大和ハウス工業株式会社

DaiwaHouse

土地活用ラボ for Biz

土地活用ラボ for Biz

コラム No.76-3

CREコラム

不動産証券化の実践的活用(3)開発型の不動産証券化

公開日:2019/06/28

開発型の不動産証券化は、資産流動化型や資産運用型のように既存の不動産を対象にしたものではなく、これから建設を予定している不動産を証券化して将来のリターン(利益)を得ることを目的にしています。近年、都内の一等地に複合商業施設として高層ビルが林立していますが、開発型証券化によってプロジェクトが進行したものが少なくありません。

資金不足でも証券化が可能

例えば、A社が不動産開発事業をするため、首都圏のベッドタウンに新たな商業施設を建設する計画を進めているとします。既に土地の購入資金は確保していますが、建築資金が不足しています。こうした場合、A社がSPC(特別目的会社)を設立して建築資金を調達するために不動産証券化を行います。A社はSPCに出資金を出し、SPCは銀行から融資を受けます。 エクイティ(出資)とデット(銀行融資)により、建築資金を調達するのです。商業施設が竣工し賃料収入が入ってくれば、SPC(=A社)は、銀行融資を返済したうえで、出資者(=A社など)に配当を分配することができます。証券化の期間が終了したら、SPCは商業施設をA社に売却して銀行借り入れを返済し、残った収益は投資家(A社など)に分配します。

事業の計画性、将来性をチェックすることが重要

国土交通省が毎年公表している「不動産証券化の実態調査(2017年)」によると、開発型の証券化は、件数では2006年、金額では2007年にピークを迎えましたが、翌年のリーマン・ショックで急降下しました。しかし2014年を境に上昇に転じています。都心部では、訪日外国人の増加を見込んだ商業施設の増床や、1970年代の高度成長期から1980年代のバブル景気に建てられたオフィスビルなどの老朽化で、東京・大手町などオフィス街での再開発など、「都市再生」が増加していることが背景にあると思われます。

図1:開発型証券化の実績

「不動産証券化の実態調査(2017年)」(国土交通省)より作成

開発型の証券化は、投資家から見れば、開発中のプロジェクトに資金を投下することになります。また、銀行にとっても、これからスタートする再開発事業がはたして成功し軌道に乗るのかを適切にチェックしなければなりません。判断を誤れば、その融資は不良債権化し、大きなリスクを負うことになります。したがって、開発型証券化は、大半の場合、将来の収益を保証する不動産開発事業の計画が対象になります。

そのためには、事業を統括するSPCは不動産開発事業計画を入念にチェックし、プロジェクトが進行中であっても、問題があれば迅速に対応することが求められます。例えば、開発する土地に歴史的にも貴重な埋蔵物が見つかり、調査・保存するために調査研究機関が長期間作業に入り、開発事業が一時中断することがあります。このような場合の対応も事前に予測して適切な対応ができるようにします。事業開発のための各関係機関への許認可も重要な仕事。プロジェクトの遅延は事業の最も大きなリスクの一つになります。周辺住民への配慮も欠かせません。

図2:多くのリスクチェックが求められる開発型証券化

今後も大型複合施設の建設で増加する

前述したように、開発型の証券化は、東京などの都心部で増加している「都市再生」事業で採用され、プロジェクトが増加しています。 2007年に開業した東京の大型複合施設は、防衛庁の移転を契機に一等地の売却、再開発が進んだ国有地跡地の都市再生事業です。国は土地売却で売却益を得て財政に寄与し、再開発事業者は多くの施設を一カ所に集中させて付加価値を付け、収益を得ました。この開発は開発型証券化のモデルケースになったともいわれています。

ただ開発型証券化の事業主体は、このケースのように大手の不動産業や不動産開発業者、機関投資家である大手生命保険などの大企業が中心です。大都市のど真ん中の一等地を国から譲り受けて再開発するので、事業計画を立案し進行させていくには、上場会社など信用力の高い企業が担い手の中心になります。 一方、地方では遊休不動産は潤沢にあるものの、人口減少や少子高齢化で不動産開発は容易に進んでいないのが現状です。 2017年度の不動産の取得実績を見ても東京都が40%と圧倒的に多く、神奈川・大阪との差は歴然としています。地方で開発型の証券化が進まないのは、住居、商業施設において賃料市場が弱く、案件の事業規模が少額で、証券化してもコスト分の回収が厳しいとの判断が背景にあると思われます。また、地域金融機関に証券化のノウハウが乏しく、事業計画はあっても資金調達のメドが立ちにくいとの指摘もあるようです。

図3:都道府県別の不動産取得実績(2017年度の取得件数の割合)

「不動産証券化の実態調査(2017年)」(国土交通省)より作成

しかし今後一層本格化する高齢化社会では、介護施設などヘルスケア関連の開発事業は将来性があるのではないでしょうか。民間の不動産開発業者の中には、市民が拠出するファンドを組成し、サービス付き高齢者住宅の開発を展開しているところもあります。また、流通大手が地方で運営するショッピングセンターは地域の町おこしに貢献しており、地方での不動産開発は将来性がないわけではありません。地域金融機関など多くの関係者を取り込み、採算性を重視した事業計画を採用し、大都市のような資金でなく小規模の資金規模で展開すれば、地方での開発型証券化は増えていくのではないでしょうか。

  • 前の記事へ前の記事へ
  • 次の記事へ次の記事へ

メールマガジン会員に登録して、土地の活用に役立つ情報をゲットしよう!

土地活用ラボ for Owner メールマガジン会員 無料会員登録

土地活用に役立つコラムや動画の最新情報はメールマガジンで配信しております。他にもセミナーや現場見学会の案内など役立つ情報が満載です。


  • TOP

このページの先頭へ