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コラム No.153

CREコラム トレンド

関心集める「スモールコンセッション」とは?

公開日:2024/04/26

PPP/PFIによる遊休公的不動産の推進が進んでいますが、昨年から比較的小規模で中小企業も参画できる事業運営体として「スモールコンセッション」が関心を集めています。地域の企業も運営に携わることで「エリア価値」の向上につなげる仕組みとして、今後取り組み事例が増えることが期待されています。

公共施設運営事業の小規模版

スモールコンセッション(Small Concession)の「コンセッション」は、譲渡、利権(特権)などの意味があり、公共施設とサービスに民間の知恵と資金を活用する手法である「PPP/PFI」(Public Private Partnership/Private Finance Initiative)の世界では、自治体所有の不動産を民間企業が運営権を得て事業展開する際に使われています。スモールコンセッションは、こうした公共施設運営事業の小規模版として、2023年に国が「PPP/PFI推進アクションプラン」の改訂版で使った造語といわれています。 その特徴は、①事業規模が10億円未満程度②廃校や空き古民家など身近な遊休不動産の活用③官民の対話を通じたビジネス環境の創出④エリア価値の向上につながるものであること、などとされています。

図1:スモールコンセッションの特徴

出典:スモールコンセッションのコンセプトについて(国土交通省総合政策局社会資本整備政策課)

都市部では、大手書店が公立の図書館を運営したりするなど、PPP(PPP/PFI)は広がりを見せています。地方では一般道沿いに「道の駅」が誕生し、地域金融機関の資金面での参画も多く、PFIの事例が見られます。しかし少子高齢化や地方自治体の財政難などで、増加する廃校の利活用はあまり進んでおらず、PPP/PFIは必ずしも国の思惑通りには進んでいません。その背景には、手続きが複雑で時間を要すること、公共の不動産を利用することから事業化の構想・発想力が不足していること、単体、単発の施設利用に留まって地域との連携が乏しいことなどが挙げられています。

最大の眼目は「エリア価値の向上」

そこで国は2023年にPPP/PFI版推進アクションプランを策定。新分野の開拓として「スモールコンセッション」を導入し、小規模の事業に限定してPPP/PFI事業の裾野を拡大することにしました。これまでのPPP/PFIを検証、地方公共団体の参入障壁を下げ、民間のアイデアを構想の初期段階から積極的に取り入れ、施設単体ではなく地域に波及するような仕組みによって価値向上につなげる狙いでしょう。

スモールコンセッションの最大の特徴は、エリア価値の向上と思われます。想定されている施設は、スポーツ施設やホテル・旅館などの宿泊施設、サテライトオフィスなどの研究施設、移住体験住宅などの住関連施設です。近年のPFI事業の実施状況(2020年度末時点、内閣府調査)を見ると、学校施設が23%、住宅が15%などで、廃校や空き家が4割近くを占めているもようです。

図2:PFI事業の実施状況/分野別事業割合

出典:PPP/PFIの推進における最近の動向(2023年11月8日 内閣府民間資金等活用事業推進室)

閉鎖された校舎の教室のスペースを小規模事業者に提供して地域活性化を図ったり、空き家を利活用(イノベーション)して宿泊施設にしたりする動きは各地で見られます。しかし、「活性化」しているのは再利用された施設空間だけで、必ずしも地域やそこで暮らす住民との交流が持続するケースは、決して多くないように思えます。「使われなくなった施設が、取りあえず利用されるようになった」との安堵感で留まっているのかもしれません。PPP/PFIの原点は、民間の知恵を使って公的施設を効率的に活用して行政の効率化を図ること。その1形態であるスモールコンセッション事業では、施設を利活用する事業者が地域内で広がりのある運営を展開する必要があります。

担い手は地域企業に期待

国土交通省は2024年1月、「地方公共団体における既存ストック活用(スモールコンセッション等)のポイントに関するウェビナー」を開催しました。ここでは福岡県田川市の事例が紹介されました。2014年に廃校となった小学校に地域交流や宿泊、起業支援などの複合施設が2017年にオープン。地元の地方創生企業が運営し、音楽活動のためのレコーディング施設やリハーサルスタジオなどミュージックコンテンツ関連産業を創出する集積拠点として活動しています。

福岡県は1970年代のフォークソングブーム期から数多くの音楽アーティストを輩出しており、田川市からも複数のミュージシャンが出ている背景があり、こうした施設作りが企画されました。同じ福岡県若宮市では、九州を拠点とするディスカウントストア大手が廃校となった小学校にAI開発センターや産直レストランを作り、地域の活性化に寄与している事例があります。

スモールコンセッション事業は廃校や空き家の利活用に焦点を当て、その担い手に地域の中小企業が手を挙げることが期待されています。地域に根差した会社やスタートアップ企業が知恵を出し合ってエリア価値の向上に努めることが求められています。

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