超高齢社会における高齢者への労働力としての期待は近年大きく高まっており、2021年における高年齢者雇用安定法の施行など、その活躍を後押しする政策的支援も整備されつつあります。一方で、加齢に伴う身体機能や認知機能等の衰えに対する技術的支援はまだ途についたばかりであり、特にこの領域では、ロボティクス・メカトロニクスやIoT・AI等の幅広い利活用が期待されています。
第1回目となる今回の研究会では、主にヒトの下肢運動機能に焦点をあて、そこにある様々な課題やその解決策について考える機会として開催いたしました。
卯津羅氏より、本研究会では「機能老化」というところに視点を当て、全5回の研究会を進めていく中で、新しい暮らし、新しい事業の姿を見つけていきたいというご説明がありました.
また暮らしの場、仕事の場など、色々な所で機能の衰えを感じるシーンがあるが、それをうまくリカバリーしながら、快適に暮らすことが求められている。研究会では、視点をまち、ひと、くらし、しごとに置き、ニーズ、シーズをとらえていくという趣旨のお話でございました。
講演「アルケリスのビジョンと製品について」
(動画37:41 〜 01:08:17)
【株式会社アルケリス 代表取締役CEO 藤澤 秀行 氏】
立ち仕事とはと聞かれて、どんな仕事を思い浮かべるだろうか。金属加工、薬品づくり、梱包、コック、美容師、警備員など、様々な仕事がある。立ち仕事されている方の共通の課題は、腰痛、足のむくみ、足裏の痛みなどである。その課題解決のために開発したものが「アルケリス」である。ヒトの足に装着するアシストスーツ(コンセプト「世界から立ち仕事のつらさをなくす」)であり、体重をスネとモモで支える。次のような特徴がある。一つは装着したまま移動ができ、移動した好きな場所で座ることができることである。そして簡単に装着できること、電源が不要であることである。
立ち姿勢は歩きやすさはあるが、足や腰への負担がある。座り姿勢の場合は足への負担はないが、腰に負担があり、歩くことはない。アルケリス装着の場合、膝を少し曲げ、背筋がS字に延び、体感が安定し、腰の負担が減るようになっている。昨年、厚労省にて負担軽減効果の実証実験を行った。高齢者にアルケリスを装着していただき、作業をしていただくというものであった。様々なセンシング等による計測の結果、筋力負担が最大41%軽減していた。エイジフレンドリー補助金(60歳以上の方対象の設備導入への補助)の対象ともなることができた(100万円上限で導入費の1/2の補助金)。
様々なアシストススーツが世の中には出回っているが、電気を使わず下肢のアシストをするものは珍しい。パワーアシストスーツは「動」の動きをアシストするものだが、アルケリスは「静」をサポートする点でも特異である。
開発のきっかけは医療現場からであった。(自治医科大学のドクターからの相談)。開発は株式会社ニットー(中小製造業)、自治医科大学、先日まで自治医科大学に在籍されていた中村先生、西村拓紀デザイン株式会社の医工連携、産学連携で行った。開発初期から各種媒体や展示会に公開し、集まる意見を開発フィードバックしながら製品開発を行った。経産省、日本規格協会で新たなJIS規格を作った。様々な賞もいただいた。NHKEテレ「魔改造の夜 技術者養成学校(最終回)」の放送も行われた。株式会社ニットーで開発したものだが、医療現場以外での活用、機能に特化したビジネスのため、2020年にアルケリス株式会社を設立した。
大和ハウス工業株式会社からお声がけをいただき、サンコロナ小田さんを含めた三社の共同開発で工場現場のarchelisFXが開発された。軽量化、操作性、蒸れ対策など、現場に即したモデルとなった。大和ハウス工業の9工場に計37台導入した。現在、医療分野に40%、工場分野に60%導入するに至っている。
アルケリスは、社会課題解決に役立つと考えている。少子高齢化の中、特に体に負担のある職業など、アルケリスの活用によって職場改善をすることによって、雇用維持につながる。また、世界的に腰痛に悩まされている人口は多いが、そのうちの1/3は仕事の現場だといわれている。現在は個人による対策が取られるケースが多いが、企業側が導入することなども今後は促進されるとよいと考えている。コロナなどで働き方改革がますます求められる中、アルケリスの導入は健康に長く働ける環境づくりの良いきっかけとなる。
アルケリスは現在、国内リリースがメインとなっているが、問い合わせの50%は海外からである。昨年末ごろから海外の展示会にも出展し、大きな反響をいただいている。新しい製品、新しいサービス等の社会実装は難しく、アルケリスも社会実装には次の3つの事柄の克服が必要だと考えている。新製品サービス品質アップ、怖そう・重そうなどという認識を払拭するための理解増進、顧客への教育・標準化やルール化が必要である。
2022年6月、新製品をリリースする。さらなる軽量化を図り、転倒リスク、着脱のしやすさなどについて改善した商品となっている。

◆◆◆主催者とのしての所感◆◆◆
第3回共創フォーラムでも所感として述べたように、人間の機能を助け、仕事の生産性を向上させる技術が活用されるようになってきています。中でもアルケリスは、立ち仕事の辛さを緩和させようというものであり、多くの現場の現場の働き手にとって福音となるものです。
このような技術や製品は、その現場だけではなく社会課題の解決につながります。今後さらに進むと考えられる労働力の不足解消、きつい仕事というイメージの解消による若者の雇用確保ができるのではないでしょうか。また、今回のようなセミナー・体験が同様の技術革新の一助になればと考えるところでもあります。