12.2%増の59.8兆円、2023年度の証券化不動産資産
公開日:2024/12/26
2023年度に証券化の対象となった不動産や信託受益権の資産総額は、推計で約59.8兆円。国土交通省が2024年6月末に公表した「2023年度の不動産証券化の実態調査」で明らかになりました。前年度に比べて12.2%の増加で、用途別に見ると「オフィス」「ホテル・旅館」「ヘルスケア」が増加し、「住宅」「商業施設」「倉庫」「複合施設」が減少しています。2023年5月にコロナが5類に移行して人流が回復、オフィス街に人が戻り、旅行需要や訪日客も回復傾向を見せる一方、物価高と相次ぐ値上げで買い控えが強まり、商業施設などの新規開設が低調になったものとみられます。
図1
国土交通省「令和5年度『不動産証券化の実態調査』」より作成
「オフィス」「ホテル・旅館」「ヘルスケア」が増加
証券化で取得された不動産は、賃貸収入を得ることで高い収益を期待できるオフィスビルを筆頭に様々な施設となって社会に貢献しています。2022年度の「オフィス」シェアは前年度比6.5ポイント低下していましたが、2023年度は0.4ポイント増加しました。2020年に本格化した新型コロナウイルス感染症が次第に下火になり、2023年5月に季節性インフルエンザと同じ「5類感染症」に引き下げられたことで、人流が回復したことが数字に表れています。また、テレワーク中心の勤務形態から従来型の出社方式に戻す企業が増え、コロナ禍で抑制されていたオフィス需要が喚起されたと思われます。
「ホテル・旅館」は前年度比6.8ポイントと用途別では最も高い増加になりました。5類移行で人の移動が活発になり、インバウンド需要が戻ったことを反映しているものと思われます。観光庁がまとめた調査によれば2023年1~3月期の訪日外国人の旅行消費額は約1兆円で、コロナ前の2019年1~3月の9割まで回復していました。2023年11月には政府観光局の調査で訪日客数244万人と6カ月連続200万人を突破、コロナ禍前の同時期と同じ水準を示しました。
「ヘルスケア」は0.1ポイントと僅かながらプラスに転じました。ヘルスケア事業は、介護保険を軸とする国の社会保障制度に依存しており、介護人材の不足なども相まって運営が厳しいのが現状です。そのため需要は高いものの、他の施設のように一気に増加する施設ではありません。ただ、2018年頃から次第に証券化されるようになっており、新型コロナウイルス感染症が本格化した2020年には4.1%と最も高いシェアを記録しています。それ以降はこの3年間で2%台を続けており、証券化の対象として認知されてきたといえるのではないでしょうか。
図2
国土交通省「令和5年度『不動産証券化の実態調査』」より作成
「住宅」「商業施設」「倉庫」「複合施設」が減少
2023年度に減少したのは、「住宅」(前年度比0.2ポイント減)、「商業施設」(3.6ポイント減)、「倉庫」(0.8ポイント減)、「複合施設」(1.9ポイント減)。住宅はオフィス、倉庫とともに証券化不動産の中心です。マンションが主要な物件と思われますが、微減の減少幅に留まっています。倉庫は2020年に33.2%と過去最高の値を記録しましたが、その後の3年間は減少が続いています。物流の「2024年問題」を受けて来年度にどのような数値になるのか、注目されます。流通量は増えているのに対し、それを運ぶ人材の不足とコスト増が指摘されています。倉庫業は保管残高と入出庫における手数料が収益の源泉。この両輪をバランスよく取って経営していくことがカギになりそうです。
オフィスは入居者である企業が一定程度長期間にわたって契約を更新するため収益性は高いですが、商業施設は小売が中心で消費者の嗜好や流行に左右されがち。オフィスに比べて賃料リスクが高いとの指摘があります。新型コロナウイルス感染症拡大時の2020年は落ち込み、その後回復して2023年にはまた下降するなど浮き沈みがあります。
複合施設は、一般的には一定の敷地内に商業・住居・文化など異なる機能を持った施設を有している物件を指します。ショッピングモールのような商業複合施設、図書館やスポーツ施設を併設している公共複合施設、保育所などの児童向け施設と高齢者用の老人ホームなどが同じ敷地内にある福祉複合施設などに分けられます。2022年度には大きな伸びを見せましたが、2023年度は減少に転じました。
不特事業の取得件数は過去最高の1,350件、大阪は万博で3割増?
リート(私募リートを含む)と不動産特定共同事業で取得した件数は全国で1,350件と6年連続で過去最高を更新しました。来年4月に迫った万博のホテル建設ラッシュの影響でしょうか、大阪府は130件と前年比31%増。東京都の伸び(6.5%)を大きく上回っています。神奈川県や埼玉県は取扱実績が減少していますが、東京都を中心に大阪府、千葉県、愛知県などの大都市圏の証券化は増加傾向にあり、活発な展開を見せています。
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国土交通省「令和5年度『不動産証券化の実態調査』」より作成