発展のために2030年までに実現させる計画で、自動運転の社会実装が求められています。
国交省が中間とりまとめを公表
国土交通省では2024年2月から7月までに「自動物流道路に関する検討会」を5回開催、このほど「中間とりまとめ」を公表しました。検討会は2023年10月末、社会資本整備審議会の道路分科会国土幹線道路部会が、新たな物流形態である自動物流道路の構築の必要性を解いたことを受けて設置されました。検討会の中間とりまとめによると、道路は人流・物流すべての交通に対応したインフラとして利用されてきましたが、自動物流道路は物流専用の空間として構築し、道路空間に新たな機能を持たせる点で画期的な取り組みであると強調しています。
わが国の物流の現状に関しては、デジタル化(物流DX)は進行しているものの、個別企業による自社の最適化や少数のグループによる部分最適化が主流で、物流全体としての最適化に資する標準化には至っていないこと、また、荷主が提示する条件を優先した結果、非効率な物流が行われ、ドライバーに長時間の荷待ちや多くの附帯作業を発生させていることを指摘しています。
さらに、喫緊の課題となっている地球温暖化対策では、わが国のCO2排出量の約2割を運輸部門が占め、そのうち約45%を物流分野が占めていることから、物流分野におけるCO2排出量の削減は急務となっている、と説いています。
高速道の分離帯や路肩の有効活用も視野
海外では、今後の人口増加と貨物輸送量の増加を見込んでいるスイスが主要都市を結ぶ物流専門の地下トンネルを建設し、自動輸送カートを走行させる物流システムの構築を検討しています。イギリスでは、電磁気力を動力とする低コストのリニアモーターカーを使用した「Magway」(マグウェイ)システムを2028年から2030年を目標に新物流システムとして稼働させる計画があります。
わが国では、新技術を活用した物流形態としては2007年度から3年間、首都圏の大深度地下空間に物流トンネルを構築し、国際海上コンテナ専用鉄道を運行させる構想が持ち上がり、実現可能性の調査検討が行われた経緯があり、それ以前にも、1990年代に地下空間を活用し、自動車専用道路の中央分離帯を活用した専用道を自動走行する車両を運行させる物流形態について検討が行われたことがあります。
そして2024年7月に、国土交通省はこのとりまとめの中で、高速道路の路肩や中央分離帯に物流専用のレーンをつくり自動で物を運ぶ「自動物流道路」について公表し、2027年度までに社会実験を行う方針を示しました。
自動物流道路の技術的な検証を目的とした実験地域の候補先は、既存インフラの活用ができ、10年後の社会実装を目指すため、新東名高速道路の建設中区間(新秦野~新御殿場)などが有力視されています。
長年の懸案「パレットの規格統一化」など課題も
輸送の効率化に不可欠といわれているのが、パレットの統一規格です。業界の多様性や地域ごとの慣習、国際的な規格の違いなどで、国内のパレット規格は統一化が進んでいません。トラック輸送は、人手不足解消のために車両の大型化が進む一方、物流の小口・多頻度化が定着してきました。このため、自動物流道路の対象となる荷物は、小口の荷物を主要ターゲットとし、パレットに積載したサイズを輸送単位とすることが望ましく、拠点での積み替えの自動化・機械化によるスムーズな実施を考慮すると、パレットの規格統一は必要と「とりまとめ」は指摘しています。
具体的には、官民物流標準化懇談会パレット標準化推進分科会が推奨している「11型パレット(平面サイズ:1,100mm×1,100mm)」の規格を平面サイズとして土台とし、土台も含めた輸送対象物の高さを1,800mm までの大きさとして設定。物流需要や使いやすさ、輸送時の安定性を含めたインフラ設計、搬送技術開発などを議論・検証していくべきとしています。
国土交通省は、自動物流道路がインフラ側からのロジスティクス改革として、物流標準化に貢献することが求められることを踏まえ、検討を経た上で決定した規格については「退転の決意」を求め、自動物流道路での実装に向けて努力するよう促しています。
物流2024問題では、働き方改革や物流の効率化などで物流革新が進行しつつあります。今回の自動物流道路構想は、道路空間を多機能空間に進化させ、自動化や環境など新たな価値を創造する動きと言えるでしょう。