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地方銀行が古民家再生に注力
公開日:2018/04/20
地方銀行が古民家再生ビジネスに取り組んでいます。背景には、少子高齢化で利用者が減少し、低金利や景気の停滞で預金・融資・為替といった従来の金融業務だけでは業績を上げられなくなっていることがあります。特に、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫は、地元に住む利用者の暮らしや地域に根差す中小企業の成長に貢献することが求められているだけに、地域の活性化は重要な経営課題になっています。
地方ではいま、長年手入れをされなくなった戸建ての住居が増えたり、高齢者が健康上の理由から子息が住む都心部に転居し、持ち家を手放したりするケースが多くなっています。このため、若い世代が都会に移り住むなど人口流出が目立つ地方では、人口減少はますます顕著になっています。
こうした状況では、地域密着を標榜してきた地銀などの地域金融機関にとっては、地域経済が疲弊して融資が伸び悩むだけでは済みません。個人の利用者そのものの数が減り、従来型の金融ビジネスが通用しなくなっているのです。
金融庁は2002年、メガバンクグループに対して、不良債権の早期処理を目指す「金融再生プログラム」を公表しました。この時、地銀など地域金融機関に対しては、地域経済の発展に積極的に関与するよう求めました。これをリレーションシップバンキングと言います。リレーションシップバンキングの推進は2008年でいったん終了しましたが、地域金融機関が地域経済と密接な関係を長く続けるというのは、ごく当然のことなので、金融庁は絶えず求めています。
「リレバン」の一環としての古民家ビジネス
2014年に安倍第二次政権が「地方創生」を掲げると、リレーションシップバンキングの継続的な推進は、より具体的な施策として国(金融庁)からこれまでに比べて強く要請されるようになりました。同年、「歴史的資源を活用した観光まちづくりタスクフォース」が設置され、地方に広く存在する古民家を活用した魅力ある観光まちづくりを推進する方策を検討する組織ができました。これ以降、地銀の古民家再生ビジネスが本格化していきます。
地銀64行が加盟する全国地方銀行協会では、各行の古民家の歴史的資源の活用支援への取組みを取りまとめたWebサイトを随時更新しており、これまで36行の事例を公表しています。例えば、山陰合同銀行(本店=島根県松江市)は、200年前に建てられた武家屋敷を後世に残し、将来の貴重な地域資源として有効活用することを狙いに、結婚式場や宿泊施設として利用できるオーベルジュ(郊外にある宿泊施設付きレストラン)として古民家をリノベーションしたことが紹介されています。
銀行は他業禁止で事業拡大が難しい
規模の大きい企業が少ない地方では、地方銀行は絶大な存在感を誇ります。地方自治体の指定金融機関で地域経済に対する影響力は大きく、「殿さま銀行」と呼ばれてきました。しかし、銀行はメガバンクも地銀も、預金・融資・為替などの金融業務以外は、原則として禁止されています。これを他業禁止規定と言いますが、巨大資本を背景に優先的地位を利用して業務を展開すれば、どんな業種においても不公平な競争が生じるからです。
このため、銀行はクレジットカードやリースなど銀行業務に関連した業務を除いて、他業種に参入することは禁じられています。不動産業も例外ではありません。不動産は、銀行がこれまで金科玉条にしてきた「担保融資」の代表的な担保です。銀行が最も進出したい業種のひとつが実は不動産業ですが、信託銀行を除いて現在も禁止されています。
古民家再生ビジネスは、老朽化した民家を改築したりして歴史的な建造物にして観光スポットにしたり、宿泊や食事もできるようにして観光業としての第一歩を踏み出す端緒にもなります。同時に、古い民家ですが融資の際には担保評価したりするなど不動産の知識やノウハウを蓄積でき入る点で、不動産業への入り口になるかもしれません。
REVICなどと連携して古民家再生融資を展開
地方銀行が古民家再生を展開するには、まだまだ多くの課題があります。ひとつは担保評価をして融資をすること。築50年以上経過した民家の担保評価は低いと言われています。江戸時代に作られた民家などは歴史的価値がありますが、残存しているとしても傷みが激しく、修復には多くの費用がかかります。築30年、40年では中途半端に古く、担保としての価値がどれくらいあるのか疑問です。これまで担保を必ず取ってガチガチの融資をしてきた銀行には、柔軟な担保評価が求められます。
このため、古民家再生融資は独自の融資枠を設けたり、地域活性化支援機構(REVIC)などと提携してファンドを組成しています。また、古民家再生を専門にしている民間企業と提携している地銀も目立ちます。
「歴史的資源を活用した観光まちづくりタスクフォース」では、REVICが持つ投資ノウハウや人材支援を活用し、2020年までに全国で200の古民家再生の取り組みを目指しています。我が国は、2020年の東京五輪開催に4000万人の訪日外国人を目標にしています。近年は、東京・大阪などの都心部や京都・奈良などの代表的な観光地だけでなく、観光対象地域が全国に拡散する傾向が目立っています。古民家再生ビジネスを展開する地方銀行の取り組みは、今後ますます注目されるでしょう。