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コラム No.171-1

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不動産デジタル証券(ST)の動向【1】不動産の金融商品化・流動性向上に寄与する不動産ST(セキュリティ・トークン)

公開日:2025/09/30

近年、民間が発行する電子マネー、暗号資産、キャッシュカード、ポイントサービスなど、さまざまなデジタル化された金融商材が増えています。また、Stable Coin(日本銀行等が発行する日本円などの法定通貨と連携するように設計された暗号資産をデジタル化する中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)」)構想の議論も各国で進められています。今回は、そのようなDX(デジタル・トランスフォーメーション)の流れの中で、不動産のような裏付け資産の金融商品取引に対し、デジタル証券手法を活用する動きについて、概観してみます。

デジタル証券(ST)とは

デジタル証券(ST:Security Token)とは、ブロックチェーン(分散型台帳技術)などを用いてデジタル形式で発行や取引を可能にした有価証券のことで、国内では2020年に施行された改正金融商品取引法において「電子記録移転権利」として法制度化され、金融機関等で取り扱いが始まりました。
従来型の証券では、証券会社等仲介事業者を介して、証券の発行や取引履歴情報を管理する台帳(データベース)を集中管理するため、比較的に安全で確実な運用が可能ですが、迅速な決済処理には限界があり、また取引時間が制限されるなどの課題があります。
それに比べてデジタル証券では、株主等証券所有者が分散して、参加者自身の端末で台帳(分散型台帳)を管理し、証券の発行、取引、保有などの情報は一度書き込むと削除や上書きができないシステムになっており、新しい情報(ブロック)は後ろに鎖(チェーン)のようにリアルタイムで書き足されていきます。このように全ての取引履歴台帳を参加者相互で共有し自由に閲覧することができることから、相互監視することにより不正や改竄が難しくなります。また、一度登録されると、参加者同士の相対取引が可能となり、取引ごとに金融機関など第三者を介在させる必要がなくなるため、証券の発行や取引が費用的にも時間的にも効率的となり、小口発行や即時決済が行いやすく、取引時間の制約もなくなるという特徴があります。
それでは、以下では不動産取引におけるデジタル証券(ST)の活用について見てみます。

不動産デジタル証券

不動産デジタル証券(以下、「不動産ST」)とは、上記のデジタル証券手法を用いて不動産所有権を小口化した不動産投資サービスのことです。不動産STによって、大型不動産に対して複数の投資家が少額(10~100万円程度)から投資することが可能となり、不動産運用によって生み出された利益を投資額に応じた配分で受け取ることができます。不動産運用は不動産専門事業者が行い、取引はデジタル証券として自動化されるため、不動産運用期間中において、不動産STの投資家は手間をかけずに配当を得られる仕組みです。よって、従来手法では機関投資家や資産家に限られていた優良な不動産に対する投資でも、専門的な知識を持たない初心者が小額から利用しやすい投資サービスとなります。
同様に、不動産所有権を小口化したサービスとして、Jリート(不動産投資信託)や不動産クラウドファンディングなどがありますが、不動産STとの違いは以下のようになります。

  不動産ST 現物不動産投資 Jリート 不動産クラウド
ファンディング
投資対象
不動産選択
可能 可能 原則不可 可能
最低投資金額 小さい 大きい 小さい 小さい
株式市場による
価格変動リスク
小さい 小さい 大きい 小さい
課税方式 申告分離課税 総合課税 申告分離課税 総合課税
運用期間 中~長期 中~長期 短~長期 短~中期

その他にも、不動産特定共同事業(FTK)との複合システムとして、不動産特定共同事業者がデジタル証券を発行し、特定の不動産に対する資金調達を行う「不特ST」という手法を用いた投資サービスも、今後は活用事例が増えそうです。 不動産STの制度化により、不動産の小口化、流動化がさらに進み、個人が投資可能な範囲で、投資目的(収益を確保しながら都市開発やまちづくりへ参画するなど)に応じた選択肢の幅が広がることで、遊休不動産の活性化や地域再生が促進されることに期待がもてそうです。

不動産STの今後の動向

不動産ST市場は、2021年に販売が開始されて以降、急速に成長しています。また、2023年には「大阪デジタルエクスチェンジ株式会社(ODX)」がデジタル証券向けの取引所「START」を開設するなど取引の拡大が期待され、今後も順調な発展が予測されることから、注目される新市場でもあります。
現在、不動産ST商品を開発・運用している事業者は、それほど多くはありませんが、野村グループ、Kenedix(ケネディクス)、SBIグループなどが手掛けています。

金融市場経済が主流となりつつある中、不動産市場等のデジタル化には各分野の連携が不可欠です。国内で言えば、金融市場の安定を監視する財務省、不動産の流動化と保全を監理する国土交通省、IT・AI産業を振興する経済産業省などの協調が必要ですし、それら省庁が監督する官民の連携強化が、今後は重要になってくるでしょう。

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