CREコラム・トレンド
注目される「関係人口」とは何か
公開日:2020/08/31
人口減少や少子高齢化が進み、地域の発展を担う人材の不足が課題になっています。すでに住んでいる人や観光客でもない、地域の新たな人材といわれているのが「関係人口」と呼ばれる人々。新たな国土形成の中で注目を集めている人口群について考えてみます。
何らかの「関係性」を持った人々を指す
関係人口とは移住者と観光客の中間概念で、2017年ごろから使われだした新語です。国が進める地方創生の新戦略の柱として2019年5月、短期滞在やボランティアなどの形で継続的に地域と関わる人々の総称として登場しました。
国土交通省では「日常生活圏、通勤圏、業務上の試写・営業所訪問等以外に定期的・継続的に関わりがある地域があり、かつ訪問している人(地縁血縁の訪問を主な目的にしている人を除く)」と定義しています。
図1:三大都市圏における関係人口の推計値
国土交通省「関係人口の実態把握」(2020年2月18日)より作成
国土交通省が2020年2月に発表した東京・大阪・愛知の三大都市圏で暮らす人約2.8万人に聞いたアンケートでは、「聞いたこともなく、よくわからない」と答えた人が7割を超え、まだまだ知名度は低いようです。
また、アンケートでは、三大都市圏の日常生活圏、通勤圏以外の地域との関わりを調査し、その結果をもとに推定値を公表しました。(調査対象地域の18歳以上の人口、約4678万人に基づき、男女比率及び年齢構成を踏まえて拡大推計を実施)
それによると、ボランティアなどで地域に直接関わりを持ったことがある人(直接寄与型)や、テレワークなどで地域の企業で従事している人(就労型)など、訪問系の「関係人口」が合計で1000万人いることがわかりました。
国土交通省の調査が三大都市圏の人を対象にしているのは、地方の活性化のために都市部で暮らす人々を何らかの形で結び付け、できる限
り多くの人々が地方に定着することを念頭に置いているからです。
まだまだ多くの人々が関心を持つには至っていないため、国土交通省と総務省を中心に国が「関係人口」という概念の知名度を上げることに
議論の時間を割いているのが現状で、用語を定義し議論の展開を見定めながら施策を決めるための方向性を模索しています。
訪問系の関係人口の中で最も多いのは「趣味・消費型」。地域との間で地縁や人縁がなく、飲食や趣味を通じて特定の地域と繋がっている
人々です。ご当地名物の食事が目的で特定地域に訪問する人や、定期的に陶器つくりのため窯元を訪れる人々などを指しているとみられます。「参加・交流型」は、毎年開催されるコンサートなどが中心と思われ、リピーターが多く一定の実績があるようです。一方、就労型は地方の就業機会が低迷しているため4%と伸びていません。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で新たな課題にぶつかる
都市部で暮らす人々の地方への移動を促進させる関係人口の増進活動ですが、新型コロナウイルスの感染拡大で、訪問系の関係人口の人々の行動が大きく制限されることになりました。コロナによって地域への訪問を自粛せざるを得なくなったからです。
そこで新たな課題が生まれました。移送自粛の中で実行できる関係人口の増大は何かという観点から「オンライン関係人口」の拡大が議論の
テーマに入ってきました。
多くの人々は、実際に移動するのではなく、インターネットやSNSを通じてバーチャルな移動を行う機運が生まれました。「オンライン飲み会」や「オンライン宿泊」「オンライン帰省」などが人気を呼んでいます。こうしたインターネットを活用したコミュニケーションの活性化は、関係人口の拡大の点から見ると、「冷やかし的な関係人口は脱落する」(国土交通省2020年7月「ライフスタイルの多様化と関係人口に関する懇談会」における今後の論点について)との指摘があるように、オンライン上でも関係性に意味を感じる人たちも多く存在していることの証拠でもあり、関係人口の拡大にはむしろ好機ととらえています。
こうしたオンラインによる疑似体験は、都市部とは違った魅力を地域に感じ取る人々を増やし、コロナが終息したときに新たな関係人口を生み出すかもしれません。
不動産業界にも少なからぬ影響をもたらす
関係人口は、不動産業界に少なからぬ影響を与える可能性があります。人の移動は、住まいと密接に関係してくるからです。人口に関しては、出生率や死亡率などで増減をみる「自然増減」のほか、地域から地域への転入出を数値観測する「社会増減」があります。人の移動は、社会増減に跳ね返ってきます。都市部から地方への移住や交流が増えると、生活拠点の変更や一時的な住居移転が発生します。このため、新たな住居ニーズが出てくる可能性もあります。
これまで、多くの人々にとって都市と地方を結びつけてきたのは、地縁・人縁でした。しかし、ライフスタイルの多様化で都市部と地方の2つの地域に居住してみたいと考える人が増えれば、これまでの別荘やセカンドハウスとは異なる、新しい形態の住居スタイルが生まれるかもしれません。