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コラム No.129

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電力ひっ迫で「ZEB」に関心高まるか

公開日:2022/04/28

3月中旬に福島県沖で起きた地震の影響で関東の広域エリアの火力発電所が一部停止し、その後の天候不順も重なって関東地域で電力ひっ迫が発生しました。こうした状況を背景に節電が再認識されています。建築物の「ゼロ・エネルギー」を目指す「ZEB」に関心が高まるかもしれません。

ZEBとは何か?

ZEBは「Net Zero Energy Building」(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)の略称で「ゼブ」と呼ばれています。快適な室内環境を実現し、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと。高断熱化や日射遮蔽、自然エネルギーおよび高効率な設備の利用などで省エネを実現し、太陽光発電などの再生エネルギーを創り出して年間に消費するエネルギー量を大幅に削減している建築物を指します。

「一次エネルギー」とは、加工されない状態で供給されるエネルギーのこと。石油や石炭、水力や地熱、太陽熱などです。「二次エネルギー」は一次エネルギーを転換したり加工したりして得られる電力で、都市ガスなどが充当します。「最終エネルギー消費」もよく使われる言葉ですが、産業活動や交通機関、家庭などそれぞれの階層で消費されるエネルギーの総量を意味します。

ZEBの定義は、延べ面積10,000m2以上の建築物を対象に省エネの実現状況に応じて以下のように4段階に分けられています。

  • (1)「ZEB」:年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスの建築物
  • (2)「Nearly ZEB」:ZEBに限りなく近い建築物として、ZEB Readyの要件を満たしながらも再エネで年間の一次エネルギー消費量をゼロに近付けた建築物
  • (3)「ZEB Ready」:ZEBを見据えた先進的な建築物として、外皮の高断熱化や高効率の省エネ設備を備えた建築物
  • (4)「ZEB Oriented」:ZEB Readyを見据えた建築物として、外皮(外壁・屋根・窓など建物の外周部分)の高性能化や効率性の高い省エネ設備と、省エネルギーの一層の実現に向けて施工された建築物

なぜZEBが必要なのか

ZEBは、2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラル」、すなわち脱炭素社会の実現という国策に向けた取り組みの一環として位置付けられています。というのも、企業のオフィスビルや商業施設など「業務部門の建築物」では膨大なエネルギーを消費しており、建物でのエネルギー消費量を大きく減らすことができるZEBの普及がカーボンニュートラルの実現に大きく寄与すると考えられているからです。

日本エネルギー経済研究所の調査によると、わが国における建築用途別の最終エネルギー消費(2018年)は、事務所・ビルが23%と大きなシェアを占め、卸・小売が19%、病院(11%)や宿泊施設(10%)、飲食店(9%)、学校(8%)と続いています。各建築の用途別エネルギー使途を見ると、事務所やデパート、学校など人が多く集まる場所では照明やOA機器などの「照明・コンセント」が圧倒的に多く、ボイラーや空調機など「熱源」「熱搬送」「給湯・蒸気」といった熱に関連するエネルギー消費が大半を占めています。

図1:建物用途別の最終エネルギー消費内訳(2018年)

出典:環境省Webサイト「ZEB PORTAL(ゼブ・ポータル)

ZEBを実現するにはまず、従来の建物で必要なエネルギーを50%以下にする「ZEB Ready」をクリアすることが当面の目標になるといわれていますが、業務部門の建築物はエネルギーの消費実態を把握することから始まり、そのうえで削減対象の優先順位を判断することになります。

ZEBは民間のビルオーナーにとっては資産価値の向上やテナント誘致の決め手の一つになり、公共物の場合は自治体にとって経費削減や有事の際の活動拠点機能を発揮する施設になります。テナントとして利用する人にとっては従業員満足度が上がり、コスト削減にもつながります。いずれの場合も不動産としての資産価値が高まるでしょう。

国交省は公共施設の事例を公開

国は2014年、エネルギー基本計画において「2020年までに新築公共建築物などでZEBを実現」「2030年までに新築建築物の平均でZEBを実現」というZEBの実現・普及目標を立てました。2020年目標に関しては全国の自治体で庁舎や学校、病院、集会所などZEBの建設実績があり目標を達成しています。国交省では2022年3月、ZEB実現に向けた取り組みの参考となるよう「公共建築物におけるZEB事例集」を発表しました。

5つの事例のひとつである福島県須賀川市の土木事務所庁舎は、環境省の補助事業を活用した「ZEB化モデル施設」として整備し、2020年3月に完成。エネルギーを効率的に利用する「アクティブ技術」による設備の効率化に加えて、建物内の環境を適切に維持するために必要なエネルギー量を減らす技術「パッシブ技術」を最大限活用するなど、ZEB化技術を積極的に取り入れました。その結果、一次エネルギー消費量の87%削減(省エネ57%、創エネ30%)を実現し、「Nearly ZEB」認証を取得しました。

一方、改善点も指摘されています。国はZEBの定義を4段階に分け、公共物の事例も公開しましたが、太陽光発電設備の設置で屋上面積が限られるなど、定義どおりに設計すれば省エネ効果が減退する場合があるとの指摘が出ているのです。またZEBによる建築コスト、特に初期投資が高くなる傾向があり、テナントオーナーなどに対する導入メリットについて訴求力が乏しいともいわれています。ZEB仕様の民間施設が今後増加し、投資効果が目に見える形になることが期待されます。

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