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建設業法改正 新たな取引ルールがスタート
公開日:2020/10/23
2020年10月から建設業法の一部改正が施行されました。建設現場における長時間労働をなくす狙いから、著しく短い工期を禁止するなど働き方改革の要素を取り入れました。法改正は建設業における担い手育成を軸に行われたもので、労働環境の整備を進めて建設業に新たな労働力を注入することに力点が置かれています。
新・担い手3法の成立
今回の建設業法改正は、関連する他の2つの法律の改正と共に一体的に見直されたものです。人口減少や少子高齢化により労働者人口が年々減っており、あらゆる業界で働き手の不足を解消することが喫緊の課題になっています。とりわけ建設業は災害から国土を守り、暮らしの拠点を支える担い手として、その重要な役割は変わることがありません。それどころか、近年は1年を通じて豪雨や土砂崩れによる河川や砂防の決壊などの自然災害が人々の生活を脅かしており、国土強靭化に向けて建設労働者が担う役割は年々増しています。
建設業は、大工や左官など特殊技能を身に付けた職人の現場力が不可欠です。熟練者に育つには長年の経験が必要で、技術の継承も大事な世界です。しかし休日も少なく給与なども他産業に比べて低いため必ずしも魅力のある業界になっておらず、若年層の人材が不足しています。一方、近年は各地で自然災害が多発。家屋や河川の復旧工事に携わる専門技術者の数が不足しているために、災害からの復興が遅れている現実があります。
こうした状況を改善するため、国は2014年に建設業界の新たな担い手を確保する目的で、関連する3つの法律を一体的に改正しました。公共工事品質確保法(品確法)、入札契約適正化法(入契法)、そして建築業法です。これを「担い手3法」と呼びました。そして同法の施行後5年に新たな枠組みをつくりました。それが「新・担い手3法」で、今回の建設業法改正はこの中に含まれています。
図1:(年齢階層)年齢階層別の建設技能労働者数
国土交通省「新・担い手3法の成立など最近の建設業を巡る状況について」(2020年8月)より作成
労働環境の改善が急務
国土交通省は、建設業界の労働者で25%を占めている60歳以上の高齢者(82.9万人)は、10年後には大量に離職すると見込んでいます。一方、これを補う30歳未満の若い人材は36.5万人と11%のシェアで、このまま推移すれば確実に人材不足に陥ります。建設業に携わる技能者の賃金は、45歳から49歳でピークを迎えるとの結果が出ていますが、国交省は「体力のピークが賃金上昇のピークと重なっている側面があり、技能者のマネジメント力などが十分に評価されていない」と指摘しています。また、他の産業では既に定着している週休2日が取れていないのが実情です。年間の実労働時間も全産業の平均(2018年度1697時間)と比べて300時間以上長く(2036時間)なっています。
図2:建設業における休日の状況(技術者)
国土交通省「新・担い手3法の成立など最近の建設業を巡る状況について」(2020年8月)より作成
わが国の中小企業で最も会社数が多い業種が建設業界。元請けから協力会社、いわゆる下請け会社まで重層的に繋がっており、業界特有の構造になっています。2018年の調査で社会保険の加入率を見ると、雇用保険・健康保険・厚生年金の「3保険」の加入率は、元請け企業が98.4%であるのに対し、1次下請けは97.2%、2次下請けが94.3%、3次下請けが90.5%と下位になればなるほど加入率が低くなっています。
短い工期の禁止や親子での事業承継など盛り込む
建設業法改正では、発注者(元請け人)と受注者(下請け人)における「法令順守のガイドライン」を改定しました。例えば、建設工事の発注者は建設工事契約において「著しく短い工期」を結んではならないことになりました。工期を短くすればその分完成は早まりますが、手抜き工事や事故の発生に繋がりかねませんし、1日の労働時間が長時間化することが避けられません。
また、建設工事における休業日を請負契約内容に盛り込むことになりました。建設労働者の休日確保が狙いで、下請会社の労働者に対する就業環境の改善を図ることで、今後新たな労働力を生み出す狙いがあります。
建設工事における請負代金のうち労務費は、元請けは下請けに対して現金で支払うよう配慮することとなりました。これは社会保険料の加入と関係があります。労務費は建設工事に従事する者の賃金や社会保険料に充てられるべきものです。これが手形で支払われた場合、下請会社は金融機関から現金を別途調達することになり、余分な借り入れコストが生じます。下請会社の保護の強化を図る狙いです。
社会保険の加入に関しては、建設業許可の取得において要件化されることになりました。既に業務許可を得ている業者も、5年に一度の更新時には加入していない場合に許可を失うことになります。
建設業は国内で最も企業数が多い業界だけに、高齢化社会の進展による後継者問題は、どの業種にもまして深刻です。従来の建設業法では建設業の新規申請は企業合併などの場合を除いて、原則認められていませんでした。また申請しても長い場合は4か月ほどを要することがあり、許可の空白期間がありました。これを改め、新たに承継制度を設けました。これにより、空白期間が生じることがなくなりました。加えて親子に限って相続が認められ、事業承継が可能になりました。
近年は全国各地で災害が多発しており、建設現場に従事する働き手の不足は地域振興の遅れに直結します。こうした担い手に対する「働き方改革」は、地方創生、地域再生にも不可欠な取り組みといえるのではないでしょうか。