コラム vol.062
生前に行うべき相続対策
~不動産の活用~
執筆:公認会計士・税理士 高桑昌也
公開日:2015/02/10
vol.061のおさらい
相続税は、以下のような算式で求められます。
(1)相続した財産の評価額-(2)相続した負債の額-(3)基礎控除額=正味の相続財産
正味の相続財産×(4)税率=相続税額
(3)基礎控除額と(4)税率は、国によって決められているため、私たちの方で変えることはできません。
変更可能なものは、(1)相続した財産の評価額と、(2)相続した負債の額になります。中でも(1)の相続財産の「評価額を下げたり」、相続財産の構成(不動産と金融資産)を「替えたり」、相続財産を生前に贈与して「名義を替える」ことが、いわゆる相続税対策(税務対策)というものです。
では、(1)の相続した財産の「評価額」を圧縮するにはどのような方法があるのでしょうか。 いくつかありますが、まずは「相続財産を不動産に変える」という方法です。
金融資産で持っていると痛い相続税
例えば、親御さん1名、息子2名の家族を想定します。親御さんが急に亡くなられ、親御さんは銀行の定期預金1億円(負債は零)をお持ちだったとします。定期預金というのは金融資産です。金融資産は基本的に「額面=税務上の評価額」となります。預金1億円を相続した場合、額面の1億円に対して相続税が掛かってきます。
(1)相続した財産の評価額:1億円
(2)相続した負債の額:零
(3)基礎控除額:3,000万円+600万円×2=4,200万円
(1)-(2)-(3)正味の相続財産:5,800万円
これを法定相続割合(子それぞれ2分の1ずつ)で相続したとすると、
子2人分の相続税額:(2,900万円×(4)税率15%-控除50万円)×2名=770万円
となります。
これを親御さんが亡くなった後、10カ月以内に税金として払わなければいけません。
770万円の税金、どう思いますでしょうか。おそらく「かなり大きい額だ、もったいない」と思われる方が多いでしょう。
ではどうすればこの税金を少しでも節約できるのでしょうか。
昔から行われていて一般的であり、かつ大きな効果を上げるものに、不動産を活用した税務対策があります。
先の例で同じ1億円でも、銀行への預金ではなく、たとえば1億円のマンション(東京都心のタワーマンション)を持っていたとすると、どのように税金の額は変わってくるでしょうか。親御さんが保有していたタワーマンションは購入価格1億円(土地部分3,000万円、建物部分7,000万円)でした。また不動産の直近の査定価格(売ろうと思えば売れる、実勢価格)も1億円でした。
土地の価格にはいろいろある
土地の価格は必ずしも1つではありません。売買取引価格、公示価格、路線価などいくつかの種類があります。
種 類 | 金 額 (実勢価格を100%とした場合の概ねの割合) |
内 容 | ||
---|---|---|---|---|
売買取引価格(実勢価格) | 100% | 実際の売買取引で成立する市場価格。 | ||
公示価格 | 90% | その年の1月1日時点における全国の標準地の価格。国土交通省が発表する土地取引の基準価。 | ||
路線価(土地の相続税評価額) | 70% | その年の1月1日時点における価格。国税庁が発表。 | ||
固定資産税評価額(建物の相続税評価額) | 60% | 3年毎の1月1日時点における価格。市町村が算定し、固定資産税の計算に利用。 |
中でも相続を考えるときに重要なのは相続税評価額です。
相続税評価額は土地でいえば「路線価」、建物でいえば「固定資産税評価額」となります。
今回のケースだと、タワーマンションの購入価格と実勢価格は同じ1億円であり、価格の内訳は土地部分3,000万円、建物部分7,000万円ということでした。
この場合、相続税評価額は、
土地部分:実勢価格3,000万円×70%=2,100万円
建物部分:実勢価格7,000万円×60%=4,200万円
の合算となり、6,300万円となります。
金融資産である預金で1億円持っていた時と比べ、約6割の評価額となりました。
相続税を計算してみると、
(1)相続した財産の評価額:6,300万円
(2)相続した負債の額:零
(3)基礎控除額:3,000万円+600万円×2=4,200万円
(1)-(2)-(3)正味の相続財産:2,100万円
これを法定相続割合(子それぞれ2分の1ずつ)で相続したとすると、
子2名分の相続税額:(1,050万円×(4)税率15%-控除50万円)×2名=215万円
いかがですか?
預金1億円で相続した時の税額と比べ、税金は約3分の1以下に大きく減少したことになります。
vol.063に続く