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コラム vol.307-1
  • 土地活用税務コラム

不動産オーナーのための民法改正のポイント(1)配偶者居住権の創設

さくら税理士法人 代表 田中 英雄

公開日:2019/11/29

POINT!

・2018年の民法改正で、自宅の所有権は相続できなくても、配偶者が引き続き住める「配偶者居住権」が創設された

・同居していた配偶者に対して、遺産分割協議、遺贈、死因贈与を、家庭裁判所の審判によって設定することができ、課税対象にならない

今回の民法改正について、賃貸住宅経営などを行われている不動産オーナー様におかれては、大きな関心をお持ちのことと思います。
中でも、相続にかかわる相続法と、賃貸借契約にかかわる債権法の改正は、不動産オーナー様に大きな影響を与える改正となっています。

相続法の改正の中でも遺言制度の見直しや、遺産分割の見直しに関する改正は、相続によって相続人同士が調停や審判などでの争いをできる限り減らし、揉めない円満な相続を実現するためだと思います。
諸外国では、遺言書、または遺言書にあたる契約書等を作って財産を承継させるというのが基本ですが、契約という概念が薄い日本では、相続発生時に相続人全員で話し合わなければならないのが現状です。そのため、少しでも遺言書作成の方式を緩和し、多くの方に遺言書を作成してもらいスムーズに財産を承継するという目的が根底にあるのだと思います。
今回の民法改正により、自筆証書遺言において方式の緩和が行われ、財産目録を自筆ではなくパソコンで作成することができるようになり(自署は必要)、また、法務局での保管制度が創設されました。
また、高齢の配偶者が住み慣れた自宅を離れることは、精神的にも肉体的にも大きな負担となるため、配偶者が原則として終身、住み慣れた自宅に住むことのできる権利として配偶者居住権を認める制度も創設されました。
特別受益の持戻し制度についても、婚姻期間が20年以上の夫婦間において、居住用建物等を遺贈や贈与があった場合でも、特別受益の持戻しを免除する制度ができました。
遺留分制度についても、「遺留分減殺請求権」から「遺留分侵害額請求権」という権利に変更されたため、遺留分者の権利は、金銭を請求する権利に変更されました。
また、遺留分の算定方法についても見直しが行われ、相続人に対する贈与について改正前は無期限だったものが、相続開始前10年以内に贈与されたものに限って遺留分算定財産に加算されることになりました。
その他にも、日常生活に困らないために預貯金の払戻制度が新設され、一つの金融機関につき最大で150万円ずつ出せるようになりました。また、これまで相続人にしか認められていなかった寄与分について、改正民法では、相続人以外の親族が、被相続人の療養看護などにより特別の寄与を行った場合、相続人に対して金銭の支払いを請求できるようになりました。

配偶者居住権の創設

今回の民法改正において、相続税に対しても影響があるのが「配偶者居住権の創設」です。
被相続人の財産が自宅と少しの財産だった場合に、他の相続人に対して代償金を支払うための現金等がないため、配偶者が自宅を相続することができず、売却してその代金を分けなければいけない場合や、自宅を相続しても、その後の生活資金を十分に得られない場合もあります。
例えば、相続財産が預貯金3000万円と自宅建物と土地5000万円の合計8000万円で相続人が配偶者と長男の2人だった場合、それぞれの相続分は2分の1ずつの4000万円ずつとなります。配偶者が自宅建物と土地5000万円を相続すると、預貯金をすべて長男が相続しても3000万円と、1000万円足りなくなるため、自宅を売却して現金で分けるなどの調整が必要になります。
配偶者居住権とは、自宅の所有権は相続できなくても、配偶者が引き続き住むことのできる権利です。
配偶者居住権を取得することで、配偶者は引き続き自宅に住むことができ、建物の所有権を他の相続人に引き継がせる代わりに預貯金などを引き継ぐことができるため、生活の安定にもつながります。
配偶者居住権は、居住用の建物と土地を借家権のような「居住権」と「居住権付き所有権」に分けるようなイメージです。上記の例で自宅建物と土地5000万円を「居住権1500万円」と「居住権付き所有権3500万円」とに相続税評価額が計算(実際の相続税評価は配偶者の平均余命と建物の残存耐用年数などを勘案して計算)されたとし、遺産分割協議により居住権は配偶者である母が相続し、居住権付き所有権は長男が所有したとします。この場合、配偶者は、「居住権1500万円」を相続し、長男は「居住権付き所有権3500万円」となるため、2分の1ずつの4000万円ずつとするためには、預貯金については配偶者が2500万円、長男は500万円となり、配偶者の今後の生活の安定にもなります。
このように配偶者保護のために創設された制度ですが、税務面では、相続税額の計算に影響が出てきます。
まず、一次相続では、居住権と居住権付き所有権に財産が按分されますが、その合計額は、通常の所有権の場合と同額となるため、配偶者の税額軽減額の適用財産への影響が考えられます。
次に大きく影響があるのが二次相続のときです。上記の例で母に相続が発生した場合、母が持っていた「居住権1500万円」は消滅します。そのため長男が自動的に「居住権」部分を承継し、結果として「居住権付き所有権」が、いわゆる「完全所有権」になります。今回、長男が母から引き継ぐ財産は、「居住権」部分ですが、消滅するため、評価額はゼロとなります。つまり、配偶者の死亡による消滅時には配偶者居住権は評価されず、相続税の課税対象とならないため相続税対策にはなります。
配偶者居住権は配偶者が終身所有することができる権利ですが、所有者との合意や放棄により消滅させることもできます。ただし、そのときには配偶者居住権の贈与があったものとみなされて贈与税がかかります。今後、この配偶者所有権については、相続税対策として多く見られるようになるでしょうし、税理士としては、シミュレーションの提案をすべきだと思っています。

「相続」と「遺贈」、そして「共有の場合」

配偶者居住権は、相続開始時に被相続人が所有する建物に居住していた配偶者に対して、遺産分割協議、遺贈、死因贈与、家庭裁判所の審判によって設定することができます。
遺言で遺す場合、注意すべきことがあります。遺言により財産を配偶者に渡すとき、配偶者は相続人であるため、遺言書には「妻○○に財産を相続させる」と書きます。しかし、配偶者居住権は遺贈の目的とされたときに配偶者が取得できると民法で定められています。そのため「妻○○に配偶者居住権を相続させる」と書いた場合、配偶者居住権は発生しませんので「妻○○に配偶者居住権を遺贈する」と書く必要があります。
また、自宅が被相続人と配偶者の共有であっても配偶者居住権を設定することはできますが、長男など配偶者以外の第三者との共有であった場合は、設定できません。

配偶者居住権は2020年4月1日以後に開始する相続から適用されます。そのため、それまでの相続については、遺産分割協議で決めた場合でも、配偶者居住権を取得することはできません。また、遺言(遺贈)による場合も2020年4月1日以降に作成した遺言書に記載する必要があります。2020年4月1日以降に遺言書の修正を検討するケースが増加すると思われます。
2020年7月10日から、法務局で自筆遺言証書を保管してくれる制度が始まります。そのため、おそらくこの保管制度に合わせて今後遺言書の作成や見直しが増えることが予想されます。また、税理士としては、この配偶者居住権を設定すると、二次相続対策としてどれだけ相続税額に影響があるのかといったシミュレーションを、行っていく必要が高まります。
今回の民法改正の施行時期はさまざまです。改正民法(相続法)は2018年7月6日の国会で成立し、7月13日に公布、原則として2019年の7月1日から施行されておりますが、次の3つについてはそれぞれ次の期日となります。

(1)自筆証書遺言の財産目録がパソコン等で作成できるようになった 2019年1月13日
(2)配偶者居住権の創設 2020年4月1日
(3)自筆証書遺言の法務局保管制度の開始2020年7月10日

不動産オーナーのための民法改正のポイント

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