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コラム No.126

CREコラム・トレンド

期待されるリースバック

公開日:2022/02/10

保有している住宅を売却した後も賃貸で住み続けられるリースバックが近年増加傾向にあります。老後の余裕資金確保や住宅ローンの早期返済として利用されていますが、住み替えの円滑化にも繋がるほか、中古物件など既存住宅の流通市場の活性化にも寄与すると期待されています。

売却と同時に賃貸借契約を結び継続居住

リースバックは「セール・アンド・リースバック(sale-and-leaseback)」の略で、売却と同時にリースするという意味です。居住している不動産を不動産会社などの第三者に売却するとともにリース契約を結び、自宅を売却したうえで賃貸物件としてそのまま住み続ける仕組みです。最近では本社ビルをリースバックし、継続してテナント使用する企業も増えてきました。企業の場合は管理コスト軽減のほか、資産売却によるROA(総資産利益率)向上の狙いもあります。

住宅の場合、売主は不動産会社などの買主との間で売買契約を結んで買い取り代金を一括して受け取ると同時に賃貸借契約を締結し、そのまま継続して居住します。住宅の所有権は買主に移転して失うことになりますが、新居を購入するための資金調達や新居に移り住むまでの短期的な仮住まいとしても利用することができます。あるいは、入居が難しい高齢者専用施設の順番待ちをしている期間に利用し、入居が決まったら入居一時金の支払いにあてるなど、用途は広がっています。

国土交通省住宅局の調査によると、リースバックの取引件数(買取+仲介)は2016年の266件から2018年には920件と2年間で約3.5倍に伸びています。これは持ち家比率の高い世代が高齢化して老人ホームなどの施設に住み替えるといった需要が拡大していることが背景にあります。親が建てた自宅を次の世代が引き継がないため、円滑な相続手段として用いられているとの指摘もあります。

図1:リースバックにおける取引件数の推移

国土交通省住宅局「消費者向け「リースバック」ガイドブックの策定に向けた検討を開始します~第1回消費者向けリースバックガイドブック策定検討会の開催~ 別紙1

国が認知度向上へ手引書を策定

主に高齢者の利活用が多いリースバックですが、認知度は必ずしも高くありません。相続前の不動産処分の選択肢として注目を集めて以来、新規参入する業者が増加し、それに伴いトラブルが増えています。独立行政法人国民生活センターが2021年6月に公表した報告書によれば、「長時間の勧誘を受け、説明もなく書面も渡されないまま強引に売却契約をさせられた」(80歳代・女性)、「売却後、住宅のシロアリ駆除費用の負担を求められた」(70歳代・男性)といった相談事例が寄せられています。

リースバックは売却後もそのまま住み続けられるほか、将来買い戻すことも可能で、メリットは少なくありません。しかし家賃は相場に比べて割高になる一方、買取価格は通常の売却に比べて割安感があり、逆に買い戻しの際には売却時よりも高くなる傾向にあるといわれています。不動産会社にとっては自由に売買できない「特殊物件」であり、買い戻し特約などさまざまな制約があるためだといわれていますが、自宅売却という売主側の差し迫った事情を反映して買い手市場になっているのかもしれません。

リースバック契約には期間の異なる普通賃貸借契約と定期賃貸借契約の2種類があり、所有権移転に関わる登記識別情報や印鑑証明書の添付など必要書類の準備も必要になり、事務手続きはやや面倒になります。こうした契約作業の過程や新規参入業者の競合などにより、契約者と業者とのトラブルが相次いでいるとみられます。

国はこうした実情をかんがみ、2021年12月にリースバックに関するガイドブックの策定に向けた検討会を開きました。3回の検討会開催を経て成案を得る予定です。

リバースモーゲージとの違いは?

自宅を売却して老後資金を得る手段はリースバックのほかに「リバースモーゲージ」(Reverse Mortgage)があります。リバースは「逆」、モーゲージは「抵当・担保」の意味で、住宅を担保にして金融機関から融資を受けることです。通常は融資を受けて自宅を購入しますが、その場合も自宅が担保になっています。住宅ローンは返済していけば借入残高は徐々に減っていきますが、リバースモーゲージでは逆に借入残高は増えていきます。最終的(借主の死亡など)には売却を前提にしており、毎月の借り入れがいわば老後資金になる仕組みです。

リースバックでは借り入れはなく、所有権は移転しますが資金使途は比較的自由です。リバースモーゲージは借り入れの形を取り、所有権は移転しませんが最終的には売却することになります。また資金使途は生活費などに限られます。前者は不動産取引で後者は金融サービスと言い換えることができるでしょう。リバースモーゲージは主に都市部の戸建てやマンションなど資産価値の高い物件を対象にしています。不動産評価額が変動するリスクがあり、一般的には死亡時までの長期間借り入れになるため、年金収入の最低額や年齢制限など利用のハードルが高いのが難点といわれています。

1981年に国内で初めてリバースモーゲージを導入した東京都武蔵野市では、「福祉資金貸付制度」として事業を展開してきましたが、利用率が低下し民間金融機関で同種のローンが取り扱われていることなどを理由に2015年に事業を終了させました。リバースモーゲージは契約期間を超えて長寿だったり、担保価値が下がったりすると借入額も減り担保割れのリスクも出てくるなどのデメリットがあります。

リバースモーゲージも高齢化社会に対応した金融商品ですが、資金使途など使い勝手の点ではリースバックに軍配が上がります。また住み替えニーズが高まれば、既存住宅の市場価値が上昇します。わが国では欧米に比べて「新築至上主義」が強い傾向にあります。高齢化対応ニーズだけでなく、中古住宅市場の活性化に寄与するリースバックの健全な発展が望まれます。

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