税の仕組みを知れば、もっと土地活用は面白くなる(1)税理士が解説!消費税改正について
公開日:2019/01/30
POINT!
・消費税増税において、さまざまな「経過措置」が設けられる
・2020年3月31日までの取得に限り、贈与非課税枠が拡大
・一定の条件を満たす住宅購入者に現金が給付される「すまい給付金」
・住宅ローン残高の1%が13年間還付される「住宅ローン減税」
消費税の増税がいよいよ2019年10月に迫ってきました。一気に上がるなら諦めがつくかもしれませんが、消費税率は、3%、5%、8%、10%と、少しずつ上がり、ボディーブローのようにじわじわと効いてきているのではないでしょうか。
消費税率は果たして、何%まで上がるのでしょうか?ちなみに、日本の消費税率は、世界と比べると意外と低く、ヨーロッパには20%以上の国がたくさんあります。
なお、これは消費税率だけで比較したもので、消費税以外に負担すべき所得税や、社会保険料などは考慮に入れていないため、一概に日本の負担率が低い、というわけではありません。
さて、個人の方々は、商流でいうと最終消費者に位置するために、消費税増税の負担を直に受けます。ですから、増税に備えて少しでも自己防衛しておきたいところです。今回は、その自己防衛策について考えてみましょう。
2019年10月以降でも8%の税率で自宅や、投資物件が手に入る?
マイホームの取得や建築、不動産の購入について、消費税は原則として、引き渡し時期の税率によって課税されます。つまり、引き渡しが2019年9月30日までであれば8%、それ以降ならば10%の税率となります。ただし、少しでも増税のショックを和らげようとして、消費税の税率改正時には、毎度「経過措置」という特例が設けられます。今回も例に漏れずその特例が準備されています。
その内容を見ていきましょう。今回の増税では、 2019年3月31日までの請負契約であれば、たとえ引き渡しが2019年10月の10%への増税後であっても、消費税率は8%が適用されます。「何だ、たった2%か」と思わないでください。仮に建築費が5000万円のものであれば、2%で100万円もの差を生むのです。
経過措置を使ったほうが得なのか?
ここまでは、マイホーム取得や建築、不動産の購入(※1)の予定がある人は、引き渡しが2019年10月以降の場合であっても、2019年3月までに請負契約を済ませて、増税に備えて自己防衛をしましょうという簡単な話ですが、税金はそれほど簡単にはいきません。マイホームの取得や建築を考えている方は、3点ほど頭に入れておくべきことがあります。
- ※1 分譲マンション等で変更契約等が用意されている場合は、2019年3月末までの契約であれば、8%です。
(1)住宅資金の贈与非課税枠の拡大
一つ目は、マイホームの取得・建築資金を親からの贈与に頼ろうとしている方に対しての施策。
住宅取得資金贈与の特例で非課税になる金額は、その時々に適用される消費税率によって変わります。税率が8%のときの一般住宅の贈与税非課税枠は、700万円(省エネ等住宅の場合1200万円)ですが、10%のときの贈与税の非課税枠は、なんと2500万円(省エネ等住宅の場合の場合は3000万円)に跳ね上がります。8%のときに2500万円贈与すると、贈与税の負担は500万円近くになりますが、10%になってから取得・契約すれば、2500万円までの贈与は贈与税の負担がゼロです。これは、贈与する側の相続対策としても有用で、なんと、無税で2500万円もの資産を移転できるのです。ただし、この非課税枠が最大3000万円まで拡大するのは、2020年3月31日までの取得に限られていますので、この期間に住宅取得・贈与をする必要があります。
(2)すまい給付金
二つ目が「すまい給付金」という制度。後述する住宅ローン控除は、支払っている所得税などから税金を控除する仕組みのため、収入が少なくて元々納税額が低い方は、税金を控除しきれずに、住宅ローン減税の軽減効果が十分に及ばないケースがあります。すまい給付金制度は、収入が低い方の住宅購入時の消費税負担増加を軽減させるために創設された制度で、一定の条件を満たす住宅購入者に現金が給付される仕組みです。つまり、収入が少なめで住宅ローン控除の恩恵を十分に受けきれない方は、一考の価値があります。
(図1)すまい給付金制度の適用期間
国土交通省HPより作成
給付額の簡単なイメージは図2のとおり(実際の給付額は、道府県民税の所得割額によって算定され、給付にはさまざまな要件も付される)です。消費税率が10%に上がったときのほうが、給付額が増えるのです。年収が510万円~ 775万円の方は、増税後に購入することで、本来なら給付されなかった「すまい給付金」を手にすることができます。
(図2)消費税増税後の給付基礎額
(3)住宅ローン減税
最後の三つ目が、「住宅ローン減税」の改定。 住宅ローン減税とは「住宅ローン残高の1%が10年間還付される」という減税制度ですが、消費税が10%に増税後の一定期間内に取得すると、還付される期間が10年間ではなく、3年間延長され、合計13年間になります(ただし、追加された3年間は、建物価格の2%の3等分と住宅ローン残高の1%のどちらか少ないほうの金額となる)。このシミュレーションにはひと手間必要ですが、追加された3年間分、控除できる金額が増えることは確かです。
結局、どっちが得なの?
こうしてみると、消費税の増税後のほうが手厚くいろいろな制度が準備されていて、経過措置を適用しないほうが得ではないかと思えてきます。 ただ、こうした手厚い制度は、社会政策的に住宅の取得がメインとなっており、また、制度の利用には、さまざまな要件も付されていますので、ご自身がこれらの制度を利用できるのか、事前に確認をしておくことが望まれます。
なお、経過措置を適用するか否かの悩ましい判断は、マイホームの取得や建築を考えている方向けの話であり、賃貸住宅投資などを予定している方、及び既に投資物件を持っていてリノベーションを考えられている方は、積極的に経過措置の活用を検討してもよいのではないでしょうか。8%の消費税となる経過措置は、請負契約が対象のため、新たに賃貸住宅・マンションを取得・建築する場合に限らず、外壁工事、フローリングや、水周りの工事など、修繕、リノベーションによる工事も経過措置の対象になります。修繕や、リノベーションといえども、数百万円の投資に及びますから、経過措置適用による2%の差は非常に大きいといえます(ただし、2%の恩恵を受けられるのは消費税の免税事業者に限られます)。
まとめると、住宅取得を検討しているものの、増税後の手厚い制度を利用できない方、賃貸住宅投資やリノベーションを考えている方は、増税に備えて経過措置が適用される2019年3月31日までに契約を完了させて、消費税8%にて取得を図ることが、消費税増税に備えた自己防衛策の一つといえます。
(補足)
本文の税制度の説明については、2019年度の税制改正大綱に基づくものであり、掲載時点においては、税制改正法案の成立前であること予め補足致します。